2020年06月11日

流浪の月/凪良ゆう

 休館明けの市立図書館からの比較的早い呼び出しのメール。 予約本が来ましたよ、とのこと。 出掛ける日に合わせて取りに行く。 本年度本屋大賞受賞作として一躍脚光を浴びていますが、あたしが予約を入れたのは受賞よりもずっと前。 だからこのタイミングで借りることができたのだろうと思う。 本屋大賞が決まってからなら、予約も相当待たされることになってるかも・・・。
 日本人の初めて読む作家には躊躇いがなくもないんだけど、ひいきの出版社である東京創元社がイチオシだということで気になってました。

  流浪の月.jpg 「あ、だから表紙に3スクープのアイスクリームなのね」と読了後納得。
 これはあらすじを言うのが非常に難しい。 何を言ってもネタバレというか、先入観になってしまいそうだから。
 それぞれの事情により孤立する魂が出会い、互いに救いを求めるのだけれど、社会情勢や世間の目がそれを許さず、更に孤立してしまう人たちによる、「孤立したって、一緒にいられればそれでいい」という結論に辿り着くまで。

 本作は佐々木丸美『雪の断章』・桜庭一樹『私の男』・V.C.アンドリュース『屋根裏部屋の花たち』らの系譜につながる位置づけになるのではないか・・・勿論物語は同じではないですが、心の傷(トラウマ)を抱えた主人公がカウンセリングなどものともせずに自分の信じるところにまっすぐ向かっていまう・・・というところに通じるものがある。 これらを読む年齢・自分の状況によりぐっとはまってしまい、忘れられない一作になるタイプ。
 あたしは、思春期に『雪の断章』を読んだので・・・これがあたしに与えた影響は書ききれないくらい。 うまく言語化できないほどに自分の中に入ってしまっているので、あたしには『流浪の月』は『雪の断章』ほどではなかった。 でも、思い出させてくれた。 だから、そういう作品を読んだことのない人にとっては、『流浪の月』はあたしにとっての『雪の断章』になるくらいのポテンシャルを秘めているのではないか。 内容もネット社会の生きづらさが描かれてますし、若い人向け・あまり文芸書を読んでいない人向けか。
 まぁ、それこそ本屋大賞にふさわしい作品なのかもしれません。
 もうおばさんであるあたしにはちょっと物足りなかった・・・現実のいちばん厄介な部分をスルーしてる感じがあったから。
 『流浪の月』というタイトルも、もうひとひねりほしかった。 「目立ってどうする」なのかもしれないけれど、他のどれにも似ていない、唯一無二のタイトルだったらまた印象が変わったかもしれない・・・。
 結局、3・4時間ぐらいで読んでしまった気がする。 類型っぽいところがあったので早く読めた。 書かなくてもわかるところは書かなくてもいい、書いていないところをもっと掘ってもよかったのでは?、と思ってしまうのは長い海外ミステリばかり読んでいるせいか・・・。
 そんなに親しくはないけど、それなりに会って話す人についてどういう距離感がいいのか、割と考えているつもりだったけど、これ読んで更に考えてしまう・・・。

ラベル:国内文学
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2020年06月07日

アンドロメダ病原体 ‐変異‐ /マイクル・クライトン&ダニエル・H・ウィルソン

 あぁ、ハードカバー、読みづらい!!
 そんなことを言っていたら読めないので・・・腰を落ち着けて取り組むことに。
 『アンドロメダ病原体』の公式続編、登場。

  アンドロメダ病原体 変異1.jpgアンドロメダ病原体 変異2.jpg といってもマイクル・クライトンは一文字も書いていない。 元ネタを作ったのが彼だというリスペクトとして名が掲げられている。

 突然、宇宙からやってきて人類絶滅の危機を突きつけた謎の病原体アンドロメダ・ストレイン事件から50年。 それからずっとアンドロメダの発生を監視し続けていたグループが、ついにアマゾンの密林の中に発見した。 科学者たちによるワイルドファイア・チームが原因究明のために送り込まれる・・・。

 上下巻にわける必要あったのか、という感じだけど・・・。
 マイクル・クライトンへの敬意はものすごくほとばしっている。 それ故に、読者としては「これはマイクル・クライトンではない・・・」と思い知らされる。 似せようとすればするほど、違いがはっきりしてしまう。 マイクル・クライトンってやっぱりすごかったのね、と思ってしまう。 クライトンなら、もっと情け容赦なくなった部分もあったのではないか。
 面白くないわけじゃないんですよ。 大風呂敷度合い・ホラの吹き加減はなかなか。 うっかり子供に泣かされてしまうとか、こういうのはマイクル・クライトンにはなかった気がする。 ダニエル・H・ウィルソン独自の作としてやったほうがもっとおもしろかったんじゃないの、と感じたりもするけど、いろいろ契約が大変だったんだろうな・・・。
 そして宇宙への情熱のようなもの。 ただそれが装置にしかなっていないような・・・そう感じてしまうのは、COVID-19のさなかに自分がいるせいなのか(「うまいこと片付いたな、犠牲は出たけど」と「所詮は作りごと」と感じてしまうからなのか)。 『ホット・ゾーン』も読んでいたからか?
 期待しすぎたのか・・・今はリアリティとディテールがびっしりじゃないと、心に刺さらないのか。
 落ち着いてから読んだら、感想は変わるのかもしれない。 今のあたしには、今ひとつ響かなかった。 ISSにいるJAXAのジン・ハマナカさんが女性だとわかったとき、すごくガッカリしちゃったんだ。

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2020年06月03日

ビール職人のレシピと推理/エリー・アレグザンダー

 一作目を読み終わり、「事件はどうということはないけど、主人公の今後が引っ張るわ」と思い・・・でも4月に買ったばかりのはずの二作目が行方不明に(汗)。 まぁ、よくあることなのでそのうち出てくるわ、と引き下がっていたら、「えっ、こんなところにあったの!」とまったくの死角で見つかりました。

  ビール職人のレシピと推理.jpg なんと一作目の数週間後からスタート。
 ドイツのバイエルン地方に似ているのが売りの小さな町レブンワースで、今年もオクトーバーフェスト(ビール祭り)がやってきた。 ビール職人のわたし(スローン)は、ブルワリー<ニトロ>で新作のビールの開発に取り組んでいる。 <ニトロ>の経営者ギャレットにとっては初めてのオクトーバーフェスト。 そんなとき、ビールをテーマにしたドキュメンタリー映画の撮影隊がレブンワースにやってきた。 映画以上にドラマティックな人間模様を背負ったスタッフたちにわたしは困惑するが、その中の一人が倒れて死んでいるのが見つかって・・・という話。

 田舎町で一か月もしないうちに殺人事件が立て続けに起こり(連続事件ではない)、同じ人物が発見者というのはさすがにできすぎだろ・・・となってしまうのだが、コージーミステリ世界ではそういうことを言ってはいけないのだ。
 結局のところ、スローンの人生の過ごし方を見るというか、義父母の愛情を素直に受け止められるかに辿り着くまで(出生の秘密?についても)の話なのかなぁ、と。 だから殺人事件も起こるけど、結構どうでもいい(スローンも探偵気質ではない)。
 今回は更に新しいクラフトビールについての説明が興味深く、前作ではあまりなかった料理についての描写が多くなるのがポイントか。 手の込んだものではないんだけど、ビールを使ったマリネ液に浸しておいたソーセージを焼くとかおいしそう! オクトーバーフェストのテント内で出される料理もおいしそう(スローンは作っていない)。
 困った夫・マックについてのツッコミが足りないが(彼の言いたいことが他にもあるのだろうけど)、それもシリーズが続く前提なのか。 新しいキャラも登場したし、前作からのキャラもさらに濃くなってるし、これはこれで愛すべき世界だなぁとしみじみ。
 ビールを飲めない自分がつまんないわ、と思わされるのがちょっと寂しい。

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2020年05月24日

ミズーラ 名門大学を揺るがしたレイプ事件と司法制度/ジョン・クラカワー

 ジョン・クラカワー最新作を、「読むのもったいない(読み始めたらすぐ読み終わってしまう)」という理由から隠匿していたのを、3年半ごしぐらいに読む。 やっぱり、読み始めたら一気だった。 でも、もっと早く読むべきだったような、いや、今だからこそなんとか冷静な気持ちでいられるというか。

  ミズーラ.jpg 実物の赤さは画像以上に強烈だ。
 アメリカ、モンタナ州で第二の都市ミズーラにはモンタナ大学があり、そのアメフトチーム「グリズリーズ」(愛称グリズ)は市民の誇り。 だが2010年から2012年にかけてグリズの選手たちが起こした複数の性暴力事件が明らかになった。 巻き起こったのは被害者への誹謗中傷。 何故被害者は告発することをためらうのか、何故被害者はセカンドレイプに苦しめられなければならないのか、何故加害者は守られてしまうのか。 インタビューと取材を通して、著者はレイプ事件の真相と司法制度の矛盾に迫る。

 いやー、つらい。 ノンフィクションだからこそ、物語的着地点がない。 罪に問える場合がある一方で無罪判決が出るものもあり、だとしても被害者の苦しみはなくならないわけで、ただただやりきれない。 その事件の前に戻れないか、とひたすら思う。
 「レイプ犯の、八割以上が顔見知りである。」と帯にあるように、本書で描かれている事件の被害者と加害者は顔見知りどころか家族ぐるみでの長い付き合いであったりもする。 だから被害者側の衝撃は大きい、自分のよく知っているはずの人がそんなことをするなんて信じられない気持ちや信じたくない気持ちにも押しつぶされるから。
 しかも加害者側は市民が応援するアメリカンフットボールチームのスター選手だったりするわけで、「チーム優勝のために有力選手が逮捕なんてとんでもない。 そもそも彼らは普段からモテモテなんだから女性をレイプする必要なんかない。 女に陥れられている!」とオヤジ概念に固まった方々から擁護されてしまうという・・・ある都市のある時期を切り取っただけだけど、それは全世界のこういう問題にそのまま置き換えられるわけで。
 日本でもここ最近だけでセクハラ→性暴力の件がどれだけ騒がれたことか。 だいぶ変わっては来たけれど、それでもやはり被害者側が叩かれ、加害者側が責任を取らないことは多いので。
 誹謗中傷は恐ろしい。 何事においても「自分だったらそんなことはしない」→「そんなことをするやつがおかしい」という発想が「自分が正義」になってしまう危険、それが人を追い込むこともあると誰もが自覚しなければ。

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2020年05月18日

ビール職人の醸造と推理/エリー・アレグザンダー

 このところ重たい(後味が悪い)作品ばかり続いていたので、気分転換にちょっとさらっと読めるやつをチョイス。 コージーものはそれはそれで読み始めるとハマるんだけどさ。

  ビール職人の醸造と推理.jpg カップケーキにもクリームにもビールが使われている。
 ビールで有名なアメリカ北西部の小さな町、レブンワースはドイツのバイエルン地方に少し似ている。 ドイツ系移民の義両親は町でいちばんのブルワリー<デア・ケラー>のオーナーで、“わたし(スローン)”は<鼻>を持つビール醸造職人。 平穏な毎日に満足していたのに、ある日夫の浮気が発覚! “わたし”は<デア・ケラー>を出て町に新しくオープンする<ニトロ>で働くことにするのだが、オープニングパーティーの翌日、<ニトロ>のビール発酵槽の中に落ちている死体を見つけてしまい・・・という話。

 「ビール・ミステリ、開幕!」と帯にありますが・・・意外にも(?)ミステリ度は低め。 スローンが事件の背景を探ろうとする場面はあるけれど、それよりも自分の問題(裏切った夫への対応、里親をたらいまわされた過去からくるトラウマ、一人息子と夫の両親への愛情、ビール醸造への情熱などなど)のほうの比重が多く、自己評価の低いスローンがいかに他者の愛情や気遣いを受け入れるのかというセラピー的な一面も。
 しかし、こういう話に出てくる夫って、男性的な魅力にはあふれているが不誠実という・・・よくあるパターンなんですかね(クレオ・コイルの『コクと深みの名推理』もそんな感じだった)。
 お酒全般飲めないあたしはビールも飲まないので興味はなかったですが、クラフトビールの奥深さに触れて認識を改めました。
 フルーツやスパイスを入れてホップの香りをより引き立たせる、フルーツの味を前面に出しても後味はすっきり、とかカクテルみたい。
 しかもスローンのビールはキンキンに冷やしたものがいちばんだそうで・・・ドイツビール系なのに常温じゃないんだ、ということに驚く。 というかキンキンに冷やしてビールを飲むのは日本人だけだと思っていた。 こういうのを知るのがコージーミステリのたのしみ。

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2020年05月14日

怒り/ジグムント・ミウォシェフスキ

 「ほったらかしで読んでないシリーズもの、そろそろ読もう」大作戦の続きは、ポーランド。 <検察官テオドル・シャツキ>シリーズの三作目だが日本初訳。 シリーズ物は順番通り読みたいのはやまやまだが、よく知らない国が舞台の場合は違う順番でもいい場合もあるので(スウェーデンの<ヴァランダー警部>シリーズは、五作目の『目くらましの道』を読んでから一作目に遡ったおかげでハマった気もするし)、とりあえずこれから読んでみるか、という気になったのである。 実際は、一作目『もつれ』が見つからないからなんだけど・・・探してしまうと他の読みたいものも見つけてしまうので、まずはこれで手を打て!

  怒り1ポーランド.jpeg怒り2ポーランド.jpeg ポーランド語→英語訳からの日本語。
 2013年、冬。 ポーランド北部のオルシュティン市で白骨化した遺体が発見された。 現場に赴いたベテラン検察官のテオドル・シャツキは、ここがかつて地下の防空壕だったことから戦時中のドイツ人の遺体と考えた。 しかし検死の結果、被害者は二週間前には生きていたことがわかる。 こんな短期間で何故白骨に? 被害者の身元が判明するも、事件は奇妙な色合いを帯びてきて・・・という話。
 テイストはかなり北欧ミステリ(スウェーデン・デンマーク)に似ている。 同じヨーロッパでもフランスとは違うということか・・・しかし著者は「ポーランドのピエール・ルメートル」と呼ばれているそうな・・・ルメートルの特色はやはり「フランスっぽくない」ところなのかもしれない。 被害者の殺され方がなかなかえぐい!
 一筋縄ではいかない事件はもちろんのこと、読みどころはテオドル・シャッキというおじさんのキャラ。 「欧州一、ぼやく男」というコピーがついておりますが、これはぼやきなのかな? おじさんの思考がダダ洩れというのは面白いということなのかな。 頭の固い刑事たちが女性蔑視な発言をすると心底軽蔑するのに、自分でついそういう発言をしてしまって落ち込む姿は笑えるし、16歳の一人娘に振り回される姿はこういう仕事に没頭するあまりに家庭がうまくいかない主役にはありがち。 どれだけ仕事ができようとも人としての態度がよろしくないことの言い訳にはもうならない時代だし。
 そんなユーモアを散りばめつつも、事件のトーンは重い・・・この後味の悪さ、<ヴァランダー警部>よりも<刑事ファヴィアン・リスク>に近いかなぁ。
 下巻の帯に、「最後の一行、マジか。」、とあるのだけれど・・・いや、最後の一行ではならないんだけど・・・こういうラストなら、順番通りに一作目から読んでおけばよかった。 そうすればシャツキにもっと親しみを覚えられて、もっと衝撃を受けられたはずなのに。
 うむ、手間を惜しんではならぬ。

ラベル:海外ミステリ
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2020年05月12日

リウーを待ちながら/朱戸アオ

 カミュの『ペスト』がベストセラーリストに居座り始めた頃、『リウーを待ちながら』という作品もすごい、という噂を聞いた。
 しかし全三巻のそのマンガはベスセラーには載らない。 篠田節子の『夏の災厄』も、川端裕人の『エピデミック』も。 それらはもう紙媒体が絶版(品切れ・重版未定)だから、電子書籍でしか読めない。 本屋の平台に上がることがないから、情報はひっそりとしたものになる。
 普段から読んでいますが、引きこもり生活ではいつも以上に「マンガ読みたい!」気分が強まる気がする。
 そんなわけで、『リウーを待ちながら』、まとめ買い&一気読み。

  リウーを待ちながら1.jpgリウーを待ちながら2.jpgリウーを待ちながら3.jpg 
 富士山のふもとの横走市で、ペストが発生。 医療関係者、研究者、自衛隊・・・が一丸となってペストと戦うが、ペスト菌は途中で変異、新型ペストとなる。 横走市の新型ペスト・エピデミックの記録。

 タイトルはアルベール・カミュの『ペスト』の主要人物の一人・リウー医師と、サミュエル・ベケットの戯曲『ゴドーを待ちながら』から?
 描かれたのは2017年ぐらい? その当時の最新情報できっちり取材がされており、2020年5月に読んでもリアルなところ多々。 お役所仕事の不備は『夏の災厄』でも指摘されているけど、25年以上たっても変わっていない(むしろ劣化している)のがかなしい。
 また本作ではカミュの『ペスト』へのリスペクト・引用が目立ち、話の展開すらも『ペスト』に似てしまっている・・・『ペスト』において<疫病>は概念だが、本作では感染症としてのリアルさが描かれているのが現代風。 感染者・横走出身者への誹謗中傷が巻き起こるのも痛い・・・。
 2巻までのスリリング具合、盛り上がりはものすごく、それ故に3巻のしめくくりがあまりにそっけなく感じる・・・。
 時間の経過の省略、最低限の説明は文学性を高めるものの、マンガとしてはキャラへの思い入れを阻害されているようで。 いや、だらだら続けずに3巻でまとめたのはすごいんだけど、もう一巻分ぐらい読みたかった。
 もしCOVID-19の致死率が高かったら・・・こうなっていたかもしれないような、いやペストだからこうなったような。 あぁ、なんかもやもや。
 コニー・ウィリス『ドゥームズデイ・ブック』を読むかなぁ。

ラベル:電子書籍 マンガ
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2020年05月09日

氷結/ベルナール・ミニエ

 「ほったらかしで読んでないシリーズもの、そろそろ読もう」大作戦。 北アイルランドの<刑事ショーン・ダフィ>シリーズの次は、フランスの<警部セルヴァス>シリーズだ! フレンチミステリはどこかヘンなものが多いが、これはどうなんだろ。

  氷結1.jpg氷結2.jpg この表紙ビジュアルにつられたのよ。
 ピレネー山脈の山間にある標高二千メートルの水力発電所へのゴンドラの壁に、皮をはがされて吊るされた、首のない馬の死体が発見された。 その馬の所有者がフランス政財界の大物エリック・ロンバールであるため、上層部から早急な解決を押し付けられた警部のマルタン・セルヴァスは、憲兵隊大尉のイレーヌ・シーグラーとともに捜査に当たる。 馬とはいえ異常な手口に、セルヴァスは次は人間が標的になるのではと危惧する。 また山間の村の奥には精神異常とされた殺人犯が収容されて施設があり、最悪の連続殺人鬼ジュリアン・ハルトマンが収容されている。 現場から唯一見つかったDNAはハルトマンのものだったが、彼は施設から一歩も出ていないはずで・・・という話。

 やっぱりフレンチミステリというかスリラー、ピエール・ルメートルというよりフランク・ティリエっぽい?(そこまで禍々しくはないけど)
 でも道具立てがでかいわりに活かしきれてない感じ・・・。
 レクター博士みたいなキャラがそういっぱい出てこられても困る。
 ただ動機にかかわる残酷な話を伝聞にとどめ、直接描かないのは評価できるけど・・・有能だと前評判の高いセルヴァス警部のうっかり連発には「ちょっと!」とツッコミを入れたい。 いや、フランス文化圏ではこれらはうっかりには含まれないのか。
 そしてこれは個人的な問題・・・登場人物の名前がわかりにくくて、「これって誰だ!」と一瞬考える。 キャラが描けているというよりは強引に特徴づけている感じ? 場面の切り替えが細かいのでテレビドラマ向きなれど(実際、ドラマ化されているらしい)、ミステリとしては「えっ、そこの説明、さらっと!? 肝心な手口を解明せよ!」って思ってしまうじゃないか。
 どうやらミステリとしては三作目がすごく面白いらしい。 セルヴァス警部はどんどんひどい目に遭うらしい。 警察のシリーズ物ってそういう宿命なの?

ラベル:海外ミステリ
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2020年05月02日

夜の谷を行く/桐野夏生

 というわけで(?)、女性の話。
 連合赤軍というか当時の学生運動そのものがどうも理解できないあたし・・・だからつい関連書籍を読んでしまうわけですが。
 桐野夏生が描く連合赤軍事件は、無名の女性“同志”を主人公にした。

  夜の谷を行く 桐野夏生.jpg 夜の谷、手探りで進むしかない。
 かつて<山岳ベース>に参加したものの逃走したところを逮捕された西田啓子は5年の服役の後、一人静かに暮らしていた。
 ある日、元同志から突然の連絡がある。 唯一の血縁である姪の結婚話が持ち上がる。 そして東日本大震災・・・彼女は、遠くに置き去りにしてきた過去と再び向き合うことになる・・・という話。

 派手な部分は一切なく、スポーツジムの最もお安いプランでバレエやヨガの場所取りに汲々する・・・みたいな描写にリアル感というか、「なるほど、ジムで感染が広がるわけだ」と違う方向を見てしまう自分。 それだけ年齢層高めの人々がジムを利用しているのね・・・と通おっかなとは思っても全く行動に移していない自分はとにかく感心してしまう。 これが高齢化社会。
 啓子の考え方には一部頷けるところはあるにせよ、「立場の違う人のことも考えて」と言いたくなるところもあり、還暦を過ぎても「頭でっかち」と言われかねない部分は大人げないし、でも啓子と相いれない妹の言い分も感情的すぎてつらい。 もうちょっと冷静に話し合えないものかと思うけど、姉妹だからそうなってしまうのもわかる。
 なにより、啓子は「その場にいなかった人にはわかるわけがない」と思っているから、誰にも心を開かないのだが。

 自分の過去の過ちを思い出すのはつらい(というか、恥ずかしくてたまらない。 急に思い出して夜中に耳を押さえて叫びながら走り回りたくなる)。
 しかし啓子の場合、<過ち>と呼ぶには重すぎる。 本文中には山岳ベース事件について説明的な表現がないので、読者は知っていること前提。 十二人の仲間が死んでいる。 一体彼女はどうやってこの過去を処理しているのか、読者としてはそこが知りたいのだが・・・女性ならでは的な展開になっているラストがいいのか悪いのか(女性視点で事件が語り直されるところは大変重要)。 ただ、東日本大震災後の東京に住む人々の他人事感が、啓子の無意識に過去から距離を置いている部分とリンクしているのかと。 作者が描きたいのはこの事件そのものではなく、そういう場に立ち会ってしまった特別ではない人間の姿なんだろう。 それもまた<コロナ後の世界>において重要な視点。
 死刑判決文において永田洋子の「女性特有の」資質が原因であると書かれているのは改めて気持ち悪いが(現在ではありえない、当時でも女性蔑視だという声が上がっている)、結局あれはなんだったのだろう・・・と考えると徒労感に降り注がれる。 やはりわからないところはわからない、だから読む。

ラベル:国内ミステリ
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2020年04月27日

レイトショー/マイクル・コナリー

 読みかけの本、読んでない本がたくさんあるので、次に何を読むか悩む。 未読本の山を整理するたびに「あぁ、これ」と気づくのであるが、そういうのが次々出てくるのでどれを先にするか考える。 で、本を選んでいる時間が増える・・・いやいや、それも楽しいんだけどさ、何か読みながら考えるとするか。
 そんなわけで手に取ったのが、割とあっさり読み終われそうなこちら。 ハリー・ボッシュシリーズは『燃える部屋』で止まっているのだが、こっちはレネイ・バラードを主役にすえる新シリーズなので気にしなくていい。

  レイトショー1 マイクル・コナリー.jpgレイトショー2 マイクル・コナリー.jpg とはいえ、ボッシュシリーズと同じ世界観。
 ロス市警ハリウッド分署深夜勤担当刑事のレネイ・バラードは三十代・女性・独身、ハワイ出身。 レイトショーとは警察内隠語で深夜勤を指す。 夜中に通報を受けて駆け付けても、本格的な捜査は昼勤務の刑事たちに回さなければいけないジレンマと戦いながら、バラードは被害者たちのためにベストを尽くそうとする。 ここにも、刑事という職務と使命に忠実な者がいる、という話。

 殺人課や重罪犯罪課など専門分野を持つところとは違い、深夜勤は「呼び出されたらとにかく出向く」。 その結果が殺人なら殺人課に回され、深夜勤の仕事は初動捜査で終わってしまう。 最後まで事件を追いたいと願う者にとってはストレスのたまりそうな職場だが・・・バラードは上司のセクハラを訴えたことで深夜勤に飛ばされたという<ロス市警の闇>のとばっちりを食らった人。 それでもコツコツと手掛かりを追う・・・自分が事件からはずされても。 もう、ハリー・ボッシュと同じものを持ってるじゃん。 ひどい目にも遭ってるし。
 しかもロス市警の引退した刑事をモデルに『ボッシュ』というドラマが放送されている・・・のちのち、バラードはボッシュと同じ作品に登場しているそうで、コナリー世界にまた一人強力キャラクターが誕生、ということで。 被害者となる弱い立場の者たちにより共感するため、女性刑事の登場は必然なのであろうけれど・・・本作は会話文があまりに直訳っぽくて気になった(女性ならば語尾を「〜だわ」・「〜ね」としろ、ということではない)。
 バラードの元相棒が「ローラは元気か」と声をかけたときには、「まさか、娘か!」とハラハラしたのだが、ローラは犬であった。 女性主役もしくは戦う女性にシングルマザーという属性がないとダメみたいな一時の勢いに、あたしは疲れを感じていたのねと気づいた瞬間であったよ・・・。
 上巻中盤からはラストまで一気読みしました。 なるほど、こりゃレネイ・バラードの行く末を知りたくなる。

ラベル:海外ミステリ
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする