2020年08月06日

アフターダーク/村上春樹

 引き続き、「村上春樹を(今更ながらに)読む」企画。 次は2004年発表(文庫化は2006年)の『アフターダーク』を。

  村上春樹 アフターダーク.jpg 真夜中の数分前、都会のファミレスで一人本を読む若い女。 そんな彼女に一人の若い男が声をかけることから始まる、朝までの出来事。

 文体は三人称、カメラの眼での描写など、村上春樹としては新しいというか、実験的な感じですか?、という気が。 序盤からはミステリタッチの流れもあり、「このままミステリとしていくのか?!」とつい期待してしまいました(勿論、結局そんなことはなかった。 ちょっとがっかり・・・)。
 大都市で生活する、様々な人々の点描。 ヤバい人も、つらい人も、流されている人もいる。 たった一晩のことで何かが変わるわけではないけど、この先に何かが起こりそうという予兆が漂う。 いい方向に行きそうな人、ひどいことになりそうな人、それでもこのままいきそうな人・・・都市には、それだけ多くの人がいる、という事実。 登場人物への感情移入を拒否するキャラ設定。
 喪失と回復の物語、というのは同じだけど・・・本作は「村上春樹じゃなくてもよくない?」という考えが頭を横切る・・・これをへて、次の作品につながっていくのだろうか。
 村上春樹も実験するんだ、というのがいちばんの感想だったかな。

ラベル:国内文学
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2020年08月02日

P分署捜査班 集結/マウリツィオ・デ・ジョバンニ

 何冊かを並行で読んでいるが、たまたま分厚いものばかりなのでなかなか進まない(どれか一冊に集中すればいいのに)。 あとから手を付けたこっちが薄いので先に読み終わってしまった。 薄いのでカバンに入れて持ち運びやすいということもあり。

  集結 P分署捜査班.jpg イタリアの警察小説、シリーズ第一作目。
 ナポリ、ピッツォファルコーネ署は捜査班の大半が不祥事を起こしたことで空中分解直前。 パルマ署長は早急に人員を補充、集められたのは「能力はあるが、はみ出し者」ばかり。 彼らは着任してすぐに起こった殺人事件を捜査し始める・・・。

 ミステリとしては大変こじんまりしているのですが、「21世紀の<87分署>」を名乗るだけあってキャラ紹介がきっちりしている。 能力が最も高そうなロヤコーノ、キレるとすぐ暴力をふるうロマーノ、スピード狂で偏見丸出しのアラゴーナ、などなど。 副署長のピザネッリもカギを握るキャラになりそう。 短い章立ての中、事件の合間にキャラクターの個性をはっきり抱かせるのでニヤニヤしちゃう。 「この人、誰だっけ?」は群像劇にはありがちなんだけど、いったん覚えてしまうと早くて、警察小説のシリーズ物ってそうなるまでに2・3作が必要なことが多いんだけど、それをこれは一作目でやってしまっている! この人たち、この先どうなるの?!、って感情移入ではなく思わせてくれている。 誰かが「辻真先脚本のアニメシリーズの一話目みたい」と言っていたが、まさにそんな感じ、きっちり設計図がひかれてる。
 事件は地味なんだけど、シリーズとして読むこと前提なのでOK。 むしろこの先に大ごとになりそうな気配は十分。 二作目の邦訳は決まっているようなので、楽しみ!

ラベル:海外ミステリ
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2020年07月29日

<卵料理のカフェ>2・3・4/ローラ・チャイルズ

 なんだかんだ言いつつ、コージーミステリの雰囲気は好きです。
 北欧ミステリを中心に残虐な事件&ヘビーな背景を扱うものばかり読んでいると、ときどきほっと息がつける、のんきなものを読みたくなるのですよ。 と、先日<卵料理のカフェ>の4作目を読んだのですが、1作目しかブログ記事に載せていないことに気づく。 読んだ本を全部メモっているわけでもないんだけど(タイミングが合わなかったり、内容があれだったり・・・)、ここまで放置も申し訳なく、忘備録としてまとめておく次第。 一気に三冊を読んだわけではなく、一年半くらいの間に思い出したように読んでいた、というところでしょうか。 <お菓子探偵ハンナ>のシリーズは一年に一冊出るかどうかだし、ちまちまと思い立った時に読める“ある程度巻数のあるシリーズ”は貴重です。

  卵料理のカフェ2チェリーパイの困った届け先.jpg チェリーパイの困った届け先<卵料理のカフェ2>/ローラ・チャイルズ
 そもそも<卵料理のカフェ>とは、アメリカ中西部の田舎町にあるイギリス風アンティーク調のカフェ<カックルベリー・クラブ>のこと。 オーナーのスザンヌ、厨房を取り仕切るペトラ、接客担当のトニという昔からの幼馴染み(全員、現在40代後半)が人生いろいろあった先の再出発でオープンさせたお店。 朝食にはおいしい卵料理を、午後にはアフタヌーンティーを町のお客に振舞う。
 メインキャラ三人のお喋りと、カックルベリー・クラブで出される料理やお茶菓子、お茶の組み合わせなどを楽しむ話。 殺人事件は保安官とお喋りして事件に首を突っ込むための材料です。

  卵料理のカフェ3ほかほかパンプキンとあぶない読書会.jpg ほかほかパンプキンとあぶない読書会<卵料理のカフェ3>/ローラ・チャイルズ
 カックルベリー・クラブでお見合いパーティー兼読書会を開催し、大評判だったけど、参加者の一人がクロスボウの矢で撃たれ死亡!、と死に方が派手になってきました。 事件を探るスザンヌに犯人からの魔の手のようなものが忍び寄ってくるのですが、「怖いわ、気をつけなきゃいけないわよね」とか言いつつ全然警戒せずに普段の生活や自分の好奇心の赴くまま行動してしまうところがツッコミどころ(でもそれは野暮?)。 小さな町なのに三か月おきぐらいに大事件が起こってしまうところがコージーのお約束。

  卵料理のカフェ4あったかスープと雪の森の罠.jpg あったかスープと雪の森の罠<卵料理のカフェ4>/ローラ・チャイルズ
 なんとカックルベリー・クラブの裏庭でスノーボードで通りかかった人物が張られたピアノ線で首を切り落とされる・・・という更にショッキングな殺人事件が! 町で凶悪事件が?!、ともっとピリピリしてもいいところなのに、ミセス軽率のトニのおかげでスザンヌも危ない橋を渡りまくり。 ほんとにみなさん、アラフィフですか? 女ともだちと一緒にいるとティーンエージャーに戻ってしまうのでしょうか。
 コージーミステリの神髄は、おいしそうな料理とお茶の蘊蓄、レギュラーメンバーの動向を知ることであると実感。 このシリーズ、今のところ7作目まで邦訳されているそうなので・・・もうちょっと楽しめるかな、と思います。

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2020年07月19日

medium【メディウム】 霊媒探偵 城塚翡翠/相沢沙呼

 予約していたやつが図書館からやっときました。 去年のこのミス発表後に予約を入れたので、7か月待ち。 まぁ、臨時休館期間があったので、実質は5ヶ月ぐらいだったんだろうけど。 でもそれがブームとかヒットと呼ぶものなのだろう。

  メディウム霊媒探偵 2020このミス国内一位.jpg 最初の頃は帯に「すべては、伏線」とありました。
 推理作家の香月史郎は、ときに警察に協力して難事件を解決していた。 ある日、霊媒である城塚翡翠と出会う。 彼女は死者の念を感じ取ることができるが、たとえ犯人がわかっても証拠にはならない。 香月史郎は彼女の霊視に論理を補足することで事件へと向かう・・・という話。
 それ以上は言えない。 ネタバレになるから。

 冒頭からいろいろ、読者の毛を逆撫でする描写続出。 「これが結末に関係なかったら、本をぶん投げるぞ!」なレベル。
 でもそれがずっと続く・・・それが仕掛けですよね、わかりますよ、だけど、「仕掛けがある」とわかっていなければ読み通すのが苦痛なほどキモい。 結末に辿り着いて、やっとこのキモさから解放された・・・えっと、この爽快感はどんでん返しを知ることとは別物だった(途中で予測がついてしまったので)。
 固定概念を払う、このアイディアはすごくいい、でももっと、洗練された形で読みたかったと思うのは贅沢なのだろうか。
 もうあたしは日本のミステリ界のリアルタイムについていけてない、ということを実感。
 『午前零時のサンドリヨン』の表紙のイメージから(本文は読んでいない)、作者はずっと女性だと思い込んでいましたが、このミス関連のインタビューで男性だと知った・・・知りたくなかったかも、だから余計にキモかったのかなぁ。

ラベル:国内ミステリ
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2020年07月17日

女のいない男たち/村上春樹

 図書館からまた借りてみた。 これもわりと新しめの作品で、短編集。 あまりの薄さにビビってしまった(300ページないくらい)。 薄い本ってなんだか不安になる・・・普段、500ページ以上ある翻訳ものばかり読んでいるから。 これまた、すぐに読めてしまいましたよ。

  女のいない男たち 村上春樹.jpg 6編収録。
 「ドライブ・マイ・カー」・「イエスタデイ」・「独立器官」・「シェエラザード」・「木野」・「女のいない男たち」。
 はじめの三つはシンプルでわかりやすい(「イエスタデイ」と「独立器官」は語り手が同じ人だし)。
 「シェエラザード」からちょっとあやしげな雰囲気になり(SFまで行かないが、幻想的な要素あり)、「木野」に至っては自分にしか見えない蛇が出てきますからね。
 でもエピソードとしての面白さやリアルさは短編のほうが引き立つのかも。 長編だとその部分だけ目立って全体と調和しないような気になるから(『ノルウェイの森』では先輩がナメクジを食べるところと、ピアノ教師のエピソードが強烈すぎて、ストーリーが思い出せない)。
 出てくるのはみな、愛する女性を失ったか失いつつある男性。 その喪失感が及ぼす破壊性みたいなもの。
 でも、なんとなくタイトルからは「ずっと女性に縁がなく、コミュニケーション不全気味の男性」という印象もあったので、愛する相手ではなくとも関係を持てる女性のいるリア充の話ってことで一部から批判を受けてるのかな、という気がした。

ラベル:国内文学
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2020年07月09日

弁護士ダニエル・ローリンズ/ヴィクター・メソス

 「これは早めに読みたいぞ」という本はいつでも持ち出せるようにカバーをかけ、所定の場所に置かれる。 が、それは常に一冊ではないので・・・しかもカバーをかけたせいで何の本かわからなくなる・・・その他のタイミングの差し込みがあったりして、「早めに読みたいぞ」と思っていても流れに紛れてしまうことも多々。 そんな中で、今回は比較的早く読めたほう。

  弁護士ダニエル・ローリンズ.jpg 表紙絵:杉田比呂美
 へらず口系キャラの登場が期待されるイラスト。

 アメリカユタ州ソルトレイク・シティ郊外のフーヴァー郡は全米でも治安のいい地域であるユタ州の中で、何故か犯罪件数が多い。 そこで働く刑事弁護士のダニエル・ローリンズは、犯罪行為をしたとされる被疑者を守る立場。 犯罪者の方を持つのかと言われたり、依頼人からは感謝されないこともあるし、弁護料は高くない。 しかしダニエルは酔いどれでバツイチ、でも元夫には未練たらたらでストーカーの自覚あり。 そんなある日、麻薬密売容疑をかけられた17歳少年の弁護につくと、少年テディには知的障害があり麻薬の売買なんて無理。 誰かに利用されたのは明白だし、未成年だし不起訴処分に持ち込めると思ったのに、検察も判事もテディを成人として裁くという。 いったい何故?

 ダニエルが語り手の<わたし>。 すっごく面白い。 飲んだくれだし、軽口が行き過ぎてヤバいことを口走っていたりするし、捨て身のユーモアを忘れないスタイルは読者から見て大変魅力的。 理想に生きているわけじゃないし、現実に立脚して最善を尽くすのは、小さな町の弁護士としてできるせいいっぱい。 元夫が再婚するのでさらに酒量も増えてプライベートも荒れまくり・・・と、魅力的なんだけど「人としてそれはどうよ・・・」な場面も多々。 彼女の生い立ちもかかわってくることですが。
 文章のリズムがとてもいい。 これは原文のせいか、日本語訳のせい? 訳者の関麻衣子さん、読むの初めてだと思うけど、すごくうまいのでは?
 そんなユーモアあふれるハードボイルドテイストは、後半一気にヘヴィなトーンに。
 BlackLivesMatterがここにも・・・。
 あぁ、やはり法律は正義ではない。
 著者あとがきには「法制度は力のない弱者を叩きつぶすために作られている」と書いてあるよ・・・。
 一応、エンディングは希望がある。 シリーズ化するのかな?、と期待したい。

ラベル:海外ミステリ
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2020年07月05日

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年/村上春樹

 何を今更、と言われてしまうのでしょうけど、今更なんでございますよ。
 『ノルウェイの森』を高校生の時に読んでしまって嫌悪感が出てしまい、村上春樹が苦手でした。 その十年後ぐらいに村上春樹ファンの人から「これは大丈夫だよ」と『羊をめぐる冒険』を貸してもらい、「確かに」と思って『ノルウェイの森』がちょっと特殊なんだろうなとわかったのですが、自ら進んで読もうとは思わなくなってまして。 新刊が出るたびに騒ぎになりますが、まったく乗っかれず。 でも別にアンチというわけでもないのです、翻訳家としての村上春樹は結構読んでいるし。

  色彩を持たない田崎つくると、彼の巡礼の年.jpg 図書館で見かけたので借りてみました。 でもすぐ読むわけでもなく、返却期日が近づいてきたので慌てて読み始めたら、結構一気読みでした。

 多崎つくるは36歳、仕事は鉄道の駅をつくること。 高校までは名古屋に住んでいて、自分の他に四人の男女と完璧な五角形ともいえる友情関係をつくっていたが、彼がひとり東京の大学へ出て一年ちょっと、四人から理由を言われず絶縁されてしまった。 あれから16年、彼はその傷をいまだに引きずっている。 現在の交際相手に「あなたは心に問題を抱えている」と指摘されたつくるは、かつての四人の親友に理由を訪ねに行く・・・という話。

 「色彩を持たない」とは、四人の親友やその後つくるが親しさを感じた後輩の名字に色の感じが入っているのに(青海・灰田など)、彼自身には色がないからというもの。 それは言っても仕方ないよね、名前は選べないよ、と思うけど、友達と共通項が欲しかったという気持ちはわかる。 でも個人的にはつくるくんとは仲良くなれないかも。
 比較的最初のほうで、親友の女性の一人がピアノを弾くとわかるくだりであたしは「ぞわっ」とする。 『ノルウェイの森』の終盤でピアノにかかわるあるエピソードが出てくるのだが、これがひどい話でトラウマになっているからだ(おかげでつくるが絶縁された理由や彼女のその後などまったく驚けなかったという)。 この感じって村上春樹ワールドあるあるなのかしら。
 喪失からの回復の過程の物語なので、ミステリだとしたら「伏線が回収されていない!」とテーブルをひっくり返したくなるところがいくつもありますが、まぁ現実においてはわからないままのこともいっぱいありますよねと思えるというか、登場人物に愛着がないからもやっとした部分もそのまま受け入れられる。 いや、ヒロイン的立場の女性の描かれ方が都合がよすぎるほうが気になるかな・・・。
 自分の失われた友人関係のことを思い出した。 痛みが減っていることによろこんでいいのかどうなのか。
 もしかしたら、今なら『ノルウェイの森』も普通に読めるかもしれない。 でも読みたい気持ちが起こらないな・・・他のを考えてみようか。

ラベル:日本文学
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2020年07月03日

破滅のループ/カリン・スローター

 たとえ文庫であっても、厚い本は持ち歩きにかさばる。 しかし読んでいる途中であれば持ち歩かねばならないのである。 電車を待つホームなど、隙間時間を利用する。 おかげで電車に乗っている間もあっという間に過ぎてしまう(自分が思っているより一駅分早かった、乗り過ごさなくてよかったよ)。
 そう、なんだかんだと、読み始めたら結局読んでしまったよ・・・カリン・スローター最新作。

  破滅のループ カリン・スローター.jpg <ウィル・トレント>シリーズとしては9作目。
 2019年7月、ショッピングモールの駐車場からCDC(疾病予防管理センター)の疫学者ミシェルが何者かに拉致された。
 約一か月後、アトランタで爆弾テロ事件が。 現場近くにいたGBI捜査官のウィルと医師で検死官のサラ・リントンは急行する途中で車の追突事故を見かけて思わず車から降りたら、彼らは逃走中の爆破犯たちとミシェルだった。 犯人たちを一部仕留めて捕まえたが、サラを人質に取られて逃亡を許し、ウィルも痛手を負う。 連鎖的に発生する凶悪事件の背後にいるのは何者なのか・・・という話。
 冒頭は事件をめぐるサラ視点・ウィル視点・フェイス視点が語られ、そのたびに時間がちょっと戻るのが進みを遮られているようでイラっとするけれど、それぞれが知ること・感じることが重層的に語られるのでこの繰り返し描写は必要だったのだ。

 5作目『血のペナルティ』以降前作の『贖いのリミット』まで、ウィルの身近な人々に起こる事件が続いてましたが、やっと関係ない事件が! でも、サラがさらわれるという・・・そういう部分はロマンス小説の流れを感じる。 ロマンス部分はコージーミステリとも通じます。
 しかし、今作はテロ事件ということで・・・ページ数最厚にして、事件の規模も、被害者の数も最大。
 事件を起こす集団は、白人男性原理主義者たち。 人為的に広めようとする伝染病も絡んでくるので・・・あぁ、COVID-19が蔓延する中、BlackLivesMatterの声が上がっている現状に見事にリンクしている。 今の現実はなるべくしてなったもの(回避・解消できたはずのことが先延ばしになってヘイトが現状の不満のはけ口となって渦を巻く)なんだというかなしさ・・・わかっているのに止められないむなしさ。
 人種差別者たちの発言は非常に身勝手で自分に都合のいい話ばかりなのに、それでもそれに自分の慰めを見出してしまう人がいっぱいいる、というのがむなしい。
 それにしても、作者はかなり取材したかものすごく調べたと思われる・・・。
 今回、ウィルはいつもよりさらにいいところがない(普段からフェイス、サラ、アマンダに押され気味のところがあるけど、今回はサラ恋しさのあまり冷静な判断が全然できてない)。 その分、サラが自分の過去のトラウマ(ごめん、このこと忘れてました)に否応なく向き合わされることで、立ち向かう力を得るのが本作の読みどころ。 自分もかつては犯罪被害者だったから、世の中からのバッシングに「その立場になったこともないくせに、安全地帯から発言する、自分は無敵だと信じている人間のなんと多いことか」というサラの嘆きと怒りは、COVID-19の感染者を責める日本の同調圧力にもそのまま向けられるという・・・なんともタイムリーな作品となってしまいました。
 サラとウィルの恋愛も、二人がサヴァイヴァーであることが深い意味を持っている。 いろいろお互い不器用だったり自分の枠を壊せなくてぐるぐるしていた二人が、お互いを思って一歩踏み出そうとするのは「回復」だ。 ただそのためにこの事件があったのだとしたらせつなすぎる・・・。
 リアルタイム設定で描かれるこういうシリーズって多いけど、今後COVID-19は作品の中でどう描かれるのだろう・・・楽しみに待ちたい。

ラベル:海外ミステリ
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2020年06月27日

大奥 18/よしながふみ

 あれ、ここ数年、新刊が出るのは8月後半だったのに、もう6月に出る?!
 これはそろそろ、「終わりが近い」ということでは!
 でもこの一冊で終われるはずがないし・・・完結って書いてないし、まだ終わらないことを言祝ぎたい。
 あれ、表紙のバックが白ってわりと珍しくない?

  大奥18 よしながふみ.jpg しかも、えっ、誰ですか?
 (瀧山と新人の世話係、仲野でした)
 ついに徳川幕府瓦解・・・へ至る道。
 それぞれの将軍職の方々には散々泣かされてきましたが・・・もう、こんなに泣かされてしまう、家茂に。 家定公でもかなり泣いてしまったけれど、お風呂上がりの髪を乾かしていたタオルで涙を拭うこと何回も。 和宮が言葉を選ばずポンポン言うから、家茂も自分の感情を表に出すようになったのか、家茂の言葉一つ一つに読者も心を揺さぶられ、その場に立ち会ったお上や勝海舟が頼ったり心酔する気持ちがよくわかる。 特にあの勝海舟が最後まで幕臣でいたという理由が、忠義というよりも恋心といわれたほうがすごく納得できるし。
 それにしても、一橋慶喜、ほんとにダメな男だ・・・これも「そう育てられた悲劇」なのか?
 瀧山も歳をとり、黒木はすっかり立派になった。 歴史の流れを描きつつ、個人の人生も同じように描くことのすごさですよ。
 また最初から読んでしまいそう・・・終わりがもうすぐと思えばせつないけど、この流れはみんなが知っている日本の歴史に自然に合流するのがわかっているから、むしろここで描かれた「赤面疱瘡が蔓延した日本」の歴史が本流だったのではないのかという気すらしてきてしまう。 これが史実であってほしいと思いたい、というか。
 続きはまた一年後なのかな。 美しい着地、見事な終幕を期待する。

ラベル:新刊 マンガ
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2020年06月22日

運命の八分休符/連城三紀彦

 あ、最近、読んだ本のこと書いてなかったわ。
 何冊か読み終わっているんだけど、映画の感想のほうが優先なのでタイミングはずすと忘れてしまう。 一応、手帳には読み終わった本のタイトルはメモるけど(見開き一週間タイプなので、次の週に入ってしまうと前のページに書いたやつをスルーしてしまいがち)。
 というわけで忘れないうちに。

  運命の八分休符 連城三紀彦.jpg 表紙はちょっとわたせせいぞうテイスト?
 連城三紀彦の初期の連作短編集。 大学を出た後もふらふらとしている、自分に自信がないけど心優しき不器用な青年・軍平が何故か事件に巻き込まれてしまい、心ならずも探偵役を務めてしまう。 そのたびに美女と出会い、美女に振られて(でも実際は振っている)寅さんのように傷心を抱える、そんな5つの事件のこと。

 発表されたのは1980年〜83年の間。 携帯電話もネットもない、というだけでなく文体にも時代を感じる・・・軍平のキャラにも時代を感じ、各章のヒロインたち(マドンナというべきか)の描き方にも時代を感じる・・・けれどミステリとしては大変フェアで、「あっ、今のが伏線というか、謎解きのために必要な部分だね!」とニヤリとしてしまう。 トリックにも一部古さはありますが・・・まぁそれは仕方がない。
 誘拐ネタの『邪悪な羊』、舞台演劇が題材の『観客はただ一人』が特に好きだな。 ただ5編目のタイトル『濡れた衣装』は今一つダサい。 幕切れもそっけない。 軍平くんのその後へのヒントも何もない。 このシリーズをもっと書く気があったのか? あったけど実現しなかったのか? 作者は同じ登場人物の話を複数描くことがほぼなかった人らしいけれど、これはシリーズ化させてもよかったんじゃないのか。 それとも軍平くんを成長させてしまうのを回避したかったのか。 作者のいない今となってはすべては仮定でしかないんだけど。
 軍平くんには、ごく普通の女性とであってほしい感じだけど・・・そういう人には惹かれないパターンかもな・・・。

ラベル:国内ミステリ
posted by かしこん at 02:36| Comment(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする