2021年01月24日

ラズベリー・デニッシュはざわめく/ジョアン・フルーク

 <お菓子探偵ハンナ>シリーズ21作目。
 あらためてシリーズ巻数を数えるとびっくりだ。 季節は過ぎるが登場人物は齢はとらないイソノ界(29歳から34歳ぐらいにはなってる気はするが)。 ハンナが結婚して新しいステージに入ったのかと思ったけど、そうでもなかった。 いや、次のステージに入ったと言えるのかも。 次に引っ張る力が強くなってる。

  ハンナ21ラズベリーデニッシュはざわめく.jpg Raspberry Danish Murder
 ロスがいなくなってから2週間、ハンナはつらさや悲しみを抱えつつも毎日“クッキー・ジャー”のオーブンに向かっている。 妹のミシェル、親友のノーマンとマイクもハンナを支えようと精いっぱい。 ある日、ロスのアシスタントのPKがロスの車に乗っていて事故に遭ってしまう。  薬物入りのチョコレートバーを食べて心臓発作を起こしたためだ。 このチョコバーはロスにあてられたもの? それともPK? いつものようにハンナは調査を開始するが・・・。

 いつものように、出てきた瞬間に「こいつが犯人だ!」とわかりますが・・・それがメインではないので。
 今回のレシピはバークッキー多め。 バークッキーといってもレシピを読む感じではショートブレッド的というよりもブラウニー的で、あたしの概念では<クッキー>とはちょっと違う気もするけど、ベーシックなレシピはあらかた出尽くしている感あるから仕方ないよね。 でもあたしは自分で作るより、プロが作ったものを買って食べます!
 レイクエデンの町の人々の近況報告を知るこのシリーズ、今回は飲食店で働く方々が証言者として多く出てきて、このご時世でもがんばっているのだろうかと思ってしまった。 レイクエデン・インのブッフェ、食べてみたい。
 あとは、「相変わらずノーマンっていいやつ」って思わされる場面の多いこと! ノーマン再評価への流れづくり?

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2021年01月21日

砂男/ラーシュ・ケプレル

 続編が出たので、読んでみた。 このラストが「衝撃的!」だそうなので・・・「この続きはーっ!」ってところで次のあてがないと寂しいもんね。
 これまたスウェーデンミステリですが、読むのは初めて。 警部ヨーナ・リンナシリーズの4作目だけど(3作目まではハヤカワで出ているが、現在は絶賛絶版中)、ここから読み始めても大丈夫ということなので。

  砂男1 扶桑社ミステリー.jpg砂男2 扶桑社ミステリー.jpg とりあえず、表紙からただごとではなさそうなイメージ。
 ストックホルム郊外、線路沿いで保護された男性は13年前に行方不明となっていた人物だった。 同時に行方不明になっている妹はまだ“砂男”に軟禁されているという。 当時、捜査にあたった国家警察のヨーナ・リンナ警部は、その後逮捕されたシリアルキラー・ユレックの犯行ではないかと感じていたが、証拠がなかったため行方不明として処理されたのだ。 兄が帰ってきたことで捜査は再開、妹を探し出すため、公安警察のサーガ・バウエルが閉鎖病棟に収容されているユレックから話を聞き出そうと潜入捜査を開始する・・・。

 細かめの章立てでなかなかキャラの背景が見えず、序盤は話を把握するのにちょっと骨を折る。 でも把握できてからは加速、下巻は早かった。
 ユレックの存在はハンニバル・レクターっぽいよなぁ、というのは裏表紙あらすじを見たときから思っていたが・・・悪魔のように何でもお見通しな感じが「北欧ミステリはヘニング・マンケルから」なあたしにはちょっとしっくりこない。 このデモーニッシュ感、<刑事ファビアン・リスク>やフランスのスリラー作家フランク・ティリエなんかを思い出させる。
 ミステリというよりはスリラーなのか? 人が死に過ぎる!
 そう考えると『ミレニアム』三部作やピエール・ルメートルはミステリとスリラーをうまいこといいバランスで融合させているから全世界ベストセラーになったんだなぁ、と。
 ヨーナ・リンナも主役としてはキャラが薄いが、ユレックの事件はヨーナにとっても重要だったという部分で厚みが出ていた。 そのおかげで「衝撃のラスト!」はすごく納得のいくものだった・・・1作目から読んでこその衝撃なんだろうなぁ、きっと。
 移民に寛容と言われるスウェーデンだけど、問題はないわけじゃないという悲しさはあるけど、「意識していない自分が犯した罪」を突然突きつけられるのと、「自分の罪を常に意識して生き続ける」のとどちらがつらいのか、みたいな感覚は世界共通なのか。
 これで安心して次の『つけ狙う者』に入れるけど・・・一作目から読んだほうがいいかしら。

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2021年01月19日

汝、鉤十字を背負いて頂を奪え/ハリー・ファージング

 『最後の巡礼者』の帯で紹介されていて、「えっ、こんなの、いつ出てたの?」とびっくりしたやつ。 山モノ好きとしては気になるじゃないですか。
 探したら、2018年5月発売・・・えーっ、全然気づいてなかったじゃないか。 竹書房文庫は新刊情報が出るのがわりとギリギリで、「30日後までの近刊」を見たときに載ってなかったこともあった。 過去にもチェック漏れがあったということよね・・・。

  汝、鉤十字を背負いて頂を奪え1.jpg汝、鉤十字を背負いて頂を奪え2.jpg キワモノっぽい印象だが、実は『北壁の死闘』×『神々の山嶺』!
 山岳ガイドのニールは顧客を連れてエベレスト山頂を目指すがアクシデント発生、下山中にあるピッケルに命を救われる。 よく見るとそのピッケルには鉤十字のマークが。
 時は遡り1938年、ドイツ人のヨーゼフ・ベッカーは山を越えることでユダヤ人の逃亡を助けていたが、ある日ナチスに捕縛されてしまう。 家族の命と引き換えに、ナチスの栄誉のためにエベレスト初登頂を成し遂げろとヒムラーから命令されるベッカー。
 現代ではそのピッケルをめぐってネオナチなどが暗躍、ニールはまたエベレストに戻ることに・・・山頂を目指す二人の運命が時を越えて交差する。

 登山描写がぐいぐい読ませる!
 だから悪役がいささか単純化されすぎでも、バイオレンス場面多すぎでも、結構一気読みでしたよ。
 序盤はニールのエベレスト登頂に引き込まれ、合間に過去を描かれることにもどかしい思いがしたけれど、次第にヨーゼフのほうに引き込まれ(チベットの僧院のあたり特に!)、ニールのことちょっと忘れちゃった。
 多くの人が死ぬしひどい話なんだが、なんだろう、このエンディングのさわやかさは。
 作者は自分で登山をする人らしく、登山への愛がほとばしっている。
 おりしもK2冬季初登頂(ネパールのシェルパ族の方々が中心のパーティ)というニュースも入ってきて、胸アツ。

ラベル:海外ミステリ
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2021年01月12日

もう年はとれない/ダニエル・フリードマン

 <バック・シャッツ>シリーズ、第三弾が来月発売とのこと・・・じゃあ、そろそろ一作目から読みますかねってことで(本の置き場所がすんなり見つかったことにびっくりした)。

  もう年はとれない.jpg “DON'T EVER GET OLD”
 帯のコピーには、「最高に格好いい87歳、伝説の元刑事。人生最後になるかもしれない捜査に臨む!」。
 87歳で元殺人課の(伝説的な)刑事、捕虜収容所からからくも生き残った過去があり、ユダヤ人である“わたし”(バック・シャッツ)はある日、戦友の臨終の場に呼ばれ、彼がずっと胸に秘めていた秘密を告げられる。 “わたし”にはどうでもいいことだが、周囲は“わたし”に関係ないとは思ってくれないらしく、ごたごたに巻き込まれる。 殺人事件が起こり、孫のテキーラの手を借りて、“わたし”は事態の解明に乗り出す・・・。 ちゃんとフーダニット(誰がやったのか?)を追求してる。

 バック・シャッツ、87歳は減らず口と皮肉でほぼ出来上がっていて、自らをアウトローと認めるハードボイルド気質。 所かまわずタバコは吸うし、必要とあればどんな失礼な態度も取れる。 でも一人称なので内心のボヤキや葛藤、素直じゃなさなどがほぼ読み手にわかるので、「しょーがないじいさんだな」とあきらめがつくというか、近くにいたらすごく扱いにくいタイプだろうけど仲良くなれたらすごく仲良くなれそうな気配を感じるというか、無茶苦茶だがキライになれないタイプと見た。
 むしろ孫のテキーラ(勿論あだ名である、本名はビリー)のほうが、あやうくて得体が知れない。 彼は彼で父親の突然の死というトラウマを抱えているのはわかるのだが・・・テキーラの父はバック・シャッツの一人息子。 お互い深い傷を抱えながら素直に慰め合えない世代間ギャップは、シリーズを重ねるごとに歩み寄れるのでしょうか(突然の死の詳細は明かされていないので、これもまたシリーズで徐々にわかっていくことなのかも)。 
 ユーモアミステリやコージー的展開にもできそうなのに、あえてハードボイルドを貫き、さらに事件は猟奇的な手口と微妙なアンバランス感があるけれど、映像化しやすそうでもある。
 しかし本質は、「自分がユダヤ人であること」をアイデンティティとして生きている人のことだなぁ、と感じ、宗教意識の薄いあたしはいろいろ感銘を受けました。

ラベル:海外ミステリ
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2021年01月10日

欺瞞の殺意/深木章子

 おお、レトロ!、というのが序章を一瞥したときの印象。
 昭和41年! 地方の旧家で起こった毒殺事件なんて、いかにも横溝的じゃない?!
 前回の『このミス』国内ランクイン作、たまたますぐ図書館で借りられた(でもそのあと予約が入ったようなので、速攻で返した)。

  欺瞞の殺意 深木章子.jpg 『〇〇の殺意』ってタイトル、今は中町信のものっぽい雰囲気もあるのに、あえてつける度胸!(中町作品は復刻する際、ほぼ全部『〇〇の殺意』と改題してるからすごいよね、特に徳間文庫から出てるやつは昔からのファンには評判悪いみたいだけど)

 昭和四十一年の夏に起きた楡家での毒殺事件で二人が死んだ。 犯人として被害者の夫が逮捕され、無期懲役となった。
 平成二十年秋、出所してきたその男は、「自分は無実である」という手紙を事件で生き残ったある人物に出す。 そこでずっと自分が考えてきた事件の真相を披露するが・・・推理合戦となる往復書簡は一か月ほど続き、その結果・・・という話。

 すごく横溝的なものを期待してしまったせいでしょうか、文体はかなり普通で、むしろ「こんな時にこの表現を使う?」という違和感も相まって、なんかのめり込めず。 ミステリ的には正しいんだけど、登場人物にちっとも愛着を感じられないので誰が死のうが誰が真犯人であろうがまったく驚けない。 「あぁ、そうですか」で終わってしまった・・・なんかごめんなさい、あたしがそういう気分になれなかったみたい。
 昔「ミステリは人間が描けていない」ってよく批判されたけど、当時批判した人たちはこういう風に感じてたってことなのかな?

ラベル:国内ミステリ
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2021年01月03日

罪の轍/奥田英朗

 奥田英朗、すごく久し振り。 図書館から年末ぎりぎりに来たんだけど、なんでこれを予約したんだろう? あ、前の年の『このミス』を見て予約を入れたのか。 一年も待っちゃったらしい。 まだ待ってる人がいるだろうから、年始に返さねば、と思ってすぐ読んだ。 厚みはあったのだが、日本人作家、しかも読んだことのある人のは速く読めるなぁ。

  罪の轍 奥田英朗.jpg 表紙の写真に、時代が出てる。
 東京オリンピックを翌年に控えた昭和38年のこと。 北海道で、何もうまくいかないことにうんざりした若者はある事件をきっかけに町を出る。 その後東京で、空き巣狙いが頻発するさなかに起きた強盗殺人事件を担当する刑事は聞き込みで北国訛りの男の存在を知る。 その後、浅草で男の子が誘拐される事件が起き――という話。

 昭和38年の日本ってこんな感じだったのか・・・戦後の傷痕から立ち直りつつある部分と、前時代的な部分がそのまま残っている部分と。 「腹いっぱいメシが食べられるってすごいな」と感嘆する人・・・飽食ニッポンになったのはいつからなんだ。 人権意識なんて不十分だし、左翼的連中もマスコミもまともなのは誰もいないみたいに描かれている。 まともなのは普通に働いて普通に生きている人たちなんだけど、テレビと電話の存在が情報の伝達の速さと匿名性の発言力を与えることで“社会”が得体のしれぬものになった時期。 オリンピックが開催されるが故に進むこともあるけれど、国民性がついていけない無力感というか。 その他大勢の物見高さは60年近くたっている今も変わってないですよね・・・かなしい。
 「これ、よしのぶちゃん事件じゃないの!」と誘拐事件に対しては冷や汗が。 現実に起きた事件がモデルであるとすぐわかってしまうのはフィクションの弱さを突きつけられているようで悲しい。 特にこの事件は生まれる前のことなのでリアルに知らないんだけど、「日本初の報道協定が結ばれた誘拐事件」に対してやりきれない思いを自分自身が抱えているのかもしれない(子供の頃、泉谷しげるが犯人役のドラマを観たのがトラウマかも)。 「これ、扱っていいのか」という気持ちが物語への没頭を妨げたというか、まぁ感情移入すべき人物もいなかったので、より時代の描写的なもののほうに重点がいったというか。 だから謎解きミステリと言うより、社会派として読んだほうが満足度は高い。
 若者の感じる、「自分はこんなにもひどい目に遭ったのだから、少しぐらい好き勝手したっていいのではないか」。 この気持ちの積み重ねが戦後から今につながる日本をつくったのではないか、と感じたときの重みたるや。 『霧の向こう』という題で連載されていたようですが、単行本時に『罪の轍』と改題、『霧の向こう』だったらこれは響かなかったかもしれない。 タイトルって大事!

ラベル:国内ミステリ
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2020年12月26日

ざわめく傷痕/カリン・スローター

 この年末年始にも読みたいものはいっぱいあるのだが、録画してある映画やドラマも観ないといけないし、休みがいくらあっても足りないよぉ! というか不要不急の外出は避けるべきなのだが来年の仕事の初日は4日である。 28日は休みだけど29日はちょっと出なきゃ! というわけであまり長期休暇の気分にはなれなくて、さらに言うなら例年以上に年末感も薄いのである(クリスマスイヴも三日前くらいに気づいた感じ)。 図書館から予約してた本もどっかりきちゃったよ。 あぁ、なんかいそがしいんだけど。
 そんなバタバタな今週、往復の通勤その他で読み終えたのがこちら。

  ざわめく傷痕 グラント郡シリーズ カリン・スローター.jpg “KISSCUT”
 2002年に書かれた<グラント郡シリーズ>2作目。 前作『開かれた瞳孔』の約4カ月後の出来事。
 土曜日のスケートリンク、小さな町では多くの人でにぎわう場所で起こった発砲事件。 13歳の少女が少し年上の少年に銃を向けている。 現場に居合わせたグラント郡警察署長ジェフリーは少女を説得するが失敗、彼女を射殺してしまう。 また現場付近のトイレから未熟児の遺体が発見される。 少女が出産し、少年がその父親ではと推測されたが、少女は妊娠したことはなかった。 しかし少女にはそれ以上に意外な傷痕があることを検視官で町の小児科医でもあるサラが確認し、事件の背後に何があるのかまったく予測ができなくなっていく・・・。
 相変わらず、ひどい話です。

 『開かれた瞳孔』を読んだのは三年以上前ですが、細かいところをあまり覚えてなかったな、とこれを読んでびっくりしつつ思い出す。 <ウィル・トレントシリーズ>は<グラント郡シリーズ>の終了とともに始まっているので、訳者あとがきにも「サラが若い」と書かれているんだけれど、今のサラは精神的に動揺していても仕事・職務を優先する強さがあるなぁ、と(つまりこの頃には動揺のあまりに仕事がおろそかになるということ)。 恋愛面でぐるぐるするところはそこまで成長できているとは感じないけど。 本作でサラは30代後半ぐらい、最近の『贖いのリミット』では40代後半ぐらい? 怒涛の十年・・・。
 グラント郡警察、初の女性刑事であるレナ・アダムズも前作で双子の妹が殺され、本人も犯人に監禁されて死にそうな目に遭ったのに(そして確か<グラント郡>最終作でものすごい罪悪感を背負うことになる)、彼女はまだまだ苦しみから逃れられていない。 本作ではむしろレナが主役ではないかと思うほど。 この流れを知ってから『ブラック&ホワイト』を読み返すとまた違う気持ちになるのかも。
 ジェフリーに対してはあまりいい印象がないまま、本作でもそれは覆らなかった。 ちょっとマチズモ的感覚から逃れられないところかな?

 事件に関しては・・・翻訳時差があるため新しさは感じられないのですが、“救いのなさ”はずっとカリン・スローターが描き続けてきたもの。 逆に「弱きものとして生きなければいけない苦しみ」がリアルに伝わってくるようになってしまいました。
 倫理的なものを人間に求めるのは間違いなのか、法律で厳密に決めなければいけないのか(法の不整備ですり抜けてしまうのは絶対ダメなことだが)、決めたからといって子供が食い物にされることはなくなるのか、考えるとぐるぐるして壁とか叩きたくなるけど、現実から目を背けない・予兆を見逃さない・必要な行動は起こす、そういう大人でいなければ、と思います。

ラベル:海外ミステリ
posted by かしこん at 20:34| 兵庫 ☁| Comment(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年12月17日

喪われた少女/ラグナル・ヨナソン

 北欧ものは梅雨〜夏の時期に特に読みたくなるのだが、北欧にだって夏はあるのである。 だからこっちが冬のときには夏の北欧を・・・って、結局季節関係なく読んじゃっていますよ、という話。 それだけ北欧ミステリが身近になってます。
 『闇という名の娘』に次ぐ、<フルダ三部作>の第二弾。 一作目から時間は十五年遡り、1997年の夏に起こった事件。

  喪われた少女 ラグナルヨルソン.jpg “DRUNGI” ⇒ “THE ISLAND” 舞台はこんな断崖絶壁のある島を中心に。
 アイスランド、西武フィヨルドのある別荘で、20歳の女性が殺された。 十年後、殺された女性をしのんで彼女の親友たちと弟4人が無人島のエトリザエイで再会を果たす。 しかしその二日後、そのうちの一人が崖から落ちていると通報が入る。 レイキャヴィーク警察犯罪捜査部の警部フルダが現地へ飛び、4人の関係、十年前の事件とのつながりを捜査する・・・。

 またしても本文353ページという短さに様々な北欧ミステリお得意の要素が入れ込まれている。
 事件そのものはシンプルといえばシンプルなんだけど・・・「語らぬが故に漂う謎」が独特の雰囲気を醸し出す。 しかも合間に語られるフルダの人生が・・・『闇という名の娘』をすでに読んでいる身には彼女の苦悩の理由がよくわかっているので・・・ため息しか出ない。 おまけに、いろいろな部分(たとえば、彼女の捜査手法とか)の基本的なところが十五年後も変わっていないというか、「あぁ、そういうところがのちのちひどい結果を生むのだぞ!」と気づかされて仕方ない。 ある程度経験を積み、仕事もそれなりにうまいことやれてるなと思ったときにはもう自分のクセみたいなものから逃れられない、成長できないという事実を突きつけられているようで、自分も反省。
 エピローグでも、さらに十五年後のことを示唆・・・なんて情け容赦がないの!
 さすが、ダーク・アイスランド。

posted by かしこん at 16:03| 兵庫 ☁| Comment(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年12月15日

放課後の嘘つきたち/酒井田寛太郎

 不意に、ビターな青春ミステリが読みたくなった。 この状況下で普通通りにしたい人たちの中からクラスターが発生することによってやたら非難されてしまう世代の人たちへの同情もあり、自分がその年齢だったらどうだろうかとか考えてしまうからだろうか。

  放課後の嘘つきたち.jpg イラストはちょっとマンガっぽいが。
 北陸のN県にある名門私立高校・英印高校。 ボクシング部員の蔵元修は無口な態度とその立派な体格から、転校生ということもあり友人が少ない。 一方、幼馴染で同級生の白瀬麻琴は誰からも慕われて頼られる部活連絡会の会長。 部活連絡会とは部活同士のトラブルをひそかに解決する役割も担っており、自分一人なので手伝ってほしいと頼まれた修はそうすることにする。 超高飛車な演劇部部長の御堂慎司も加わり、放課後に起こる謎を否応なく見てしまうことに・・・という連作短編集。

 プロローグで、文体が一人称なのに名前だけ三人称な表現に違和感を覚えるが、それも何かの仕掛けかも、と思い直す。
 修・麻琴・慎司それぞれが複雑な過去と心情を持っているが、三人とも基本的に“いい子”なので、彼らが必死にひた隠そうとする<嘘>に「いやいや、そんな大したことじゃないよ(むしろヤバいのは他の人で、あなたたちが責任を感じる必要はないよ)」と言いたくてたまらない。 それはあたしが大人になったということであり、しかしあの年代ならば(下手すると30代でも)そんな風に感じてしまうのもまた当たり前。 だからこそ大人が手を差し伸べねばならんのだ・・・。
 が、若くても無神経な者たちもいて、人数が集まればそこに力関係や悪意も生まれる。 能力が目に見えやすい部活絡みならば余計に。
 青春ミステリとしてロジカル面もしっかり、イヤミス要素も醸し出しつつ<成長と友情>にも力点が置かれている。 サラっと終わってしまってむしろ物足りないくらいかも。 北欧ミステリならばもっと詳細に描くところだろうが、あえて描かないのが日本ってことなのか。
 結局、文体にトリックはなかった・・・考えすぎました。

posted by かしこん at 13:54| 兵庫 ☀| Comment(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年12月13日

あの日に消えたエヴァ/レミギウシュ・ムルス

 『このミス』の影響で、積読本により手を出したい気持ちに。 未読本を全部一気にチェックはできないが、「すぐに読むつもりの本たち」と「その次に読むつもりの本たち」あたりに目を通す(おかげで『水の葬列』も見つかる)。 すぐ持って出かけられるように大体紙カバーをかけてあるので、いちいち開かないとタイトルがわからないんだけど・・・その分、帯や背表紙のキャッチコピーに惑わされず、自分が選んだときのうっすらとした記憶のみで読み始められるかも(前情報がなしになる感じ)。 あぁ、『指差す標識の事例』は読むのがなんだかもったいないなぁ。

  あの日に消えたエヴァ.jpg “Nieodnaleziona”   =“Not Found”
 ぼく(ヴェルネル)は幼馴染で長年の恋人エヴァにプロポーズをして受け入れてもらう。 その帰り道に二人は男たちに襲われ、僕が目を覚ましたのは病院。 その日からエヴァは行方不明になり、何の手掛かりも見つからないまま十年が過ぎた。 ぼくの親友のブリツキがフー・ファイターズのライブに来ていたエヴァが写り込んだ写真をフェイスブック上で見つける。 「エヴァは生きている!」、単身、探し出そうとするぼくに、ブリツキは調査会社へ依頼することを提案する・・・という話。

 これだけだったらまぁありがちな話っぽいんだけど、途中から語り手が「ぼく」に調査会社の経営者の妻「わたし」が加わるところがポイント。
 しかもヴェルネルが支払いに使うお金の単位がズロチであることがわかり、「なんかあれだと思っていたけど、そうか、これポーランドだ!」と気づく(そうだ、ポーランドミステリだ、と思って買ったのだった)。
 十年前の出来事を乗り越えられないヴェルネルの言動が、もどかしいがリアル。
 でもこれ以上は言えない!
 途中で「こういうことではないかなぁ」とうっすらわかるけど、それを裏切る(ちょっと強引な)展開!
 しかも「ここで終わるとは! 終わられても!」なラスト!
 本国では続編が出ているらしい・・・日本語訳も出してください!

ラベル:海外ミステリ
posted by かしこん at 15:25| 兵庫 ☁| Comment(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする