2020年03月23日

深層地下4階/デヴィッド・コープ

 「それに寄生されたら最後、すべてを奪われる」というキャッチコピーと、有機体的毒々しい緑(個人的にはキライじゃない色)の表紙に、「なんかタイムリー!」と盛り上がり、何冊か読みかけの中に更に割り込ませ、一気読み。
 ・・・正直、期待はずれだったかな。 もっとシリアスなタイプのものかと・・・というかこの状況下なので、ぐっとシリアス&リアリスティックなものを読みたかったんですね。 勝手なあたしの気分です。 そうじゃなければもっと楽しめたような。

  深層地下4階.jpg 主役は、宇宙からやってきた真菌。
 1987年12月、宇宙ステーションの残骸が西オーストラリアの郊外に落ちた。 そして近隣の人たちが全員死んだ。 原因は酸素タンクに入っていた、実験用の真菌が宇宙空間・墜落など様々な困難・刺激を受けて進化し、まったく新しい形質を獲得。 それに恐ろしさを感じた米軍特殊任務専門チーム(?)は、真菌コルディセプス・ノヴァスを天然の冷凍庫を利用した軍の施設に封じ込めた。
 しかし2019年3月、チームの提言は公的に引き継がれなかった。 温暖化のせいで冷凍庫の気温は年々上がっている。 そしてもともと軍の秘密基地だったアチソン施設は、一般企業に売却され貸倉庫として使われている。
 その日の当直であったティーケーキとナオミは、施設の奥から謎のブザーが鳴り響いていることに気づき・・・という話。

 膨大な時間を飽きることなく<増殖>という目的を忘れることない真菌コルディセプス・ノヴァス視点と、人生いいことない・貧乏くじを引いてばかりのティーケイクとナオミの「ボーイ・ミーツ・ガール」的ストーリー、裏でこっそり30年前のチーム再結成、という大きく三つの軸がよりあわさることで人類未曽有の危機を回避・・・という話ではあるものの、ティーケーク(仇名、本名はトラヴィス)がとにかくお喋りキャラで、コメディ要素が半端ない。 巻き込まれる人たちも一癖も二癖もあるヘンな人ばかりなので・・・「ま、こいつら死んでも仕方ないかなぁ」と思っちゃうんだよなぁ・・・
 真菌の描写はあまりにスピーディーな展開で、「なんか都合よすぎる・・・」疑惑が生まれるが、まぁ30年じわじわ努力してたからね、ということで。
 ダメ男トラヴィスが極限状況に至って自らを省み、成長する(しかも一目惚れしたナオミのために)、というのがこの物語の本質。
 筆者がベテラン脚本家だけあって、読んでいるときのイメージがほぼ映画。
 その後についてもう少し書いてくれてもよかったかな。 映画だと長くなりすぎるのは歓迎されないのかな。

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2020年03月18日

彼女は頭が悪いから/姫野カオルコ

 臨時閉館していた市立図書館から、「予約図書が届きました」とメールが。 これは早く読んで早く返さねば!、と図書館に行けば、入口前に平テーブルが設置され、臨時カウンターに。 利用者カードを渡して待つ。 図書館の中には入らせません、というなかなか厳重な体制であった(今はそこまでではないようですが、新聞読んだりの滞在はできないようだ)。
 これはずっと読みたかったんだけれど・・・文庫になるのを待とうと。 けれどやっぱり早く読みたいと図書館に予約したら、その時点で予約者は400人以上いたような・・・それでも文庫化される前に手元に届いたのは、これはすぐ読まざるを得ず、読んでしまったら待っている人にすぐ渡さなければ!、という使命にかられるからな気がする。 そういう衝動が、この本を読むことで生まれてしまうのだ。 そんなわけで、読み終えるまでは他の本に行くことができなかった。

  彼女は頭が悪いから 単行本 姫野カオルコ.jpg なんでしょうね、読んでいて生まれる怒りと無力感。
 巣鴨のマンションの一室で起こった、東京大学男子学生5名による強制わいせつ事件。 被害者は一人の女子大生。 だが、ネットなどで被害者がバッシングされ、彼女は「東大生の将来をダメにした勘違い女」というレッテルを貼られた。 そんな実際の事件に触発され(多分強烈に怒って)、姫野カオルコが描いた「非さわやか100%青春小説」。

 片や被害者となってしまう美咲、片や加害者となってしまうつばさ、二人が別々の場所で生きる中学生ぐらいから物語は始まる。
 やはりあたしは女だからか、美咲の主体性のなさというかぼわっと流される感じにすごくイライラしてしまう。 進学する高校のことぐらいもうちょっと考えて!
 だが家事を率先して手伝い、弟妹の面倒も見て、そのことにまったく不満も覚えない彼女の素直すぎるおおらかさに、だんだん参ってきてしまった。 大学生になってもそれって・・・敵いません、すごいです。 いい子なんだね、こういう人が「いいお母さん」になるんだよね、なってほしいよね!、と話が進むにつれ思うようになってしまいました。 だからこそ彼女の「付き合ってるからって裸の写真を撮らせるな!」とかの“迂闊な”部分にすごく腹が立ち、落ち込む。 好きな人に少しでも嫌われたくない気持ちはわかるのに、「でもそこは断らなきゃダメなんだよ!」と思ってしまう今の自分、そもそも撮るやつがダメなのに先にそう思ってしまうことについてのいらだち。 性犯罪について考えるとき、何故「被害者にも落ち度があるのではないか」という話になるのかいつも腹立たしいのだけれど、それに付随する概念が少なからず自分の中にもあることを見せつけられるから、より苛立つのだろう。
 なので後半以降、ぐっと彼女寄りで読んでしまっていた。
 だってつばさの方はほんとにつまんない人間だから。 何不自由ない家庭環境で、勉強だけしていればいい状況を作ってもらって全部自然に受け入れて、そのくせ他人には興味を持たないってなんだよお前!、という気持ちは拭えない。 勿論、類型的な父母やその親みたいなまわりからの影響もあるだろうけど、「他人のことに踏み込んだり近寄ったりはいろいろ面倒だ」と彼自身が選んでそうなったと思うから、それも彼の選択であり責任だ(対比のために、つばさの兄は途中で“まともな道”へ進んでいる)。
 あくまで「こっちは東大生なんだから、東大に通ってない、まして低い偏差値の女子大学生なんかと対等なわけないでしょう」という気持ち故に、頭の悪いやつらは人間扱いする必要はないという感覚がこの事件を引き起こしたのに、あまりに自然にその感覚が身についてしまっているから何が悪いのか気づかない、言われてもわからないという究極の断絶がそこにあって、絶望する。 描かれるのは性犯罪ではなく、自分より劣っている者はいくら貶めても構わないとする徹底的で無意識な差別意識。
 進化には多様性が必要というのは科学的な事実。 同様に人間の多様性だってあったほうがいいわけで、自分と違う人を尊重する方向に進んできたのが現代なんじゃないの?、といじめなどの非合理性に苛立つあたしなんですけど、仕事ではあいさつしない人とか見ると「おいっ!」って思っちゃう。 その人をいじめたくはならないけど、関りを持つときに「どうも信用できない」って目で見てしまうのはあたしの差別意識なのか。 自分の内面に向かい合わされる・・・。
 美咲の通う大学の先生が彼女に差し伸べてくれた手が、この物語で唯一の救いだった。 こういう大人が増えなければならないよ。

 この本が話題になって、更に「東大で一番売れる本」になったとき、東大に著者を読んでブックトーク会をやったときいて・・・その様子を記事にしている文藝春秋のオンラインで読んだ。 ・・・こじらせてる、なんかこじらせてる!、とコワかった。 これは小説の世界外の出来事だが・・・在学生・卒業生・教員の中にも「東大は特別感」ありますよね、と改めて知る。 論文やビジネス本はたくさん読んでいるかもしれないが、このイベントに集まった東大生は小説の読み方を知らないのでは・・・登場人物が思ったり考えたりしたことのファクト的正しさまで説明はしないのよ(それが登場人物のキャラを表すことになる)。
 他にも色々調べたが、東大新聞オンラインのページがいちばん客観性があるような気がする。 分量も多いし、その後のフォローもしてるし。
 フィクションをきっかけに新しい世界が、思考が開く。 これが小説の、フィクションの役割なのよ。

ラベル:国内文学
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2020年03月14日

エピデミック/川端裕人

 電子書籍にて、十数年ぶりの再読。
 誤植が多くてイライラするが、「あぁ、そうだった!」といろいろ思い出す。 そして書かれていることは今の知識で十分理解ができる内容(今回の新型コロナウイルス騒動で追加された理解含む)で、現実が情報の整理と理解をこんなに助けるか、まさに百聞は一見に如かずですな、と妙に納得してしまった。

  エピデミック20200307電子版.png この絵はスペイン風邪のときかなぁ。
 東京に近いC県のT市で、インフルエンザで重症化する患者が続出。 国立集団予防管理センター員でフィールド疫学が専門の島袋ケイトは現地入りし、インフルエンザとは違うものを感じる。 彼女を案内した現地の高柳医師も何かおかしいと感じる。 何もはっきりしないまま肺炎症状で重篤化する患者が増加、死者も続出。 市民たちは感染者が多い崎浜地域を封じ込めようとする・・・。

 序章からいろんな伏線・ヒントがちりばめられていて、「感染源にあたるものがいっぱいあるよ!」とドキドキする。
 だが、タイトル通り『エピデミック』=ある特定地域での感染爆発、のため、現在のCOVID-19を知った今となっては手ぬるいというか(症状は致死率が高いので全然手ぬるくない)、一般の人のパニック度合いが「おとなしすぎる・・・」と思ってしまいます。 かつて読んだときは「ひどいな」だったはずなんだけど。
 そのかわり、何が感染源なのか、そもそも病原もわからない状態で探していく<フィールド疫学>の過程がすごく面白い。 たくさんの手がかりから絞り込んでいくのはまさにミステリ的(第三部のタイトルは“疫学探偵”だし)。 予備情報としてインフルエンザ・SARSなどの感染症について詳しいことがわかる! 病院での集団感染などはリアリティ感じる! こうして医療崩壊になるのね! 飛沫感染においては手洗い・消毒・顔を触らないが最強の防御だとわかります。
 そっちの描写がしっかりしているため、小説のキャラクターの深みが弱いと感じる部分も。 川端作品に頻出する“少年”もここでは消化不良感がいなめない(終盤や後日談をもっと書いてもよかったのでは)。 でもこのもやっと感が感染症にまつわることなのかも。 多く描かれていないけれど、現在でも解決していない(というかそもそも想定されているのか?)「もし親が感染した場合、誰がその子供を見るのか」についてすごく考える・・・日本の様々な不備についても。

 だからこそ、誤植の多さが!
 文字を間違えているわけではないんだけど、地の文なのに頭に「がついていたり、文字下げできていなかったり、・が突然出てきたり、文の最後が消えていたりと、「日本語認識ソフトにかけて、文字化けだけ取り除いただけでは? チェックしてないのかよ!」という・・・紙の本を自炊にかけたほうがよかったんじゃないの、というレベルは電子書籍への信頼を損ねるものですよ。
 そういえばグラフなかったな・・・2×2表はあったけど。 単行本から文庫になる過程で省かれたのだろうか? でも筆者の謝辞は2007年だからベースは単行本なはずだけど・・・あたしの記憶がおかしいのか?

ラベル:国内ミステリ
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2020年03月08日

ザ・チェーン 連鎖誘拐/エイドリアン・マッキンティ

 よく見たらこれシリーズものじゃないじゃん!
 エイドリアン・マッキンティの<ショーン・ダフィーシリーズ>の舞台はアイルランド、しかし本作の舞台はアメリカ、そもそもショーン・ダフィーは出てこない!
 単独作ですよ、じゃあいきなり読んだっていいじゃないの。

  ザ・チェーン連鎖誘拐1 エイドリアン・マッキンティ.jpgザ・チェーン連鎖誘拐2 エイドリアン・マッキンティ.jpg <ザ・チェーン>は鎖であり、がっちりした輪っかでつながっていくもの。
 連鎖誘拐とは・・・「お前の娘を誘拐した。 返してほしければ、他人の子供を誘拐しろ」という電話がかかってくるという・・・。
 多くは言えない!
 しかし自分の子供を誘拐したのは、子供を誘拐された別の親で、お互い子供を殺したくないけれど自分の子供が殺されるというならば誰の子供でも殺す、という親ならではの共通認識がこの物語を恐ろしいものにしている。 何が起こるかわからないが、起こるならば悪いほうだろうという予兆に満ちており、上巻はものすごい勢いで読んでしまう。 あたしは子供がいないが・・・誘拐される子供たちと同年代の親はこれを読んで平気でいられるのだろうか?、と感じてしまうほど恐ろしい。
 が、下巻に入ると若干失速?
 この連鎖誘拐システム<ザ・チェーン>を仕切っているのは誰か・・・に触れてくるとスローダウンで、なんかもったいない感。 しかも「え、今ここで、それ、書いちゃう?!」という、フェアを意識するあまりか手掛かりを堂々と開示してくれるので、真実が明らかになる次の章終わりの最後の一行で驚けない!
 とはいえ、傑作が多々ある“誘拐もの”ジャンルの中で“連鎖誘拐”というワンアイディアで突っ走ったのは素晴らしい。 登場人物に対して感情移入か共感の境目ぐらいの距離間を保たせるってのも絶妙。 巻き込まれて死んだ人がただただ哀れ。
 悪意にはいつ牙をむかれるかわからない。 面白かった!、と素直に言えないくらい心臓に悪い。

ラベル:海外ミステリ
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2020年03月05日

皇帝と拳銃と/倉知淳

 通勤時にいつでも持ち出せるように、とブックカバーをかけて「いつでも出動準備OK!」な本たちがうちには山ほどある。 カバーが無地なら(使うのは印刷ミスしたA4用紙の裏)、マスキングテープでちょっと模様をつくってみたり、ゼンタングルの練習をしてみたりとその作業も実は結構楽しい。 分厚い本はA4よりも二回りくらい大きいファッション雑誌のブランド広告ページを破ってカバーにすると紙質も立派だし、どこで折るかでコラージュっぽくなるのも面白い。
 しかしそうやって棚の上にどんどん積んでいくと、カバーの中身が何かわからなくなる・・・めくって探す、という事態にも陥っているけど、それはそれでまた楽し。 これは、そんな待機本の一冊。

  皇帝と拳銃と.jpg 〈刑事コロンボ〉の衣鉢を継ぐ警察官探偵、登場。
 と、帯にあるように、まさに『刑事コロンボ』のエピソードにあっても不思議じゃない倒叙物短編4編収録。 ただし犯罪をあばく警部は乙姫という名の、見た目は葬儀屋のような、死神のような人物。
 一編目の『運命の銀輪』というタイトルに、「アリアンロッド!」と思ったのはあたしだけだろうか・・・。
 二編目、表題作『皇帝と拳銃と』はともに「警部があやしいと感じたポイントが読者にも推測できるようになっている、正統派倒叙物」。
 後半の『恋人たちの汀』・『吊られた男と語らぬ女』は“語り”に重きが置かれ、ちょっと違う雰囲気。
 どちらかといえばあたしが好きなのは前半のタイプだが・・・全部同じ傾向だと飽きられるというか、手掛かりの見つけ方をこちらも取得してしまうからかな?
 ただ、犯行の動機は比較的単純で、殺される側もまたダメな人で、そんなところもまたコロンボっぽいのだが、あまりに類型的すぎてもう一工夫ほしかったかも。 シリーズ化はするのだろうか。 乙姫警部には「この人のことをもっと知りたい!」と思わせるものがないので(なにしろ陰気で、“死神”と表現される以上のことがない)、微妙に盛り上がらない・・・。 コンビを組む俳優ばりの美貌を持つ鈴木刑事も、そんなにキャラは立っていない。 倒叙物、というジャンルをシンプルなまでに突き詰めた結果がこれ、ということなのか。
 でも意外に一気読み。

ラベル:国内ミステリ
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2020年03月02日

三つ編み/レティシア・コロンバニ

 フェミニズム文学は全部読む!、ということはないあたし(むしろそういう人たちが激賞していると気後れする)。 ナオミ・オルダーマンの『パワー』も少し前から存在を知っていたけれど、やっと読んだのは「SFとして」。 まぁ、考えすぎなんですけど。
 そんなわけで評価の高い『三つ編み』、ハヤカワだから、で読んでみた。

  三つ編み レティシア・コロンバニ.jpg 髪の毛は、本作では女性性の象徴。
 インド、不可触民のスミタは娘を学校に通わせ、自分とは違う人生を歩ませてやりたいと強く願う。 イタリア、父が経営する毛髪加工工場で働くジュリアは父親が倒れたのを機に工場をどうするのか決断を迫られる。 カナダ、弁護士のサラはシングルマザーだが、事務所ではプライベートは見せずに出世してきたのに、がんと診断される。
 まったく違う土地・環境に住む、年齢もバラバラな三人の女性のそれぞれの人生が交差していく物語。

 作者はもともと映画監督らしく、文章はシンプルだし、三人の女性の姿をカットを切り替えるように描写していく。 あまりにさらっとしているのでどこか物足りないほど(214ページですしね、さらっと読めてしまいました)。 その分、行間が広いのだけど・・・スミタ、ジュリア、サラそれぞれに起こる出来事に対して読者は大変腹が立つわけですが、「すごく腹が立つ」というこっちの気持ちを共感してもらう部分があまりないので(作者としては読者を信頼して、そんな目に遭っている人がいたら助けてあげてくださいーー自分もまたいつどこでそういう境遇になるかわからないのだから、と言っているのであろう)、若干フラストレーションが。
 結局、それは個人の戦いなのか。 でも共闘したっていいじゃないの。
 あたしはもっと書き込まれているほうが好きなのだが(自分も文章長いし)、行間が広くてあえてさらっと書いてしまう人には絶対かなわないと思う。
 作者自身による映画化プロジェクト進行中とのこと。 映画なら、フラストレーションは感じないかもしれないなぁ。

ラベル:海外文学
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2020年02月24日

夫・車谷長吉/高橋順子

 まぁ、こういうのも縁ですよね、と思って読み始める。
 そしたらもう、車谷長吉さんの言動がコワすぎて引く・・・怖いもの見たさで、読んでしまった。
 詩人・高橋順子がファンレターのようなひとりごと、十一通の絵手紙をもらってからの出会いとその後の話。

  夫・車谷長吉.jpg 表紙が絵手紙の一枚。
 表紙に使われているのはまだいいんだけど(一部口絵としてモノクロで収録)、ハガキ一面隙間もなく文字がびっしりのやつなど、書きこんでいる気持ちがあふれてこっちに迫ってきそうで、漢字や句読点もないので一読では意味がわからないときもあって怖い。 ご本人も会ったこともない人からこんなものをもらって「薄気味悪かった」みたいなこと書いてあった。
 人との距離感がおかしいというか、よくつかめない人なんだと思う、車谷長吉という人は。
 のちに重度の強迫神経症を患い、「このままではあなたを殺すか、自殺するか」を繰り返すような人と結婚しちゃったんだから著者はすごい!
 「これは結構ひどい、いまならモラハラだよ!」みたいなところいっぱいある・・・けれどご本人はさらりと流し、気にしていない感じ・・・そこに愛や情があるからなのでしょう。 二人だけに感じられた合う波長とかあったのでしょう。
 しかしあたしにはないので、「この人、コワすぎる!」としか思えないです。
 なんとなく記憶では、車谷氏は「土下座して結婚してもらった」と思っていたので・・・なんで順子さんにこんなに上から目線な言動をするのか納得いかない。
 仕事場のおじいさんは作家としての車谷長吉を高く評価しているようなので、その観点があればまた違うのかもしれないけど。
 すごく詳細に書かれている時期とそうでない時期がある。 日記を書けてない時もあって記憶にないこともあるそうだが・・・記憶にないって。 よほどすごい時期だったのでは・・・覚えていられないほど、時系列でまとめられないほど。 そんな“書かれていないこと”の存在もまたコワい。

 しかし、小説のモデルにされたからと名誉棄損などで訴訟になるってのもすごい・・・いくら私小説といったって、事実をベースにしたとしても“作者”というフィルターを通せば描かれるものは100%事実ではないので、モデルがいたとしてもすべてその人のことだとはあたしは思わないんだけど・・・世間には思う人がいるのか。 もしくは実物よりひどく書かれてイメージ悪くなったとか? 車谷長吉は姫路の出身だそうで、高橋順子さんは文庫版の付録の講演起こしの中で「姫路で車谷の話をするのは怖い」とも言っている。 訴訟内容は表に出せないのかもしれないけれど、いったいなにをそこまで?、と不思議で仕方ない。
 ううむ、これは車谷長吉を読めということか・・・。

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2020年02月20日

だから殺せなかった/一本木透

 鮎川哲也賞受賞作だからといって読まなくなったのはいつからだろう。 かつてはちゃんと読んでいたのに、賞に関係なくとも東京創元社からデビューする新人だというだけで読んでいたこともあるのに(その頃読んでた人たちは、今でも新作が出ると読んだりしているのに)。 好みの作品が続いた時期か、自分の年齢か。
 『ジェリーフィッシュは凍らない』を久々に読んだのが数年前で、それ以来かも。
 これは“あの『屍人荘の殺人』と栄冠を争った”として第27回鮎川哲也賞優秀賞受賞となった話題作だが、タイトルのインパクトがずっと頭に残っていて・・・図書館で予約したらやってきたので急いで読む(他の予約も詰まっていた)。 普段翻訳物中心に読んでいるせいか、日本人の書くものはやはり読みやすく、ほぼ一気読みだった。

  だから殺せなかった単行本.jpg 「新人離れした筆力」、確かに。
 クオリティペーパーと呼ばれる大手新聞社に届いた手紙は、首都圏で起こっていた三つの殺人事件を自分の犯行だと、無差別連続殺人だと伝えるもので、新聞紙上での公開討論を要求してくる。 指名された新聞記者は、これまでの連載で自分もまた過去に犯罪者の家族と関係があって報道と正義に対し割り切れない思いを告白していた。 人間を駆除すべきウィルスだと断言する犯人は「おれの殺人を言葉で止めてみろ」と記者に挑戦状を叩きつける。 そして始まる報道合戦の行方は。

 作者は新聞社関係の人なのかな?、と思わせるディテールは素晴らしい。 斜陽になってきている新聞という産業を描いているところもいい(ペンは剣よりも強し的な理念では通用しない部分)。
 ミステリとしても大変フェアなのだが、枚数が少ない&登場人物が少ない故に途中でわかってしまう!、のが残念。 せめて視点人物をもう一人増やしていたら、もしくは三人称視点なら、もっと盛り上がったかもしれない。 しかしモノローグ形式だから最後まで畳みかけを続けられたのかもしれないし・・・。
 面白かったのだけれど、「もっと面白くなったのに!」という感覚が拭えない、なんかもったいない感じが残って世界にのめり込めなかったのがほんとに残念だ・・・大きなテーマであるが故に、やはりもっと枚数が必要だったよ。
 しかし装丁(裏表紙も)が内容(特に結末)とリンクしていて味わい深い。 作品として作り手に愛されている感じがする、それ故に読者も不足分を含めてこの作品を愛してしまう。

ラベル:国内ミステリ
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2020年02月16日

出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと/花田奈々子

 「出会い系サイトで本をおすすめする」とは一体どういうことなのか。
 それが知りたくて読み始めるが、いきなり語り手は結婚生活をもう続けられないと家を飛び出し、ファミレスやスーパー銭湯を渡り歩く“宿なし”として登場し、まず人生に迷っていることにどよめく。
 これは、「本をすすめる」ことが描かれているだけでなく、「他人に本をすすめることでいつしか自分が救われる」というある種の王道ものでもあり。

  出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に.jpg なんでこんなガーリーなイメージ?
 宿なし生活に「なんでこんなことに」と呆然とする筆者は書店員。 しかし仕事も以前に比べるとうまくいってはおらず、日々疲労がたまる。 そんなときに「知らない人と30分だけ会って、話してみる」というWEBサービスXを知り、一念発起、「1万冊を超える膨大な記憶データの中から、今のあなたにぴったりな本を1冊選んでおすすめさせていただきます」ととプロフィール欄に書き込む。

 X(仮名)というサービスは出会い系とはいえ異性の恋愛関係だけに限っていないようなので・・・いろんな人がいるが、勿論ヤバい人もいる。 読んでた最初はXがSHOWROOM的なものかと思って、「あぁ、動画配信というか、スカイプ的なもので会って話すのかな、それならありかも」と解釈したが・・・タイトルは「実際に会って」。 しかも読み進んでいったら実際に会っているし!
 出会い系で知り合った人と初めて会うなんてヤバい、とは思わない。 そんな遅くない時間で、不特定多数の人がそこそこいる場所ならばそう危険とかではないだろうし。 ただ知らない相手と「本をすすめる」まで会話をするってのがハードル高い! 話が通じる人ばかりではないし。 でもそこがこの本の読みどころでもあるわけで。
 ただし、本のセレクトは「いかにも書店員」って感じの直球が多い感じ。 王道、ベストセラー、話題になった本を中心に、サブカル系に自分の好みを入れ込んでくるところとかまさにあたしのイメージする書店員そのものです(その割にご本人は自分をいわゆるカリスマ書店員みたいな存在とは縁遠いと思っている)。
 こういう方にはありがちだが、「そこそこ読んでます」という人にはおすすめ本が出てこないという・・・。 あまり普段読まない、何を読んだかよくわからないという相手には有効なんだな、と。 あたしもですが、ジャンル小説を主に読んでいる場合は「それ知ってます」になっちゃう(だからマニア寄りはマニア寄り同士で会話したくなるのかも)。
 でも、「本の話ができるのは楽しい」っていうのは確かだ。

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2020年02月15日

法月綸太郎の消息/法月綸太郎

 なんとなくお久し振りの法月綸太郎、比較的リアルタイム。
 単行本ですが特に厚いわけでもなく・・・中は四つの短編。 うち二つは法月警視が困った事件に遭遇したのを綸太郎くんが話し合いでとりあえず解決の途を示す、いわゆる“安楽椅子探偵もの”。 残りの二編はシャーロックホームズ譚とポワロ譚から導き出される<新しい仮定>について。 ミステリ黄金時代に思いをはせる、ほっこり系短編集。

  法月綸太郎の消息.jpg のりりん、名探偵としてよりも生存確認的短編集。

 シャーロック・ホームズの視点で描かれた二作の短編『白面の兵士』と『ライオンのたてがみ』に秘められた作者サー・アー・サー・コナン・ドイルの意図を読み込む『白面のたてがみ』。 エルキュール・ポアロ最後の事件とされる『カーテン』に仕込まれた作者アガサ・クリスティーの大胆すぎるたくらみを読み解こうとする『カーテンコール』。 作者法月綸太郎によるちょっとしたコナン・ドイルとアガサ・クリスティーの作家論でもあり、シャーロキアン的「原典の内容を深読みして違う世界を導く知的遊戯。
 うーむ、またクリスティを読み返したくなってきちゃうじゃないか。

 『あべこべの遺書』・『殺さぬ先の自首』は都筑道夫的というか泡坂妻夫的というか。
 法月警視の奥さんのことがさらりと書かれていて(綸太郎の母がそんなことになっていたとは・・・『雪密室』読んでいるのですがきれいさっぱり忘れていた・・・)、ドキドキする。 つくづくあたしはキャラ重視だ。 今が比較的安定していれば、その人の過去は関係ないと考える。


ラベル:国内ミステリ
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