2020年10月05日

苦悩する男/ヘニング・マンケル

 「まだ読み終わりたくない〜」と引き延ばし、下巻のはじめでいったん置いておいたりしたのだが(その間、別の本を複数読む)、再開してしまったらもう止まらなかった。 「しまった、ゆっくり読むはずなのに!」と気づいたときにはもうエピローグ。
 こんなことなら一気読みしたほうがよかっただろうか・・・いや、時間をかけてよかった。 刑事ヴァランダー、最後の事件だもの。

  苦悩する男1 ヘニング・マンケル.jpg苦悩する男2 ヘニング・マンケル.jpg 原著は2009年発表。
 スウェーデン南部スコーネ地方の田舎町イースタで刑事として働くクルト・ヴァランダーも59歳。 娘リンダも警察官になり、そろそろ引退を考えるお年頃。 そんなある日、リンダが妊娠して女の子を産む。 結婚の届けは出さないが投資信託会社でヘッジファンドを扱うハンス・フォン=エンケとリンダはパートナーとして同居する。 だったらなぜ結婚しないのかとヴァランダーは理解に苦しむ。
 ハンスの父親ホーカン・フォン=エンケは退役した海軍司令官で、母親のルイースは元教師。 ヴァランダーは自分と住む世界が違う人たちだと感じるが、ホーカンはヴァランダーの話を興味深く聞き、新たな家族として迎えてくれているようだった。
 しかし、ある日突然、ホーカンは姿を消してしまう。 蒸発なのか、拉致なのか。 ヴァランダーは以前のパーティーで会ったときのホーカンの様子に違和感を覚えたことを思い出し、捜査を担当するストックホルム警察のイッテルベリに協力しながら独自に捜査を進める・・・という話。

 いつものように、一見バラバラな出来事が次第に“つながっている・関連していく”過程は見事。
 東西冷戦時におけるスウェーデンの立ち位置、そしてオーロフ・パロメ首相についてはどうしても言及せざるを得なかったのだろうヘニング・マンケルの気持ちがみえるようだ。
 そこに、ヴァランダーの警察官人生(過去作品全部)の思い出や関わりのある人が出現したりと、まさにヴァランダー物語の集大成になっている。 1991年から年一作、リアルタイム感覚で99年まで描かれた物語はヴァランダーの刑事人生の充実していた時期そのもの。 それから十年の空白を経て現れた『苦悩する男』は、だからはじめからヴァランダーの警察官人生を、そして人生を締めくくる物語として書かれたのだろう。 でも日本の読者にとってはそこまでの空白ではなかったので・・・ヴァランダーがちょっと変わったように思えた。
 いつものように怒りっぽいヴァランダーだが、なんだか疲れてて、落ち込み気味。 いや、これまでだって疲れていたけど、疲れていることに対しても怒っていたような気がする。 癇癪を爆発させては自己嫌悪する、反省するのに直らないそのダメさ加減が彼なのに、ちょっとあきらめが入ってきてないですか? その境地になるにはまだ早いだろう!
 しかもこのラスト、なんかひどくない?! ちょっと突き放しすぎじゃない?
 びっくりして、思わず二度見した。
 しかしそれは、これを最終作にするためのヘニング・マンケルの覚悟なのかなぁ(「この先はどうなりますか?」と誰にも聞かれないための)。 自らも闘病中だった作者の気持ちも反映されているのだろう。 なんだか悲しい、後になって知ることが。
 が、ヴァランダーシリーズはあと一作あるので! 時間軸は過去にさかのぼるけど。 現在翻訳中とのこと、それを待つ楽しみがまだある。 再読する楽しみもまた。

posted by かしこん at 23:59| 兵庫 ☁| Comment(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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