2020年07月03日

破滅のループ/カリン・スローター

 たとえ文庫であっても、厚い本は持ち歩きにかさばる。 しかし読んでいる途中であれば持ち歩かねばならないのである。 電車を待つホームなど、隙間時間を利用する。 おかげで電車に乗っている間もあっという間に過ぎてしまう(自分が思っているより一駅分早かった、乗り過ごさなくてよかったよ)。
 そう、なんだかんだと、読み始めたら結局読んでしまったよ・・・カリン・スローター最新作。

  破滅のループ カリン・スローター.jpg <ウィル・トレント>シリーズとしては9作目。
 2019年7月、ショッピングモールの駐車場からCDC(疾病予防管理センター)の疫学者ミシェルが何者かに拉致された。
 約一か月後、アトランタで爆弾テロ事件が。 現場近くにいたGBI捜査官のウィルと医師で検死官のサラ・リントンは急行する途中で車の追突事故を見かけて思わず車から降りたら、彼らは逃走中の爆破犯たちとミシェルだった。 犯人たちを一部仕留めて捕まえたが、サラを人質に取られて逃亡を許し、ウィルも痛手を負う。 連鎖的に発生する凶悪事件の背後にいるのは何者なのか・・・という話。
 冒頭は事件をめぐるサラ視点・ウィル視点・フェイス視点が語られ、そのたびに時間がちょっと戻るのが進みを遮られているようでイラっとするけれど、それぞれが知ること・感じることが重層的に語られるのでこの繰り返し描写は必要だったのだ。

 5作目『血のペナルティ』以降前作の『贖いのリミット』まで、ウィルの身近な人々に起こる事件が続いてましたが、やっと関係ない事件が! でも、サラがさらわれるという・・・そういう部分はロマンス小説の流れを感じる。 ロマンス部分はコージーミステリとも通じます。
 しかし、今作はテロ事件ということで・・・ページ数最厚にして、事件の規模も、被害者の数も最大。
 事件を起こす集団は、白人男性原理主義者たち。 人為的に広めようとする伝染病も絡んでくるので・・・あぁ、COVID-19が蔓延する中、BlackLivesMatterの声が上がっている現状に見事にリンクしている。 今の現実はなるべくしてなったもの(回避・解消できたはずのことが先延ばしになってヘイトが現状の不満のはけ口となって渦を巻く)なんだというかなしさ・・・わかっているのに止められないむなしさ。
 人種差別者たちの発言は非常に身勝手で自分に都合のいい話ばかりなのに、それでもそれに自分の慰めを見出してしまう人がいっぱいいる、というのがむなしい。
 それにしても、作者はかなり取材したかものすごく調べたと思われる・・・。
 今回、ウィルはいつもよりさらにいいところがない(普段からフェイス、サラ、アマンダに押され気味のところがあるけど、今回はサラ恋しさのあまり冷静な判断が全然できてない)。 その分、サラが自分の過去のトラウマ(ごめん、このこと忘れてました)に否応なく向き合わされることで、立ち向かう力を得るのが本作の読みどころ。 自分もかつては犯罪被害者だったから、世の中からのバッシングに「その立場になったこともないくせに、安全地帯から発言する、自分は無敵だと信じている人間のなんと多いことか」というサラの嘆きと怒りは、COVID-19の感染者を責める日本の同調圧力にもそのまま向けられるという・・・なんともタイムリーな作品となってしまいました。
 サラとウィルの恋愛も、二人がサヴァイヴァーであることが深い意味を持っている。 いろいろお互い不器用だったり自分の枠を壊せなくてぐるぐるしていた二人が、お互いを思って一歩踏み出そうとするのは「回復」だ。 ただそのためにこの事件があったのだとしたらせつなすぎる・・・。
 リアルタイム設定で描かれるこういうシリーズって多いけど、今後COVID-19は作品の中でどう描かれるのだろう・・・楽しみに待ちたい。

ラベル:海外ミステリ
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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