2020年04月24日

離愁/多島斗志之

 何気なく開いてみたら・・・本文の前にある一節が目に入り。
 あれ、こんなのあった? 過去にあたしは単行本で既読済みなのですが、覚えてなかった。

> 今のわたしたちが交はす言葉は 恋人たちの甘い台詞の交換などではありませんよね。そんな気楽なものではありませんよね。だから 深い覚悟から出た言葉だけをお伝へします。

 この言葉に胸が撃ち抜かれた。 あぁ、これは本文終盤に出てくるやつだ!
 だが読んだのはだいぶ前なので・・・この手紙が書かれた背景については若干うろ覚え。 なので読み始め・・・結局一気読みをしてしまいました。

  離愁 電子書籍版.jpg 『離愁』 角川文庫電子版にて
 長じて物書きとなった“わたし”は、母の妹で徹底的に他人との関わりから距離を置いてきた藍子叔母のことを最近よく考える。 いとこの美羽は「叔母さまはなにが楽しくて生きているのかしら」とまで言う。 実の姉でもある母親も藍子叔母の人生をすべて知っているわけではなく、いくつかの偶然が重なって叔母の情報が入ってきて、“わたし”は本格的に藍子叔母の過去を調べることになった・・・という話。

 藍子叔母さんの青春時代は戦中なので・・・当時を回顧する手記や手紙は旧仮名遣いなのだけれど、使われているのは最小限なのか読みにくさを感じない。 
 なんというか・・・ミステリなんですけど、すごく文芸タッチ。 といっても堅苦しいわけでももったいぶっているわけでもなくて、「人間とは」の本質に迫ろうとする誠実さがあるのよねぇ。 勿論、“時代に翻弄される人物”の物語ではあるんだけど、そんな時代の中でも自分の覚悟をまっとうしようとする話。 美しいけど、それを美しいと呼んでしまってはいけない厳しさに、どうしたらいいのやら。
 でも、初読時はもっと強く打ちのめされたので・・・今回は「あ、こんな感じだったか」とちょっと肩透かしを食らった。 でもじわじわと、読み終わってから込み上げてくるものがある。
 最初に読んだとき、この本は『汚名』というタイトルだった。 文庫本になる際に『離愁』になったようだ。 冒頭の一節は電子書籍になってから?、なんか途中かららしいんだよな・・・(文庫版のプレビューには載っていないから)。 多島斗志之はタイトルづけだけちょっと下手というか、センスが微妙だという。 最初の題名が『汚名』だと知って読むと読まないのではちょっと感想が違ってくる感じが(前は思わなかったけど、今回は特高の若い刑事さんが実は主人公なんじゃないかという気がしたり)。
 紙媒体としては絶版(品切れ・重版未定)でも、電子版なら読める。 それが電子書籍のいちばんの利点だよなぁ。

posted by かしこん at 18:16| Comment(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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