2020年03月09日

スキャンダル/BOMBSHELL

 『スキャンダル』というありがちな邦題、なんとかならなかったのかなぁ、インパクトがないよ。
 原題“BOMBSHELL”は小さな爆弾・爆発的な情報伝播・衝撃的な出来事・・・という意味合いではあるが・・・それを日本語の単語に置き換えてしまうと「スキャンダル」になってしまうのか。
 『マネーショート』の脚本家ということで目まぐるしさは覚悟していたけれど、予備知識がないと面白さが全部つかめないと思わされたのも久し振り・・・。

  スキャンダルP2.jpg ニュースをお伝えします

 2016年、ドナルド・トランプが候補者として存在感を増してきた大統領予備選時期、アメリカのニュース業界では視聴率トップの<FOXニュース>看板キャスターのメーガン・ケリー(シャーリーズ・セロン)は、トランプの繰り出すセクハラに公然と抗議を続けることでトランプ支持者からいやがらせを受けている。
 そんな中、元人気キャスターで今は視聴率の低い時間帯のメインキャスターをしているグレッチェン・カールソン(ニコール・キッドマン)はひそかにFOXニュースのCEO、ロジャー・エイルズ(ジョン・リスゴー)をセクハラで訴える準備を進めている。 新人としてFOXニュースに入ってきたばかりのケイラ・ポスピシル(マーゴット・ロビー)は、なんとかいいポジションに抜擢してもらおうとロジャーに面会を試みるが・・・。 そしてグレッチェンはある日、理由なく解雇を言い渡され、セクハラを理由にロジャーを提訴した。

  スキャンダル1.jpg シャーリーズ・セロン、角度によっては全然顔がわからない!
 アメリカ在住の人たちにとってはメーガン・ケリーはとてもよく知っている人なのだろうけれど、日本人のあたしからしたら似ているのかどうかよくわからない・・・でも「激似!」と言われていたのできっと似ているのでしょう。 たかだか3年前の出来事を当事者に似せて(ニコール・キッドマンもかなり顔を変えている)映画にするんだから、アメリカではさぞ盛り上がったことでしょう。
 大統領選への内幕からスタートするので、そのへんも日本人にはピンとこない(観ていると流れがわかってくるし、重要なのはそこではないこともわかってきますが)。 が、討論会で、ツイッターで、メーガン・ケリーが間違ったマチズモに攻撃され続ける場面は物語的に必要だった。
 が、あたしが最も衝撃を受けたのは、わりと最初のほうで、緊張のあまりはきそうになるメーガン・ケリーに気づいたまわりの女性たちが「ちょっと彼女を休ませたほうが」と言うと、男性プロデューサーが「なんだお前たち、フェミニストか?!」とあきれたように聞く。 彼女たちは「違います!」と瞬時に強く否定して、「人としての配慮です」と小声で呟くというワンシーン。
 フェミニストという言葉が「不当に女性としての権利を求めるやつ」というニュアンスで使われている(使うのは主として男性)、そして女性たちは「私たちはそんな女性ではありません」と公言しなければ働けないという環境。
 アメリカ保守のおぞましい本質を見た・・・と思った。

  スキャンダル2.jpg 段ボール箱にではなく、ブランドバッグに荷物を詰めてFOXニュースを去る姿にグレッチェン・カールソンの誇り高さを見る。
 冒頭に「一部ニュース映像以外は俳優が演じている」的な文言が流れる。 実際に起きた出来事を基にしてはいるが、秘密保持契約にサインしているが故に詳細は出せないということなのだろう。 なので他の被害者たちからの証言をもとにして構成したものと思われる。
 グレッチェンが訴え出て、自分以外にも声を上げる人がいるだろうと期待するけれど、なかなか声が上がらない日々(その間、グレッチェンは「盛りを過ぎた女が身の程知らずに」などと公に非難される)の焦燥感がつらい。
 物語を掘り下げるには一本の映画では明らかに時間が足りていないけれど、映画で、この豪華キャスティングで、ということに意味があるんだろうことをしみじみ感じる。

  スキャンダル3.jpg ケイラ・ポスピシルと同僚のジェス(ケイト・マッキノン)は架空の人物(取材をして得られた何人かの証言をまとめたキャラ)とのこと。 他にも実名の人・架空の人が入り乱れている。
 ケイラは野心家というか、キャリア志向で自己主張が強いアメリカなら多分これくらい普通。 むしろ陰で「失敗した、どうしよう、もう私ダメかも」とパニくるあたり、本心は臆病なところがあるのに「頑張らなきゃ! 望む私にならなきゃ!」と無理しすぎる長女キャラが痛々しい。 だからロジャーに会って、「忠誠心を見せろ」と言われたときに・・・何が起こっているのか・どうしたらいいのかよくわからない彼女の姿もまた、ひどく痛々しい。
 フェミニストで何が悪いんだよ! 忠誠心って、仮に持つとしてもFOXニュースに対してであって、ロジャー本人にではないんじゃないの! あたしにはひたひたと怒りがこみ上げる。

  スキャンダル4.jpg こんなロジャー・エイルズをジョン・リスゴーがやたら憎々しげに体現。
 セクハラ・パワハラ男にありがちの、「そんなつもりはない、みんなだって楽しんでるだろ、そんな目くじら立てることない」の発想、一ミリも自分が悪いと思ってない。 その権力はその役職の座にあるのであってお前個人にあるものではないんだぞ!、と怒り心頭。 しかしこんな奴はロジャーだけではない、世界中にいっぱいいる・・・(この映画の中にも、ロジャーのように勘違いしている人が他にも何人か出てくる)。 が、男対女という映画にはなっていない。 ロジャーを支援する女性たちもいるし、訴える側をサポートする男性たちもいる。
 むしろロジャーの妻ベス(コニー・ブリットン)の描かれ方がすごい。 ベスもまた自分の立場を利用して周囲の人間に圧力をかけ、差別的な発想を“美意識”として発信しているという、まさにロジャーとお似合いの感じ・・・。 だからマルケッサのデザイナー、ジョージーナ・チャップマンはハーヴェイ・ワインスタインとさっさと離婚したんだろうか、自分も同類だと見られたくなくて、とかつい考えてしまった。 一方でロジャーの弁護士スーザン・エストリッチ(アリソン・ジャネイだよ!)は本来セクハラ被害を訴える人の弁護をする立場だけど、いろいろなつながりからロジャーの弁護を断り切れずに引き受けてしまった苦悩がずっと、後半はより強くにじみ出ていて、好きなキャラクターでした(弁護士としての務めはちゃんと果たします)。
 「(セクハラの)戦いはまだ終わらない」というエンディングの文字に、涙がこみあげてきてしまった。
 ハラスメントは「男対女」ではない、「権力を持つ者対持たない者」の間に起こることで性別は関係ない。 だから女の問題じゃないのだ。
 それにしても、男社会で頂点に立った女性たちが直接共闘できない哀しさとはなんなのか・・・。
 このあとMe,too運動につながり、声を上げやすくなった気はするけど、それを「でたらめだ」と声を荒げたりネットで誹謗中傷する人も減らない。 戦いは、まだ終わらない。

posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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