何度目かわからないアガサ・クリスティブーム。 でも世界各国で共通なのは、オールスターキャスティングだということ。 どうせやるならそうしたい、とみんな思ってしまうということなのね。
アリステッド・レオニデスが急死した。 ギリシャからイギリスにやってきて、無一文から一代で大富豪になったなった伝説の人物として有名な。 病死とされたが、孫娘ソフィア(ステファニー・マティーニ)はその死を殺人であると感じ、私立探偵チャールズ・ヘイワード(マックス・アイアンズ)に調査を依頼する。 実はチャールズはソフィアの元カレで、しかも振られた側なのでチャールズには未練がつきまとい。
チャールズの父親がスコットランド・ヤードの要職にいたため、タヴァナー主任警部(テレンス・スタンプ)はレオニデスの死因は毒殺だと教えてもらい、レオニデス邸に向かうことに決めたチャールズ。 レオニデスの先妻の姉イーディス(グレン・クローズ)が一族を束ねている良心的存在、ソフィアの父である長男フィリップ(ジュリアン・サンズ)は売れない女優の妻マグダ(ジリアン・アンダーソン)のために映画をつくろうとしていて、父親の事業を継いだ次男ロジャー(クリスチャン・マッケイ)の会社は倒産寸前の状況。 アリステッドの後妻である若きアメリカ女性のブレンダ(クリスティーナ・ヘンドリックス)は財産目当てと他の一族から白眼視されていて、ソフィアの弟ユースティス(プレストン・ナイマン)は姉を疑っており、末っ子の妹ジョセフィン(オナー・ニフシー)は探偵気分で家中をかぎまわっている。 莫大な遺産を巡って、誰にでも動機があり、誰にでも犯行が可能。 チャールズは地道に聞き込みを開始し、真相をつかんだかと思ったときには第二の殺人が・・・という話。
原作よりも時代を10年以上あとの設定にしていたけれど、こっちから見たらどっちも昔なので・・・それくらいの変更は気にならなかった(だからチャールズが私立探偵という設定にも無理がないというか)。
一応主役っぽい立ち位置なので、『天才作家の妻』のときより出番が多く、「はっ、ジェレミー・アイアンズに似てる!」と思える角度がありました。 二世はチャンスも得られやすいだろうけど、常に比較される宿命も背負っているので・・・でも彼は成功してきているほうなのではないか(グレン・クローズとも共演してますが、撮影はこっちのほうが先のような)。
ソフィアとチャールズの関係が、若い人の意地っ張りの結果こじれてます、と見える部分は微笑ましいんだけど、殺人が絡んでいるとなるとそうもいかず・・・登場人物が順番に出てきてくれるのでわかりやすいんだけど、その関係は会話から把握しなければいけないので、字幕書く人は大変だっただろうな、と(こちらも限界ギリギリ数の文字を追わねばならず、いそがしい)。
でも館の調度品やみなさんの服装はすごくゴージャスで、チャールズのスーツの安っぽさが逆に引き立つ(階級の違いがあらわされているのか)。 いろんな意味で、グレン・クローズの格の違いも感じたり。

チャールズが一人一人と会話を重ねることで、その人物の持ついろんな面がじわじわ現れてはくるのだけれど・・・残念ながらそのあたりは小説にはかなわなかった感じが。 役者の存在感で説明を補おうとするからオールスターキャストになりがちなのかも(日本でも松本清張や横溝正史作品などの映画化・ドラマ化にもその傾向あり)。
でも原作にできるだけ忠実に!、という製作陣の敬意は感じられたと思う。
「犯人は〇〇」というのは今では目新しくない設定だけど・・・あの当時にそう書いたアガサ・クリスティはやっぱりすごい、と実感。
ただ、ポアロのような名探偵が不在なため、チャールズの役立たずっぷりが目立ってしまう・・・彼は探偵ではなく、この一族に迷い込んだ右往左往する第三者という役割なので物語的にはそれでいいんだけど、“私立探偵”を名乗られると期待してしまうよね、という話。
幕切れがあまりにもばっさりで、愕然としているうちに終わってしまうのはあまりに余韻がないが(犯人に予想がついていても)、犯人の意外性を引き立てるためにはそれがよかったのかな。