2019年02月15日

ナチス第三の男/THE MAN WITH THE IRON HEART

 『HHhHープラハ、1942年』が映画になることは知っていたけど・・・「えっ、これなの?!」とびっくりする。
 なんか普通に歴史映画・・・だよね? 原作に込められていたメタ視点とか「そもそも小説とはなんだ」といった仕掛けとか、一切ないよね? まぁそれを映像化しようと思ったらかなりアクロバティックなことをしなければならないのだが。
 チラシ裏に、「原作とは全く違うが」という原作者本人のコメントがあった。 やっぱり。 歴史ドラマとして、見届けましょう。

  ナチス第三の男P.jpg なぜヒトラーでもヒムラーでもなく、彼だったのか?
   史上唯一成功した、ナチス高官の暗殺計画。誰も知らない真実の物語。

 1942年5月27日、メルセデスに乗ったラインハルト・ハイドリヒ(ジェイソン・クラーク)が市の中心地を通りかかる。 それを綿密な計画で待ち構える暗殺団がいた。
 それに先立つこと12年前、通信将校であったハイドリヒは社交場で貴族階級のリナ・フォン・オステン(ロザムンド・パイク)と運命的な出会いを果たす。 が、彼の女癖の悪さ故に不名誉除隊に。 しかしナチ党の絶対的支持者であるリナにはげまされ、チャンスをもらい、SSリーダーのハインリヒ・ヒムラーとの知己を得る。 ヒムラーはハイドリヒの試験結果に満足し、情報部新規立ち上げに対してハイドリヒを重用することに。 ナチ党に加わったハイドリヒは諜報活動で裏のつながりを強め、ヒトラー政権樹立後はゲシュタポ・警察機構・SS保安部などを統合した国家保安本部を立ち上げ初代長官となる。 ハイドリヒはナチスでは<鉄の心臓を持つ男>として知られ、保護領(チェコのこと)の副総監・“ユダヤ人の最終解決法”の首謀者としてヒムラーに次ぐ巨大な権力を手中に収める。
 一方、ハイドリヒの弾圧に強い危機感を抱いたチェコスロバキア亡命政府はイギリス政府の力を借り、ハイドリヒ暗殺計画を立てる。 実行するのは亡命チェコ軍のパラシュート部隊からヤン・クビシュ(ジャック・オコンネル)、ヨゼフ・ガブチーク(ジャック・レイナー)ら数名の若者たち。 チェコ国内に潜伏するレジスタンスの力を借りて、ハイドリヒの行動を調査し、暗殺に最適なときを狙う・・・という話。
 冒頭の路面電車ごしにメルセデスがやってくるところ、銃を構えて車の前に立ちふさがる男が撃とうとしているのに弾詰まりなのか発射されない一瞬、などはすごく観たことがあって、あ、『ハイドリヒを撃て!』だね、と思い出す。 あれはレジスタンス側視点の映画ですが、これは前半がほぼハイドリヒ側視点で進む。

  ナチス第三の男4.jpg ロザムンド・パイク、マジ怖かった・・・。
 ナチスの考え方に疑いを持たない、むしろ正しいと思っている人の純粋さがおそろしい。 良き妻・良き母・良き国民であるという自信、勿論そうなるように努力しています!、という強さ。 現代人として「ナチス思想は間違っている」と思えるけれど、もしこの時代にいてリナに会っても、あたしは絶対彼女を説得できないだろうという無力感を覚えつつ、そんな彼女の強さを美しいと感じてしまう自分もいるので困る。
 リナはマクベス夫人のよう、ということもできるけど、上流の生まれで「そうすることが当たり前」として育ってしまった人に考え方を変えさせることはひどく難しい・・・。
 そんな<かたくなな美しさ>を全身にまとうロザムンド・パイクは『ゴーン・ガール』のイメージが定着しかねないにもかかわらず、こういう役をためらわないところに、役者魂を感じてドキドキする。

  ナチス第三の男2.jpg やっぱりどこかあやしいジェイソン・クラーク。
 ハイドリヒの“金髪の野獣”の異名通り、髪の毛をブロンドにしたジェイソン・クラークはいつも以上に何かありそうなたたずまい。 挙動不審?、神経質?、とも見えた弱い部分も、リナのバックアップや組織内の地盤ができていくにつれ自信家になっていくことで生まれ変わったように見える。
 原題の<THE MAN WITH THE IRON HEART:鉄の心臓を持つ男>は、ナチ側から見たハイドリヒへの評価(命名したのはヒトラー)であって、「人間としての感情が通じない、心臓が鉄でできている男」という意味ではない。
 本来、組織における自己実現は、個人的には居場所の確保と安定と挑戦への飛躍として望ましい。
 しかしその組織がナチであったのが世界において悲劇だった。

  ナチス第三の男3.jpg パラシュート部隊の二人。
 あ、『シングストリート』のお兄ちゃんだ!、着実にがんばってるね!、と思えたのはとてもうれしかったです。
 しかも暗殺部隊の一人だよ・・・せつない側の立場ですよ・・・。
 レジスタンスの方々の暮らしは静かだが壮絶なる覚悟に満ちている。 なにかあったら、用意してある毒物でどんな小さな情報も漏らさないように死なねばならないと決めているから。 いつどうなるのかわからない、この先いつまで生きられるのかわからない、そんな生活をしていたら、レジスタンスからの協力者アンナ・ノヴァーク(ミア・ワシコウスカ)とヤンが恋に落ちてしまうのも必然だと感じてしまう。 でもその想いが盛り上がれば盛り上がるほど、自国の平和のためにはこの恋は終わるのだという揺るがしがたい事実があって。 こういう役にミア・ワシコウスカはほんと似合うよね! まさに時代に引き裂かれる悲恋。
 でも、子供と一緒に毒を飲み、一緒のベッドに横たわる親子とか、母親が先に追い込まれたために毒を飲み、苦しみ倒れる姿を見てしまった娘がわけわからず悲鳴を上げるとか、そっちのほうに胸を引き裂かれてしまいました。
 ハイドリヒ襲撃後、ナチスは報復のために特に証拠もなく近隣の村をいくつも全滅させる。 その容赦のないやり口に居場所を密告される。

  ナチス第三の男5.jpg 隠れ家は聖キュリロス・聖メトディオス正教会の地下納骨堂。
 教会での銃撃戦は・・・ただただかなしい。
 時代の古さがライフル銃の性能によって否応なく強調されて、「あぁ、こんな武器でやり合っているのか」とせつなくなって。
 勿論、高性能の機関銃があればいいとかそういうことでもないんだけれど。 有効な道具がないからハイドリヒ暗殺も接近戦になったわけだし・・・無人機を使って戦場から離れたところで引き金を引く、というのもどうなんだ、というのもありますが、自分の力と意志で目の前の敵を殺しています! そして自分も同じように狙われ、命を落とす覚悟です!、というのは・・・それもまた残酷ですね、と思うしかなくて。
 エンディングで、ヤンとヨゼフが初めて出会うシーンが挿入されていて・・・泣きそうになりました。
 ドイツ・チェコスロヴァキアを主に舞台にしながら台詞がほぼ英語というのは違和感ありましたが・・・英語圏の役者さんを多く使っているから仕方ないよね〜(制作はフランス・イギリス・ベルギー)。 というかオープニングにワインスタインカンパニーのマークが出たのには驚いた・・・2017年の映画でした。 こういうときに時差を感じます。

posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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