2019年01月15日

彼が愛したケーキ職人/The Cakemaker

 イスラエル映画って、『迷子の警察音楽隊』以来かもしれない・・・(『運命は踊る』も気になっていたが見逃してしまった)。 でもケーキが出てくると言われたら、気になりますよ! こっち優先!
 また、どうにもならない恋愛感情に振り回されている登場人物という印象だったので、ドロドロしかねない題材を正面から堂々と取り上げる姿勢がよい!、と思った次第。

  彼が愛したケーキ職人P.jpg 悲しみが、甘い涙に変わるまで

 ベルリンの街角、小さなカフェを開いている若きケーキ職人のトーマス(ティム・カルクオフ)は店のショーケースにパンからケーキ、クッキーなど焼き菓子も含め自信作を並べている。 定期的にイスラエルから出張でベルリンに来る建築技師オーレン(ロイ・ミラー)はトーマスがつくるケーキを気に入り、店の常連となり、いつしか二人は恋人同士に。 しかしオーレンには故国に妻子がいるのだが、ベルリンにいるときは二人だけの時間。 そんなある日、「また一ケ月後に」とエルサレムへ戻ったオーレンからその後、連絡が来ないことに落ち着かなくなったトーマスは、「注文のお品、取りに来られないのですが」とベルリンのオーレンのオフィスを訪ねる。 そこで聞かされたのは、オーレンはエルサレムで車の事故に遭って死んだということ・・・。 数か月後、トーマスはエルサレムにやってきた。 オーレンの妻アナト(サラ・アドラー)は夫の死のごたごたで休業していたカフェを再開するところだった。 トーマスは観光客としてそのカフェを訪れてみるが・・・という話。

  彼が愛したケーキ職人2.jpg ベルリンでの時間は幸せだっただろうが・・・オーレン、ずるいなぁ。
 妻子がいることを隠しもしないで付き合うって、関係を続ける主導権を相手に預ける形になる。 「君がイヤならいつでも身を引くよ」と自分は決断しないで相手に任せてる。 それがズルいよね! せっかく見つけた相手なんだから、トーマスから「別れたい」って言えないのわかった上でのその仕打ち。 不倫の責任はどちらにもありますが、オーレンのほうがズルく感じちゃうなぁ。
 しかも、残されるのはトーマスの方。 隠している関係だから、訃報も届かない。 ・・・切ない。 世界中の夫か妻がいる相手と不倫をしている独り身の方、このシチュエーションに耐えられるかどうか、というのを是非考えていただきたい!、と思った。
 虚無を抱えたままのトーマスは、当然のようにエルサレムに来る。 会ったからどうというわけではないものの、オーレンの妻の姿を見ずにはいられない・・・ということなのでしょう。 その結果、お店を手伝うことになっちゃうのはやりすぎなんだろうけど、そこから引き返せないだろうなぁというのもなんかわかる。 トーマスが傍から見たらつい笑っちゃうような行動を大真面目に(もしくは意識せずに)とってしまうのもちょっと微笑ましい。

  彼が愛したケーキ職人3.jpg クッキーにアイシングをかける作業はお絵描きに似てるから。
 いきなり父親が亡くなり、精神的なショックから立ち直れていないらしいオーレンの息子のために、トーマスは得意のクッキーを焼き、アイシングをやってみるか?、と気さくに声をかける。 事情をよく知らない(と思われる)相手からのあっさりした気遣いは、子供にとって負担になりにくい気がする。
 ところが! イスラム教におけるハラムのように、ユダヤ教にも食事をつくるに際し守るべき手順というのがあるらしい。
 休息日に料理をしていけない、というのはわかるが、非ユダヤ教徒はオーブンを使えないってのはどういう理屈なの? アナトは「あまり厳密にしなくていいんじゃないか」と融通を聞かせるタイプだが、親戚(特にオーレンの兄)はかなり厳しく、甥っ子に「あの外国人がつくったものを食べれば地獄に行く」と陰で教え込んでいたりする。
 コワい!
 宗教上の、戒律上の理由があるからそうするのでしょうが、非ユダヤ教徒にとっては意味がわからないのだから何故そうなのか理由を教えてくれよ・・・ただ「ダメなものはダメ」ではどうしていいかわからない。 外国人は排斥されるだけ、と感じてしまうではないか。
 そんなわけでオーレンの兄はトーマスに厳しい態度をとるのだけれど、オーレンの母はトーマスに優しい、というかかなり気を遣ってる。 「オーレンの部屋、見る?」とか・・・もしやこの人は二人の関係を知っているのか、と思わされる(正解は出ないので、あくまであたしがそう感じただけではあるが)。
 勿論、というか・・・気づく要素はいくつもあるのにアナトはなかなか気づかないどころか、寂しさを埋めてくれる存在としてトーマスを意識するようになっちゃってきたからさあ大変。

  彼が愛したケーキ職人1.jpg すごい量の注文が入った・・・のに。
 そんなことしてていいのか!、間に合うのか!、とあたしはハラハラ・・・。
 噛み合わない二人の欲望の方向に、ハラハラ・・・。
 人を愛するとはどういうことか、自分の中にある愛情をどのように昇華すべきなのか、感情にとらわれてしまっている自分をどうすれば開放できるのか。 それらは難しい問いだが、問題なのは苦しみのただなかにいるときにはそのような客観的な視点を持つことができないということ。 だからとにかく切ない。

  彼が愛したケーキ職人4.jpg トーマスのつくるケーキはドイツらしく素朴。
 フランス菓子のような華やかさには欠けるけど、シンプルで見た目が味を裏切らない実直さと、そもそもイスラエルにはない味。
 トーマスのお菓子は町の人々を引き付ける。 もしかして、オーレンが惹かれたのもトーマスが<イスラエルにないもの>を持っていたからだろうか。
 ベルリンの街並みは変化に富んで美しく、時代の推移も感じさせる。 しかしエルサレムの街並みはごつごつした日干しレンガ(?)の建物ばかりでどこを見ても代り映えがしない。
 物語的にははっきり結論を出さないので、もやっとする系ではあるものの、観る側にゆだねられている余韻と解釈でき、それ故に「あぁ、あれはどうだったのか・・・」としばらく考えることができる。 これもまた映画的幸福。

posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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