2018年12月20日

恐怖の報酬【オリジナル完全版】/SORCERER

 『恐怖の報酬』といえば、「トラックでニトログリセリンを運ぶ話」だよなぁ、という知識はあたしにもあった。 多分昔映画雑誌で<過去の名作紹介>みたいな記事を読んだのだろう。 写真のイメージはモノクロだが、それは雑誌がモノクロだから? でも岩肌の崖の道のようなところを進んでいたような・・・と、今回の完全版のチラシを読んでいて気づく。 それは1953年のオリジナルのフランス映画のほうか!
 今回のウィリアム・フリードキン版は1977年。 ものすごい費用をかけて制作したものの、全米公開では大コケ。 そのため、北米以外では監督に無断で30分ほどカットされたものが劇場公開、権利者不明のまま封印されていた・・・とのことで、監督自ら複雑怪奇な権利関係をひとつづつクリアし、5.1サラウンド・デジタルリマスターしてノーカットバージョンを復元した、という。
 監督の執念も素晴らしいが、監督に黙ってカットしたものが外国に回るっていうのもね・・・でも映画ってプロデューサーや制作会社のものってことになってるのよね・・・映画監督っていったいどういう立場なのか、と考えさせられますな。

  恐怖の報酬 完全版P.jpg 密林の果てに、地獄を見た――。
   遂に40年の封印を解かれた伝説の超大作【オリジナル完全版】日本初公開

 メキシコの殺し屋・ニーロ(フランシスコ・ラバル)、エルサレム市内で爆弾による無差別テロを起こしたカッセム(アミドゥ)、パリで不正な取引に手を染めた投資家・マンゾン(ブルーノ・クレメル)、アメリカで強盗をはたらいた勢いでマフィア幹部の家族を死なせてしまったスキャンロン(ロイ・シャイダー)。 それぞれの理由で追われ、逃げてきた彼らは最終的に南米の小さな村の製油所で身分を偽りながら働いている。 誰もがここから出たいと思っているがカネがない。 ある日、遠く離れた油井で爆発事故が起こるが、まったく鎮火できない状態が続く。 製油所に雇われているボビー・デル・リオス(チコ・マルティネス)は、ニトログリセリンによる爆風で消火することにするが、ニトロの保管状態が悪く、ちょっとした衝撃でも爆発しかねない。 ボビーは成功報酬一万ドルでニトロの運搬係を作業員から募ることに・・・という話。

  恐怖の報酬 完全版1.jpg ロイ・シャイダー、好きです。
 『ジョーズ』や『ブルーサンダー』もそうだったけど、思わぬ事態に巻き込まれてしまい命懸けの悪戦苦闘を強いられる、という役が似合うなぁ、この人は。
 しかしそんなのんきなことを思っていられるのも長くはなかった。 4人(主に3人)が一堂に会するまでが結構長いのであるが(多分、このあたりが多くカットされたんだろう)、それがもう<地獄への道程>なのだ。 南米に来てから、ニトロ出てくる前から<地獄>なのである。 ポスターのコピーは違うな、密林の果ての地獄があるのではない、この映画は最初から地獄を描いている。
 あぁ、ここから逃げ出すためならなんでもするって思うよね・・・。

  恐怖の報酬 完全版3.jpg マンゾンはフランス人の伊達男らしく、落ちぶれきっていてもお洒落心とマナーのよさは消えないところがキュート。 台詞はどこでも英語だが。
 というか冒頭の爆弾テロ描写あたりから、「え、これみんな俳優さん? 当時の町並みを普通に撮影して後付けしたのでは?」と感じてしまうほどリアリティたっぷり。 むしろドキュメンタリータッチ。 この当時は爆弾テロと言っていなかったのでは・・・と思っていると、ラジオニュースが「反政府ゲリラによる」みたいなことを言う。 あぁ、反政府ゲリラ! 昔はそういう言い方してたよねぇ! 時代を感じるわ・・・一部シーンの血糊はいかにもペンキっぽいぞとか、いわゆる「フラグが立つ」そのままだったりという部分はあるのだが、それは昔の映画だしなぁ、と思うので気にならない。
 それ以上に全体に漂う緊迫感がすさまじい。 観ている側に深呼吸する余裕がない。 油井の爆発事故に巻き込まれた被害者描写も容赦なく、CGを使っていないことから来る“本物感”にビビる。

  恐怖の報酬 完全版2.jpg 箱の中には不安定なニトログリセリン。
 もう今では爆発物としてニトロなんて使わないよね・・・そこもまた時代ですが(TNT火薬とかC4?)。 ニトロといえば心臓の薬というイメージだけど、それも使われているのかどうか。 でもそんな身近ではない爆薬故、どう扱っていいかわからない、どこまで気をつければいいのかわからない彼らの困惑と恐怖がこっちにも伝わるわけで。
 あ、と気づく。 『来る』をそれなりに面白いと感じたけど、同じ現代の日本に住むらしい登場人物たちよりもこの映画の昔の逃亡者たちのほうを、あたしは気にかけているということに。
 ボロボロのトラックを寄せ集めて運搬用の二台のトラックを整備するシーンは、地獄において唯一のワクワクドキドキするところ。 あぁ、ここに日本車があったらね、と思ってしまうけど。 原題の“SORCERER”は「魔術師・幻術使い」といった意味だが、片方のトラックにつけられた名前。 ポスターに映っているトラックの正面顔が、次第に悪魔っぽく見えてくるおそろしさ。
 地を這うような、幻覚を伴う悪夢のような音楽もまたおそろしい(知らなかったが、ジャーマン・プログレのタンジェリン・ドリームが担当)。
 が、いちばんおそろしいのは、地獄から逃れようとしても、地獄はどこまで行っても地獄なのだ、ということ。
 世界は情け容赦なく残忍で、運命からは決して逃れることはできないのだ、という。
 こっちのほうがホラー映画だった。 なるほど、ウィリアム・フリードキンが『エクソシスト』を撮った意味がわかろうというものだ。

posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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