2018年05月20日

ピラミッド/ヘニング・マンケル

 あぁ、もうちょっと読んでいたかったのに、読み終わってしまった・・・。
 『殺人者の顔』から始まる<ヴァランダー警部シリーズ>、日本での翻訳時差はありますが、本編は1990年・ヴァランダー42歳の時点からのスタート。 本書はファンの声にこたえて作者が「『殺人者の顔』のヴァランダーに至るまでの彼の人生の軌跡」を点描でまとめたもの。 なので短編集ではあるものの、ヴァランダーのそれまでの人生を描いた長編と考えることもできるわけで。
 それだけのキャラクターへの愛着を読者に持たせるとは・・・やはりすごいなぁ。

  ピラミッド ヘニング・マンケル.jpg 何故スウェーデンなのにピラミッドなのか?、は読めば納得。
 5編収録。 ヴァランダーの年齢順になってます。
 『ナイフの一突き』は1969年6月の出来事。 ヴァランダーは22歳でまだ警官、しかもマルメ警察所属。 刑事課のエース・ヘムベリに食いついたら離さない気質を見込まれて刑事課の手伝いをし、これが捜査官としてのヴァランダーの将来を決める事件に。 のちに結婚し離婚するモナとはまだ恋人時代なれど、「この二人、絶対うまくいかないよ・・・」という空気はくっきり(まぁ後付けですけど、なんで結婚したんだろうね、この二人)。
 『裂け目』はこの中でいちばん少ないページ数なれど、ヴァランダーの警察官人生においてのターニングポイント。 1975年のクリスマスイヴ。 仕事においては彼は警部補になっているが、モナと結婚して娘のリンダが生まれているがすでに夫婦仲は破綻気味のため次の夏にはイースタ署に転勤することになっている。 より田舎に行くことで仕事に費やされる時間を少しでも減らせるように(だからもうマリアガータンのあの家に住んでいる)。 「この国はどうなっているのか? どうなっていくのか?」とヴァランダーが心底思った最初の事件かも。
 三作目の『海辺の男』からはイースタに完全に舞台が移るので、いつものシリーズの空気感たっぷり。 この事件は1987年4月なのでイースタで働き始めてもう10年経っていることに。 リードベリに対するヴァランダーの尊敬の念が眩しい(なので体調不良を訴える彼に「早く病院に行って検査を受けて!」と言いたくてたまらない)。
 『写真家の死』は1988年4月。 この一年でヴァランダーは捜査官としての確かな実績をイースタで示したようで、実質上のリーダーになっている(その割に相変わらず思いつきが先行しての個人プレーが多く、自分でも反省している)。 このあたりからイースタ署の懐かしのメンバー勢揃いという感じで、なんだかうれしい。 風邪をひきやすくてすぐ休んじゃうマーティンソンとか。 せっかちなハンソンに実直なスウェードベリとか!
 そしていちばんの長い『ピラミッド』はプロローグとエピローグ付き。 もはや短編ではない。 スウェーデンの片田舎にいながら、犯罪は国境を越え、普通の人と思っていた人たちの意外な裏の顔が存在することが意外でなくなってくる時期に。 でもそのことにヴァランダーはまだ慣れないし、慣れたくないと思っている。
 この事件は1989年から1990年にかけて、つまり最後は『殺人者の顔』の冒頭とクロスする形で幕を閉じる。
 なんて素敵なファンサービス!
 描かれているのはヴァランダーの捜査官としての成長と、人間としての苦悩、<新しい時代の犯罪>の着実な気配。
 それにしてもヴァランダーの父親は困った人だ・・・あたしだったら絶対縁を切っていると思うが、ヴァランダーは時に癇癪を爆発させつつも最終的に父親を許している。 その関係は正規のシリーズにも続いていくものだけれど、<家族>というのもまたこのシリーズにおけるサブテーマのひとつだからかなぁ。
 あぁ、次の作品、読みたい! でもヴァランダーシリーズは残り2作なんだよね・・・次の翻訳はノンシリーズらしいですが、それでも楽しみです。

posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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