2018年05月13日

真実の10メートル手前/米澤穂信

 ヘニング・マンケルの『ピラミッド』と一編づつ交互に読んでいこうかと思ったのだけれど、ページ数が違うので、結局こっちのほうを先に読み終える(『ピラミッド』は今3編目に入ります)。
 やはり「日本語を話す人が書いた日本語」は読みやすい。 言葉だけじゃなくて、文化基盤を共有している前提で読めるから。

  真実の10メートル手前.jpg 短編6つ収録。

 フリージャーナリスト、大刀洗万智(たちあらい・まち)の活動の記録。
 作品の発表順ではなく、大刀洗さんの年齢順に構成されている。
 『さよなら妖精』で高校生だった大刀洗さん、主役ではないけれど群像劇としてメインキャストの中でおいしい役どころ(というのは悲痛な覚悟を抱えて「告げる役」を引き受けた彼女に対して失礼かもしれないが)。 記者という仕事だったかどうかはわからないが、組織人ではなくフリーとして生きていくとしたら、あのメンバーではきっと大刀洗さんだろう、と違和感はなかった。
 でも、本編は『さよなら妖精』を読んでいなくても十分楽しめる。 むしろ、ここから入った人は「高校生の大刀洗さんを知りたい!」と『さよなら妖精』に入る可能性は高い。 どちらでもいいと思う。
 表題作『真実の10メートル手前』は、意外にも大刀洗さんの一人称だった(『王とサーカス』もどうやら大刀洗さんの一人称であるらしい)。 それ以外の5編はそれぞれ別の人が語り手となる。
 『正義漢』の語り手は守屋くんだろうか?、と想像するのは楽しい。 しかしラッシュの通勤電車に乗る身として他人事ではない内容。
 そして『ナイフを失われた思い出の中に』はリアルに『さよなら妖精』の15年後を描いていて、ちょっとジーンとなる。
 全体的に、『満願』に似たダークなテイスト。 でもレギュラーキャラクターがいるだけで、そのダークさが軽減される不思議。
 記者・ジャーナリストという職業はとても厳しいが、その厳しさを自覚していない・理解していない人たちが日本には多すぎる。 そんな中で大刀洗さんは日々その覚悟を自分に問いかけながら仕事をしている。 物語はミステリの形をとっているが、むしろ大刀洗さんの闘いの記録としての位置づけのほうがメインかもしれない。 そんな彼女の姿を見て、読者は「信頼に値するジャーナリスト」を見抜く力を養えるのだ。
 『王とサーカス』は8月文庫化予定! また、待ちます。

ラベル:国内ミステリ
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。