2017年11月16日

Xの悲劇【新訳版】/エラリー・クイーン

 どうするか結局悩んだ末、一作目の『Xの悲劇』に戻ることにしました。
 過去に読んではいるはずなんだけど、『Yの悲劇』と『レーン最後の事件』ほどのインパクトはなかったのか微妙に記憶が・・・(とはいえ、印象に残っている二作もインパクトの種類はそれぞれ違うんだけど)。 いや、あの頃いろんな作品をまとめて読んでいたから記憶がごちゃごちゃになっている可能性がある。 『Zの悲劇』も読んだら思い出したし。
 それに、新訳だからかなり読みやすくなっている。 昔のあたしは古い訳をがんばって読んだよね・・・当時はそれを苦労と感じなかったけど、若くてパワーがあったんだなぁ。 しみじみ。

  Xの悲劇【新訳版】.jpg ドルリー・レーン、初登場。

 ニューヨーク市街電車はその日も満員だった。 突然倒れた一人の男が死んだ。 男のポケットからはニコチンが塗られた針が無数に刺さったコルク球が見つかった。 これは被害者を狙った殺人なのか、だとしたらどうやって針だらけのコルク球を被害者のポケットに入れることができたのか。 捜査に行き詰まるニューヨーク市警のサム警視とブルーノ地方検事は、過去に手紙で事件を解決した元シェイクスピア俳優、ドルリー・レーンの招待を受けてハムレット荘を訪れる・・・という話。
 被害者は株式仲買人である。 株式仲買人! 古典ミステリの登場人物に多い職業だ。 今ならデイトレーダーになるのだろうか。 都市が舞台だからかも(アガサ・クリスティーにはあまり出てこない感じ)。
 満員電車での描写は、その後のクイーン作品『九尾の猫』を思い出させるところあり(クイーン特有の<騒がしい現場>というやつらしい)。 もしかしたらこの時からすでに、<雑踏の中で起きる無差別殺人事件>というものを考えていたのではないか!、と思ってしまうような第一の事件だった。 そして凶器が針の刺さったコルク球だった、というところで「あ、やっぱり読んだことある!」と思い出したのでした。
 ドルリー・レーン氏、あれ、こんなにも思わせぶりな人だったか、と驚く。 サム警視は最初こんなにレーン氏に対して反発的だったっけ!(だからこそ、彼に心酔したその後は一気にレーンびいきになったのね)、あー、クエイシー(ドルリー・レーンの昔からの付き合いの衣装・メイク係)、いいキャラだなぁ!、などなど、レギュラーのみなさんの新たな一面を見る思い。 昔から知っている人と初めて会った時の印象を改めて思い出すのに近い感じで。
 満員電車、海辺と船、また電車と舞台もいろいろで、ニューヨーク周辺を動き回る躍動感。 必然性のあるダイイングメッセージなど、その先駆性には改めて驚く。 ドルリー・レーンという独特すぎる登場人物がただの道化ではなく、底知れぬ人間性を持つものとして描かれているから、これはパズル小説ではなく新訳に耐えうる<小説>になっているのだ。
 犯行動機などが古いのは致し方ないけど(それはコナン・ドイルにもいえること)、その時代を明確に描写しているから「30年台のアメリカってこんな感じだったのか」と知ることもできる。 終戦後の傷も見えるけれど、本土が焼かれていないのは大きく、余裕がうかがえるんだよなぁ。 でもドルリー・レーンのシェイクスピア談義からは、イギリスへの羨望みたいなものも見えたりして。
 解説の有栖川有栖曰く、現在もエラリー・クイーンが広く読まれているのは日本だけらしい。
 なんでだろ? 古典を大事にするお国柄? ベーシックと認定されたものから入ろうとする国民性?
 本格推理を愛する国内作家が定期的に現れ、それぞれがエラリー・クイーンらへの愛を口にし、そして定期的に新訳が出る。 だから新しい読者も手を伸ばす。 そういうサイクルが出来上がっているからかな〜。

ラベル:海外ミステリ
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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