2017年10月19日

侵略する散歩者/Before We Vanish

 なんとかギリギリのタイミングで間に合う。 予定ではもっと早く観に行くつもりだったのだが。
 ・・・まるで子供の頃によく読んだジュブナイルSFだ。 それがいちばんの印象というか、一言で説明せよといわれたら、あたしはそう答える。 そんな映画でした。
 オープニングの、タイトルが出るまでのシークエンスは「おお、久し振りに黒澤清ホラー描写全開!」とドキドキするが、そういうシーンはそこまで。 あとは比較的、日常的な描写が続く(バズーカをぶっ放すのが日常の範疇に入ればだが、血みどろ感はなかったと思う)。
 宇宙人の侵略として、タイプは大きく二つに分けられる。 ひとつは『インディペンデンス・デイ』的な大規模一斉攻撃型。 そしてもうひとつは『ボディ・スナッチャー』的なこっそり入れ替わりますよ型。 この映画では後者なのだけれど、侵略者側にあまり侵略者としての自覚がない(それを相手に恐怖を与えることだとか、悪いことだとか思っていない)点で、余計に眉村卓を思い出させるものがあるのだ。 話が通じそうで通じない、でもなんか通じるときもある彼らの妙な屈託のなさを見ると、『ねらわれた学園』とかをつい連想してしまうのだ。 これはあたしの年齢というか子供期の読書体験のせいなのか。
 だからか、どうもあたしはこの映画にひどくノスタルジーを感じてしまったのだ。 彼らの最終的な選択もまた、その流れから出ないものであるから。

  散歩する侵略者P.jpg 世界は終わるのかもしれない。それでも、一緒に生きたい。

 鳴海(長澤まさみ)は病院に呼び出される。 数日前から家を出ていったきりの夫・真治(松田龍平)が記憶を失って見つかったという。 ほぼ別人のような真治の態度にイライラする鳴海。 そして、町の中ではある一家惨殺事件が起こり、よくわからない人々がひっそり出入りし、不穏な空気が満ち始める。 一方、別件の取材に来たジャーナリストの桜井(長谷川博己)は何かあると感じ、自ら侵略者であると名乗る若者・天野(高杉真宙)に接触。 彼のガイドとなることを承諾し、侵略者たちに同行、目的を見定めようとする・・・という話。
 鳴海さんのとげとげしい態度から、「あ、この夫婦うまくいってない(もしくは奥さん、すごく怒ってる)」ということが早々に察せられて、なんかちょっといたたまれない・・・(しかも家出?の元凶は夫の浮気だったらしく、夫の言動はすべてとぼけていると聞こえて「はぁ、だから?」と感じているらしい妻の気持ちが痛い)。 怒っている、もしくはイラついている長澤まさみという絵面に既視感があるせいだろうか、「あー、なんかまたこういう役?」みたいな。 でも、最初その態度だからちょっとした仕草の変容で彼女の気持ちの変化がわかるようになっているのはうまいし、大変わかりやすい。 また「ボヤっとした松田龍平」がよくわからないけど一生懸命頑張って喋っている、みたいな感じも味わい深い(ちょっとかわいらしいところもある)。

  散歩する侵略者1.jpg 真治は自分のことを「地球を侵略しに来た」と話すが、鳴海は信じない。 侵略者は地球人のことを知るために様々な<概念>を手に入れるが、そうされた人間側の脳からはその<概念>は失われ、多くの<概念>を奪われた人間は廃人状態に。 侵略者にガイドとして認定された人物からは<概念>は奪わない。 真治(だったもの)は鳴海をガイドにする。
 というとドライな感じですが・・・怒ってるということは鳴海は真治に対する愛情を持っているということ。 人間から<概念>を奪っていきながら鳴海との会話で「地球人とは、人間とは、夫婦とは」を学習していく真治。 その過程は、もしかしたら出会った頃の、結婚当初の二人の関係に似ていたのかもしれない。 どう考えてもちょっとおかしい真治の言動に「それはなに?」と尋ねても責めることはしない鳴海。 地球侵略と夫婦の関係再構築が同じ重さで語られる奇妙さも、あまり気づかないようになっているのがいい。

  散歩する侵略者2.jpg 一方、桜井は。
 もう一人の侵略者と合流。 彼らの会話に人間として(地球人として)なんだかなぁと思いつつ、好奇心に勝てないジャーナリスト魂。 いや、職業病ではないのかもしれない。 天野くんの行く末を見届けたい気持ち、会話しているうちになんとなく感じてしまう同士的な気持ち、もしかしたら誰の心の中にもあるのかもしれない人間嫌悪感などなどが絡み合い、いつしか天野くんと友情みたいなものが出来上がっていたりして。
 個人同士の関係としてはともかく、「地球のためには人間の存在自体をなんとかしないといけないのでは?」とちょっとでも考えたり頭をよぎったりしたことのある人は多いと思う。 あたしを含め、そんな人は桜井さんの行動に程度は違えど共感を覚えてしまうのでは。 そして異星人だと言われても、会話が通じてしまうとあまり恐怖を感じない、というのはあるかも。 でもそれも日本ならではっぽい。 侵略者たちは世界各国に斥候を送っているのかしら。 アメリカだったら相当違う展開になりそうだ。

  散歩する侵略者4.jpg 意外に豪華キャストです。
 引きこもりだったのにある<概念>を奪われたため進んで外に出るようになった青年が満島真之介で、「引きこもりなのに肌が黒いのはちょっとイメージ的に・・・」と困る(でも庭で小さい畑をやっているみたいなので、そのせいということで)。 一家惨殺犯として拘束された侵略者・立花あきら(恒松祐里)を監視する刑事さんが児嶋一哉で、バラエティのときと声の出し方が全然違うことに驚いた。 十分役者としてやっていける人なのに、“スベる人”をやり続けるのはそれも楽しいからなのかなぁ。
 しかしいちばんインパクトがあったのは街角の教会にいる神父役の東出昌大である。 普通の人のはずなのに、この人の存在自体が異質で不穏。 真治の「愛とは何ですか?」という質問に、聖書をもとによどみなく愛を説明(それを聞いて真治は感銘を受けちゃうから尚更)。 “愛”なんて簡単に定義できるものではないと思うんだけど・・・。
 でも、そうなると、そもそも<概念>ってなんなのか、それを人が失うと何故人格崩壊に近づくのか、といった疑問が次々沸いてきますが・・・結局それは「人間を人間たらしめているものは何か」ということを突き詰めることになり、<概念>をどんどん集めていった侵略者たちが人間に近づいていくことを示唆しているわけで。
 となればラストは予想通り・・・ということになるのですが、その真っ当さもまた懐かしのジュブナイルに通じるのです。

ラベル:映画館 日本映画
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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