2017年06月17日

映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ

 ドラマ『バイプレイヤーズ』放送時に、いつもこのCMが流れていた。
 おかげでなんだか気になって仕方がなく。 池松くん出てるしなぁ。
 おまけに、シネ・リーブル神戸でもロビーで予告がバンバン流れ、原作者(といっていいのか)の最果タヒ氏は神戸出身だということを知る。
 これも何かの縁でしょうか。 タイミングが合ったので、観ることに。
 あ、石井裕也監督の最新作であります。

  夜空はいつでもP.jpg 透明にならなくては息もできないこの街で、きみを見つけた。

 2017年の東京で、はっきりしない不安や孤独を紛らわすように、看護師の美香(石橋静河)は詩を詠む。 また病院勤務の傍ら夜はガールズバーで働いてもいるが、孤独を埋めることはできない。
 そして工事現場での日雇い労働で生活費を稼ぐ慎二(池松壮亮)は、常にどこかに死の気配を感じながら、できるだけ気付かない振りをして希望だけを見つけようとしていた。 二人とも、それぞれの職場でなんとなくなじんではいるものの浮いていて(ガールズバーにおいてはなじむ気もなかったようだが)、そのことを誰よりも自覚している。 そんな共通点のある二人が、大勢の人間が存在する東京という街で偶然に出会い、また偶然に繰り返し再会する。 そんな偶然の積み重ねの確率は一体どれくらい天文学的な数字なのか。 でもそれを運命とは呼ばない、決して。

  夜空はいつでも3.jpg 基本、美香はいつも一人である。
 看護師仲間に連れられて合コンに行ったりもするが、常に冷めている彼女は男どもにウケが悪い。 「この場では、自分はそういう存在でしかない」ことに苛立ちつつもあきらめている。
 一方の慎二は黙っていると不安になるのか、とにかく喋ってばかりいる。 思いついたことをすべて吐き出さなくては気が済まないかのように。 仕事の先輩(松田龍平)に「お前、ちょっと黙れよ」と叱られても止まらない。 
 この“息苦しさ”とは一体なんなのだろう。 東京という街の持つ巨大すぎるパワー、観光客では気づけない、もともと江戸っ子として住んでいる者にはわからない、「地方から出てきて一人暮らしをしている若者」が感じる特有のものなのだろうか。 将来への不安が目に見えない重圧となって彼らを苦しめてるのだろうか。 特に美香は詩を詠むような、ある意味繊細である意味とがった感性の持ち主。 いつでも爪を振りかざせる準備のできている、独り立ちを始めたばかりの子猫のようにとげとげしたバリアーを張っている。 逆にその方が目立ってしまうのにな、とおばちゃんは思ってしまいますが。
 この“すさまじく自意識過剰な若さ”を、それも通過点だと笑ってすませられるか、「いつまで中二病だよ」と見てしまうか。 それによってこの映画の感想はまったく変わったものになってしまうんじゃないか。 それは彼女らと同世代であろうが、それを過ぎた年齢であろうが。 それくらい美香ちゃんのキャラは特徴的だ。

  夜空はいつでも4.jpg 慎二くんは片目が見えない。
 彼の視界は半分黒い幕で覆われている。 だから見える方の目で本を読む。 自分の見えない世界を、知らない世界を、少しでもわかるように。 一人のときはインプット、そして思索の時間。 誰かといるときはアウトプットの時間なのだろうか(もしくは、思索の結果生まれた疑問の答えがほしいからなのかもしれないが、それに応えてくれる人はなかなかいない)。 家賃の心配をしながら世界に広がるテロリズムに想いを馳せる、そんな人がいるのは当たり前かと思っていたけど、こう描かれるということはそうではないのか。
 そうか、“考える”人って少数派なのか、となんとなく思い知る。 あたしはどちらかといえば慎二くん派であるが、でもそれはティッシュの空箱の上面を切り取り、文庫本を入れてカラーボックスにつっこむ、という整理法を学生のときあたしもやっていたからだ! あたしは彼のように自分の思いつきを他の人に喋れない。 ほんとに信頼する人にしか、喋れなかった。
 でも、彼は仕事仲間をとても信頼しているのかもしれない。 周囲に壁をつくっていないのかもしれない。 誰に対してもウェルカムだけれど、周囲がそれを認めていないのかもしれない。 だって彼には偏見はないし、誰に対しても優しいから。

  夜空はいつでも2.jpg 何度目かの<偶然の出会い>。
 恋愛とは何なのか、とか、お互いのことをどう思っている、とか、一般的な恋愛映画では触れなければいけないことをこの映画はすべて無視している。 二人が語るのはむしろそこから離れた内容。 なのに、二人が次第に惹かれあっていることはちゃんとわかる。
 ときどき、「プロポーズなんてはっきりしたことはなかったなぁ。 ただなんとなく」という人たちが身の回りにいたりするが、「そんなバカなことがあるか、言いたくないか照れ隠しかどっちかなのかな」と思っていたけれど・・・もしかしたらほんとなのかもしれない、とこの映画を観て思った。
 恋愛は非日常の出来事ではなくて、日常の、生活の延長線上にあるもの。
 日常をうまく受け入れられない彼女たちなのに、それはスムーズにいくんだね、とちょっと不思議。 でもそれは、同じ方向を見られる魂と出会ったおかげなのかも。
 慎二くんと出会ったことで美香ちゃんの詩は変わるのか。 でもそれはまた別の話か。

 やっぱり池松くんうまいなぁ!
 いや、そもそも石井裕也監督が恋愛映画、ということにちょっと驚いたんですけど(り、離婚したからですか・・・)。
 『舟を編む』にも恋愛要素はあったけど、重要ポイントではなかったし。 詩集を原作に自分で脚本を書いた、という荒業がすごい。 そしてメジャーで成功したのにまたインディーズに戻ってくるっていうのも、作家性の強さのあらわれのような気がして(でも昔よりメジャーとインディーズの違いは薄くなってきていると聞こえてきてはいますが)。
 なので多分低予算であろうこの映画、石井監督の人徳か豪華キャストになっております。
 女の子に弱いちょっとダメな人、というのがひとつの得意技である田中哲司も抜群の安定感ですが、正直このタイミングでは笑えない・・・ごめん。 でも工事現場で腰を痛めて、筋肉痛含めてズボンのジッパーもあげられない、と言っていた人が、後半では作業着のズボンがジッパーではなくボタン式になっていたのは笑ってしまった(誰もつっこんでなかったけど)。 そういう微妙な小ネタというか、気づく人だけ気付けばいいみたいな仕込みは、さりげなく時間の経過と行間をあらわしているようで(休みの日に仲間たちで「ジッパーじゃないやつ探しに行きましょうよ」みたいなやりとりがあったのかな、とか)、楽しい。
 東京オリンピック特需?で建設業界は今盛り上がっているかもしれないけれど、先のことはわからない。 日本はまだ不景気を脱していない、というか景気が上向くことでどうにかなると信じている人たちが多すぎる。 景気の動向に頼らずとも、やっていける方向を探さないといけないのに。
 けれど、映画はラストに「絶対無理だろ」と誰もが思っただろうことに奇跡の逆転ホームランを起こさせる。
 慎二くんが常に描いていた希望は幻ではないと、美香ちゃんが否定してきた運命はもしかしたら存在すると言いたげに。
 未来はわからないけれど、明るくないものだとは限らない。 そう信じて、いいのかも。

ラベル:映画館 日本映画
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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