2017年03月26日

そして誰もいなくなった 【第一夜・第二夜】

 個人的な話ですが・・・あたしの下の妹が、もうずっと前から渡瀬恒彦ファンでして、もう20年くらい?、「恒彦」と呼んでおります(普通の若者がアイドルを呼ぶがごとく)。 ま、それは妹が2時間サスペンスドラマが子供の頃から大好きだったせいなのですが(なにしろ、「十津川警部は警察をやめてからタクシードライバーに転職する」と普通に思っていたくらいで。 子供なんでそのへんはご容赦ください)。 最近、そのことについて話し合い(本人はそんなことを言ったことなどすっかり忘れておりましたが)、「十津川警部は警察で働いていない時間、タクシードライバーに変装して事件を解決している」と思っていたのではないか、ということに落ち着きました。 それならば名前もキャラも違うのも、変装してるからで説明できるから(現職の刑事さんたちが彼に従っちゃうのもその誤解を助長したのかな)。 放送している局が違うとか、そのへんは気にならないようで。 渡瀬恒彦が演じている=同じ人、と思っちゃってたみたいですね。 本人の名誉のために申し上げれば、そう思い込んでいたのは一時期ですから。
 そんなわけで、あたしより一回り以上年下の下の妹ですが、大変好みが渋いです。
 なので『9係』『おみやさん』など観ていて、「今日の恒彦はいいね!」というメールが飛び込んでくること多々、だったのです。
 しかしあの朝は、恒彦の訃報を伝えるメール。 あたしはそのちょっと前に知ったのだけれど、妹にメールするかどうか悩みましたよ。
 だって『相棒』のあとの予告で『9係』の告知に恒彦の映像出てたし、このスペシャルドラマの撮影も終わったと聞いていたし、ご病気だということはうっすら耳に入っていたんだけれど、あまり詳しく知りたくないからテレビCM見て「よかった、恒彦出るんだ」と安心していたのです。
 なのに、このドラマが遺作になるなんて・・・ひどいよ。

 なので、<渡瀬恒彦の遺作>であることをいったん忘れて、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』を現代日本に置き換えたドラマとして改めて観てみたい。
 「現代日本に置き換える」というのがまずやばいフラグなわけですが、脚本が長坂秀佳だと事前に知っていたのでまぁ大丈夫かなというか、とんでもなくひどいものにはならないだろうという安心感はありました。 監督は和泉聖治。 『相棒』Season15をあまり撮ってないなと思っていたらこっちを撮っていたのですね!

  そして誰もいなくなった【前後編】.jpg テレ朝的豪華キャスト。
 なんというか・・・「みなさん、大体原作とかネタ、知ってますよね」が前提だったというか、恐ろしく速いテンポで話が進んでいくのであっというまに観てしまいました。 石坂浩二のナレーションも冒頭から「原作通り、全員死にますよ」だし。
 で、現代設定なんだけど微妙にレトロ感があるというか・・・刑事さんたちが乗っている船は<ランチ>と呼びたくなるし、昭和40年代ぐらいですか?、みたいな(刑事お二人の風貌のせいもあるかと)。 スマホもドローンも登場するというのに、あえてレトロ感を残した(もしくは残ってしまった)のはアガサ・クリスティという味を重要視したせいでしょうか。
 もともとはマザー・グースの一節だけど、それを数え唄にしたのは横溝風味の日本味ですね。
 「一夜目の恒彦の声がかすれているのがもうつらい」とあとから妹が言ってましたが、判事役は○○な設定なので・・・訃報がなかったらあたしはこれも役づくりだと思っていたかもしれない。 だって時間軸的にはホテルにいる時より少なくとも一か月前ぐらいにあたるあるシーンではそんなに声は弱々しくなかったもの。
 あえてトリック説明は省き、スピード感重視にした演出もよかったかも。 矛盾点に気づかせる隙を与えないから。

  そして誰もいなくなった【前後編】2.jpg このコンビも個人的に悪くなかった。
 この二人を主役にしてシリーズできるんじゃない?、というくらいキャラの立ったかみ合わない二人が面白かった。 荒川良々はもともとお笑い担当的な部分はあるけれど、殺されパートでも柳葉敏郎と國村隼のやりとりにもユーモラスなところがあって、いいスパイスになっていた。 やはりサスペンスには適度なユーモアがあってこそ、より悲劇が引き立つというジャンルなのだな、と気づかされる。
 まぁ第二夜は謎解き中心になるわけですが、最後に残った二人の葛藤はもう少し丁寧に描いてもよかったのではないか(お互い、自分は犯人ではないとわかっているからこそ・・・、最終的に一人になる選択をする必然性と、そのあとの行動により説得力が生まれると思うのだけれど)。 でも最後まで「殺される」ということにこだわった展開だったので、まぁそれは仕方がなかったのかと。
 「動かせないガラスケースの中にある木の人形が、一人死ぬたびに一体ずつ姿を消していく」ことのトリックは刑事さんによって明かされるけど、その間「抜き取られた人形はどこに隠されていたのか」については触れられていないんだよね! 多分台座の部分に収納機能があるんだろうけど、ガラスケースの謎を解くときに一緒に説明してもよかったのに。 それとも、一応撮影したけど編集で切っちゃったのかな。 その可能性があるくらい、あるひとつのトリックについてはしつこいほどに追求するのにそれ以外のトリックについてはほぼスルーというのが、なんかもう潔すぎてどうでもいいや、と思えてしまうという。
 あとやはり、最後の犯人の独白シーンがあまりにも圧巻で、実質この人が主役だよな、と思わせられてしまい。
 ずっと犯人を探す側、正義の側に身を置いていた人を演じていた人が、とてつもなく得体の知れない悪を演じるという意外性と、それだけじゃなく画面からにじみ出る禍々しいまでの悪意。 それに心底ぞっとしてしまった。 そこにいたのは、まぎれもなく自覚のある快楽殺人者。
 役者ってすごい!
 だいたい大筋を知っている話をそれでも観ようと思わせるのは、やっぱり出ている人たちがどう演じるかを観たいから。 勿論、脚本や演出に手抜かりがあったら興醒めですが、本作はかなりがんばった出来栄えではなかったでしょうか。
 橋爪功のあやしさ満点の執事もよかったけど、やはり渡瀬恒彦の存在感に尽きる。 というかこのキャスティングでも、判事役は恒彦以外思い浮かばないもんね! もしかして、長坂秀佳あて書き?、と思えるほどに。

 結果的に遺作になってしまったけれど、ご本人はそうするつもりはなかっただろうし、『9係』新シーズンにも出る気満々だったみたいなのでほんとに残念でしかないけれど、彼の遺作になったことによってこの作品のグレードが上がったこともまた事実。
 それが役者の“格”というものだろうか。

posted by かしこん at 23:59| Comment(4) | TrackBack(0) | テレビ・テレビドラマ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
かしこんさん、こんにちは。
パソコンがずっと壊れてて、ガラケーの私はご無沙汰しておりました。

このドラマに関しては、全く同感!です。
特に二人残った場面をもっと・・・とは、強く思いました。
おしいなー。
仲間由紀恵が振り向いていきなりドアが効果音と共に開く場面の演出が良かっただけに。
(あそこめっちゃ怖かった・・・)

渡瀬さんの第一夜は滑舌が気になって仕方なかったけど、
第二夜の「ちょっと待って・・・」からが凄かったです。
役者らしい姿が見られてとても嬉しかった。
若い頃からもっともっと映画や大河に出てほしかったなあ。
お兄さんや健さんよりもずっといい俳優さんだと私は思ってたのに、
もっと主役や、今で言う國村さん適な重要ポジションを
沢山させてあげて欲しかった。(生意気すみません。)

それにしても海外版とこのドラマの影響で、また自分のクリスティーブームがきて、
買い直したり図書館で借りまくったりしています。
長編はほとんど読んでいるのですが、「終わりなき夜に生まれつく」はまだで
(暗そうで避けてました)、今回読んで衝撃!
クリスティの素晴らしい部分が全て出ている! しかも「五匹の子豚」同等の余韻・・・
今まで読んでなかったのが悔やまれましたが、この年で読んだから良さがわかったので
かえって良かったのかも。
若い頃に読んでたらマイベスト3には入ってなかったでしょう。

Posted by みこ at 2017年05月28日 12:06
みこさま

こんばんは。
こちらこそ、ブログ引っ越しをお伝えできていなかったのではないかと心苦しく思っておりました。
辿りついて来てくださって、ありがとうございます。
私もいまだガラケーですので、ご安心ください。

いろいろ惜しかったですよね、このドラマ。
ナレーションも若干のほほんと、というか浮世離れして聞こえてしまったり。 いいところも多かっただけに残念です。
でもそういう惜しい部分をすべて渡瀬さんが補う形になってしまったせいで、彼が主役のドラマになってしまったのかな、と。
妹が恒彦ファンなのでついひいき目で見てしまうのかもしれませんが、その当時の映画会社のニューフェイス出身の役者さんで、現在レギュラーのドラマで主役を張っている人が何人いるか? たいていバラエティ番組に出ちゃったりする中、常に現役である恒彦ってすごいな!、と何年か前から思ってました。 これだけドラマがいそがしければ映画に出るスケジュールとれなかったのかもしれませんけど、テレ朝も水谷豊に映画のチャンスをあげるんだったら恒彦にもあげたってよくない?、と思っていました(水谷豊サゲ意見ではなく、二人とも同じくらい今のテレ朝ドラマの功労者でしょ、という意味で)。

そういえば、その昔、アガサ・クリスティにファンレターを書いて返事をもらったことがある、という日本人がいて、「今までに書いた作品の中で、どれがいちばん気に入っていますか」みたいな質問をしたら、クリスティの答えは「迷うけれど、『終わりなき夜に生まれつく』かしら」だった、というのを聞いたことがあるような・・・。
ミステリの雛型はすべてクリスティが書いている、といっても過言ではないことが、いろいろ読み進めるたびにわかっていく、というすごさ。
ほんと、ただ者じゃないですよね、クリスティは。
Posted by かしこん at 2017年05月28日 19:03
クリスティの過去の作品のアイディアを複数使った作品ですが、
アイディアAとアイディアBを併用することによってある目くらましの作用が発生する、
過去作品を読み込んだ読者ならなおさらその効果が激しく、
それがそのままある人物へ感情移入する強さになるという。
読後いつまでもその感情に胸がざわつきました。
こんな作品読んだことない! そう思いました。

10〜20代の若い方にはもしかしたら真の意味がわからないかも。
クリスティ自身も年を重ねたから書けたのだろうし、好んでたのだろうし。
それにしても70過ぎてこんな作品を書けるなんて、
まるで内村航平が70過ぎて難度を上げて床で着地まで決めて優勝するようなもんだなあと、
今になってクリスティへの尊敬度合いがぐっと高まりました。

ちなみに私にとってのクリスティベスト10は、
「五匹の子豚」
「終わりなき夜に生まれつく」
「そして誰もいなくなった」
「ナイルに死す」
「ゴルフ場殺人事件」
「鏡は横にひび割れて」
「ねじれた家」
「杉の棺」
「カリブ海の秘密」
「アクロイド殺し」

なのですが、かしこんさんはクリスティで何がお好きですか?
もしくはもっと好きな他の作家さんのベストとか、
良かったら教えていただけると嬉しいです。
Posted by みこ at 2017年05月29日 23:25
みこさま

大変難しいお題です。
私も好きな作家・マンガ家の作品はできるだけ全部読みたい、と子供の頃から追いかける派ではありましたが・・・。
だからこそですかね、数多く読んでいくうちにモチーフが同じでも使い方が洗練されてくるとか、前回はこっちに重点置いてたけど今回は反対側に置いてきたか!、みたいなのありますよね。
また、読み手の精神状態にも左右されるときがありますし。
どちらにせよ、評価をつけるのってとても難しいです。
でも、一人の作家でベストテンを選べるというのは多作である証拠。 作品全部で10作いかない人だっていますもんね。
あー、難しい。
でもクリスティでは『アクロイド殺し』ははずせませんね。
もう少し考えますので、宿題ということにさせてください・・・。
Posted by かしこん at 2017年06月01日 03:15
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