今年もあっという間にやってきてしまいました、アカデミー賞授賞式。
WOWOWで衛星生中継を録画し、夜9時からの字幕版放送も観てしまったあたしはヒマか?!、であるが、なんかこういうのってやっぱりお祭りだから、見ておきたいなぁと思うのです。
それにしても、WOWOWのレッドカーペットの生中継での板谷由香さんのはしゃぎっぷりにはちょっと困惑・・・俳優のみなさんをガンガン呼び捨てで声かけるってありなのか? アメリカならOKなのか?、とハラハラしてしまいました。 尾崎英二郎さんがちゃんとしているから余計に(受賞式終了後には板谷さんは冷静になったらしく、「お見苦しいところを・・・」といっておられたのでご自分でもはしゃぎ過ぎたと反省されたのかもしれない。 それとも視聴者から苦情が出たのかしら?)。
本放送のCM部分を日本の放送でつないでいるのだけれど、ジョン・カビラの安定感は相変わらず素晴らしいのであるが、ゲストによって雰囲気が毎年変わってしまうのが難・・・大友啓史監督で、今年のゲストはよかったのでしょうか? 基本タメ口な態度とか、自分の過去作品でいろいろやらかしている経歴でノミネーション作品に対してどうこう言える立場か?!、と思ってしまうのはあたしの性格が悪いからですかね・・・ますます好きじゃなくなったわ。 『3月のライオン』、実写版は神木くん大好きだけど絶対観ないわ! 実は予告編で泣きそうになっちゃったんだけど、それはマンガのシーンが蘇ったからであって。
ジョン・カビラが大友監督に気を遣ってコメント多めに振るせいで、町山さんのコメントが例年よりも少なかった印象・・・斎藤工は自分の好みがはっきりしているから、独自ポジションを確立してるけど。
WOWOW側も独占放送権をとっているというだけで満足しないで、もうちょっと工夫を!(いや、毎年それなりにしているんだろうけど、空回り感がなきにしもあらず)。 だって、生中継版をわざわざ見る人たちって、それなりの映画ファンが多いと思うのですよ。 一見さんを取り込みたい気持ちもわかるけど、そういう人たちは字幕版を見るでしょう。
あたしは、同時通訳のみなさんのがんばりを聴くのも楽しみなので、生中継も観つつ、のちに字幕版で内容を補完という視聴形態がずっと定着しています。
では、授賞式を振り返ります。 今年は信じられないハプニングがあったので話題はそればっかりになっちゃってますが、そこに至るまでにいい場面はいっぱいあったのです。
普段は司会者が登場してひとしきりスピーチ、というパターンだったのだけれど、何故か今年はいきなりジャスティン・ティンバーレイクのパフォーマンスからスタート(歌曲賞ノミネート)。 「グラミー賞か!」と思ってしまった。
司会のジミー・キンメル氏は授賞式を放送しているテレビ局でトークショウのホストをしている方らしく、コメディアンではないが安定した司会進行ぶり。 実際にはもっと毒舌キャラらしいですが、結構控えめだったかなぁ。 「今、アメリカは(トランプ大統領のおかげで)世界中から嫌われていますが、リベラルだろうが保守だろうが、お互いのいいところを認め合い、共感できれば私たちはまた自分たちが誇れるアメリカ人になれます」といったまともなコメントもところどころでしていたし(向こうのエンタメ業界の「常識」として、彼とマット・デイモンは“宿命のライバル”という設定らしく、「長らく不仲であった彼にも歩み寄るとお約束します」と言いながらマット・デイモンをおちょくり倒す−そしてマット・デイモンもそれを受けて立っている姿は、外国人から見たら内輪受け以外の何物でもないんだけど、でもなんかちょっと面白かった)。
<助演男優賞>
マハーシャラ・アリ (『ムーンライト』)
マハーシャラ・アリ (『ムーンライト』)
今回、「ノミネートされるまでほぼ無名」と言われていた彼ですが、あたしは彼の顔をものすごく見たことがあって、しかも記憶の中で日本語を喋っている。 あ、結構長くドラマで観ていた人だろうな・・・と考えていたら『4400−未知からの生還者』に出ていた人だ!、と思い出せてすごくうれしかった。 ニューヨーク大学演劇科出身という経歴通り、その語り口には知性と品格が感じられました。
これからどんどんオファー増えるんだろうな!
<メイクアップ&ヘアスタイリング賞>
『スーサイド・スクワッド』
『スーサイド・スクワッド』
ぱっと見た目のインパクトでは『スター・トレック/ビヨンド』の感じがしましたが(異星人たちのメイク造詣がとにかく凄い)、ハーレイ・クインのビジュアルがブームになったせいもあるのかなぁ。
<衣装デザイン賞>
『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』
『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』
時代モノっぽさは確かにありましたが、基本はブリティッシュ・トラッドだったような(予告編での印象)。
「アメリカ人、イギリス文化に弱い」がここに出たか・・・的な?
<長編ドキュメンタリー賞>
『O.J.: Made in America (原題)』
『O.J.: Made in America (原題)』
O.J.シンプソン事件からもう20年もたっている、ということが驚きでしたわ・・・。
根底には人種差別問題が、というテーマのようですが、結局事件の犯人は誰なの?、というところが非常に気になります。
<音響編集賞>
『メッセージ』
『メッセージ』
作品賞ノミネートの中で、個人的にはいちばん期待している作品なのですが・・・俳優賞にノミネートされていない現状から、技術方面の賞が多いのだろうと思っていましたが・・・やっぱりそんな感じでしたね。
でもあたしは絶対、これを観に行くぞ!
<録音賞>
『ハクソー・リッジ』
『ハクソー・リッジ』
メル・ギブソン監督作にしてハリウッド復帰作品。 数々の悪行(?)で一度干された方ですが、こういう形でハリウッドは赦しを与えるのでしょうかね。 でも『ハクソー・リッジ』という直接カタカナ変換のタイトルでは、全然内容のイメージがわかないんですが・・・(太平洋戦争における沖縄戦が舞台らしいのだが)。
<助演女優賞>
ヴィオラ・デイヴィス (『フェンス』)
ヴィオラ・デイヴィス (『フェンス』)
ノミネーション時の『Fences(原題)』から表記が変わったので、日本公開が決まったみたいでよかったです。
ヴィオラ・デイヴィスさん、あたしは大好きなので受賞はとてもうれしい! ほんとは『ヘルプ』でもらっていてもよかったぐらいだ。 町山さんは彼女のことを「大ベテラン」と言っていたけど、多分映画のキャリアはここ10年ぐらい・・・舞台の方だったのかなぁ。
そしてスピーチも感動的だったのです!
「どんな役柄を演じたい、どんな作品に出たいかよく聞かれます。 私はその答えは墓場にある、と答えます。 名もなき人々の知られざる物語がそこには数えきれないほど眠っている。 この作品もそんな物語のひとつです。 それを表現できるアーティストという職業につけたことが私の誇りです」
そしてデンゼル・ワシントンに「私のキャプテン」と敬意を表し。
沢山の人の名前を並べまくってスピーチとする人よりも、やはり自分の言葉で語る人のスピーチには心打たれます。 ちょっと泣いちゃった。
受賞式後のアフターインタビューで、彼女が現在51歳であると知り・・・びっくり(役柄上では老け役をバンバンやっていることもあり、こういう授賞式の場で観る姿は若々しくて肌きれいだし、あたしの中ではずっと年齢不詳でした)。 てことは『ヘルプ』のときは40代か! 70歳近いぐらいの感じだったけど。
<外国語映画賞>
『セールスマン』 (イラン)
『セールスマン』 (イラン)
ノミネーション時では気がつかなかったのですが、『別離』の監督さんじゃないですか。 てことは最有力候補じゃないですか。
しかしトランプ大統領の指示で「入国できない七カ国」のひとつに指定されているイランから監督は入国できず、アカデミーが裁判所に掛け合って特別入国措置をとりつけたらしいですが、「それでは他の方々に申し訳ない」と授賞式を辞退。 しかし受賞、という結果。
あたしが思っていた以上に、アメリカはめんどくさいことになっているらしい。
<短編アニメ映画賞>
『ひな鳥の冒険』
『ひな鳥の冒険』
ノミネート作品を紹介した短いフッテージの中でも、この映像は飛びぬけて綺麗だった。 ちゃんと全部観たいな・・・そのうちWOWOWが特集してくれるかもしれないから、それを待とうか。
<長編アニメ映画賞>
『ズートピア』
『ズートピア』
ま、これしかないですよね。 <多様性・あるがままの自分を受け入れる>というのが今ハリウッドがアメリカ国内のみならず全世界に発したいメッセージ。 それがそのままこの作品のテーマなのだから。 勿論、ディズニーとピクサーが総力を挙げて制作した、というのも大きいですが。
<美術賞>
『ラ・ラ・ランド』
『ラ・ラ・ランド』
このへんから『ラ・ラ・ランド』が出てくるように。 最多ノミネートといっても票は分散されるから、結果的に意外と賞は獲れていなかった、というパターンもあるので「最多ノミネート」というのはよろこんでいいのかどうなのか。
美術賞は、あの色使いや小道具等含めて時代を感じさせない結果、という解釈でよいのかしら。
<視覚効果賞>
『ジャングル・ブック』
『ジャングル・ブック』
ジャングルの動物たち、オールCGだもんね・・・これは当然かな、と思います。 予告編でしか観てないですが、動物たちすべての動きがすごかった。 逆に子役の子は一人でどうやって演技したんだろうな、と思うくらい。
<編集賞>
『ハクソー・リッジ』
『ハクソー・リッジ』
戦場もので編集賞ということは、さぞ迫力ある展開なのでしょう。 『プライベート・ライアン』、越えるくらいの? それとも別方向アプローチ?
<短編ドキュメンタリー賞>
『ホワイト・ヘルメット−シリアの民間防衛隊−』
『ホワイト・ヘルメット−シリアの民間防衛隊−』
こんなにも短編ドキュメンタリー賞で「この作品で当然!」みたいな雰囲気、初めて見たような気がする・・・。
それだけ、アメリカでは注目を集めている題材なのだろうか。
<短編実写映画賞>
『合唱』
『合唱』
歌うことでどういうことが? しかも独唱ではなく合唱。 これもコミュニティとかコミュニケーションの話かしら。 気になる・・・。
<撮影賞>
『ラ・ラ・ランド』
『ラ・ラ・ランド』
あ、色合いとしてはこっちの方なのかな? 技術系の賞はどのへんがポイントなのかいまひとつわかりにくい。
<作曲賞>
『ラ・ラ・ランド』
『ラ・ラ・ランド』
デイミアン・チャゼル監督がハーバード出だということは前に聞いたことあったけど(そしてピアニストとして挫折した過去があるとも)、大学の寮の同室だった人が『セッション』でも組んで音楽を担当していたとは知らなかった。 そんな時代を一種に過ごしていたら、相手の好みとかかなり理解できるし、その後も関係が続いているならばほんとに「よき理解者・体現者」だろうな。 このコンビ、しばらく続きそう。
そんな二人が別々に仕事をするようになったら・・・また新たな世界が開けるのかも。
<歌曲賞>
“City Of Stars” ( 『ラ・ラ・ランド』)
“City Of Stars” ( 『ラ・ラ・ランド』)
授賞式のパフォーマンスでジョン・レジェンドがこの曲を歌っていて気がついた。
映画で彼に気づかなかったのは、ギターを弾いていたからだ! ジョン・レジェンド=ピアノ・キーボードのイメージでした。
『モアナと伝説の海』の曲もよかったけれど、音楽賞獲っちゃったら歌曲賞(主題歌賞)もこっちになっちゃうよね。 曲としては地味なんだけど。
<脚本賞>
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
「これは自分たちの生まれた町の話だ!」と脚本を読んで惚れこんだマット・デイモンがプロデュースを買って出て(実際、脚本・監督のケネス・ロナーガンはマット・デイモンとほぼ同じ地区の出身らしい)、ケイシー・アフレックに主役を頼んだとのこと。 アメリカの貧困層(特にホワイト・プアと呼ばれるあたり)のリアルさが出ているのでしょうか。 これもまたアメリカの現実で、このあたりの人たちがわりとトランプ支持者だったりするわけで・・・。
司会者に「マット・デイモンは心が広い。 この映画の主役を自分が演じることもできたのに、幼馴染のケーシー・アフレックに譲って、自分は『グレイト・ウォール』で大コケしてるんだから」とやられてましたが、マット・デイモンではこの主役には年齢が上過ぎるという客観的判断でしょう。 でも確かに、マット・デイモンが万里の長城の映画に出ていると言われても、観たい気はしない。
<脚色賞>
『ムーンライト』
『ムーンライト』
もともとは舞台用戯曲であるらしい『ムーンライト』。 まったく新しい脚本ではなかったんだ、ということに驚きましたが・・・。
通常、脚本賞か脚色賞をとった作品から作品賞が出るという傾向が多いので、あたしはこの段階で「作品賞は『ラ・ラ・ランド』ではないのかも」と感じていました。
<監督賞>
デイミアン・チャゼル (『ラ・ラ・ランド』)
デイミアン・チャゼル (『ラ・ラ・ランド』)
だからその代わりといってはなんですが、監督賞を『ラ・ラ・ランド』の人に、という流れかと。
仕事が段取りが8割。 カット割りなしのオープニングのミュージカルシーンなどをやっちゃえる力は、若さ故なのかも。 監督賞最年少受賞とのことですが、若い時だからこそできることがあるわけで、それを評価できるアカデミー、やはり敵が外にいるせいか例年以上に保守色が薄まっているようです。 しかしこうなると、『グランドピアノ 狙われた黒鍵』の脚本は彼の黒歴史になってしまうのかしら・・・。
<主演男優賞>
ケイシー・アフレック (『マンチェスター・バイ・ザ・シー』)
ケイシー・アフレック (『マンチェスター・バイ・ザ・シー』)
ベン・アフレックの弟、という認識が先行しているせいか、「手間のかかる弟」キャラが多かった彼。 今回もいろいろこじらせてしまっている人の役っぽい。 受賞スピーチも「役柄がまだ抜けていないのか?」というおたおた感がありました。 そんな弟の姿を見る兄は涙目でしたが、ほんとこの二人、同じようなルートを通っているのよね。 貧困層にある家から抜けだそうと映画界に → 評価されてスター扱いされるようになったらいろいろとやらかす → いい仕事がこない・干される → やけになってどつぼにはまり、好感度下がる → 反省して再起をかける → それが評価されて反省・感謝の日々で立ち直る、みたいな。 若くして売れちゃうと大変だな、としみじみします。 苦労してから売れたほうがいい、とジョージ・クルーニーも言ってましたからね。
<主演女優賞>
エマ・ストーン (『ラ・ラ・ランド』)
エマ・ストーン (『ラ・ラ・ランド』)
消去法でいってもエマ・ストーンしか残らない、という今回のノミネーション。 主演女優賞の層が薄かったのかと思ってしまうが、『メッセージ』のエイミー・アダムスや『ヒドゥン・フィギュアズ』のタラジ・P・ヘンソンなどいるではないか。 どういう投票のされ方なの?!
しかし彼女は若いが苦労人である。 獲った仕事ひとつひとつに全力投球、その姿が『ラ・ラ・ランド』のミア役にかぶるところがあったのかも。 でもスピーチは謙虚さにあふれていて、ミアのような「イヤな女感」はなかったですよ!
<作品賞>
『ムーンライト』
『ムーンライト』
前代未聞のドタバタ劇の末、『ムーンライト』が作品賞を獲得。
本来、ステージ上に出てはいけない人たちが現れたり、周囲から中央へとざわざわの正体が広まっていく様がちょっと面白かったですが。 うれしさのあまり泣いちゃってたエマ・ストーンが途中から真顔になり、「オーマイガッ」と口が動いているのが見えてしまった。
『ラ・ラ・ランド』のプロデューサーが「僕から是非オスカー像を渡したいけどいいですか」という姿はとてもかっこよかった!
しかし残念なのはウォーレン・ビーティ。 違うカードが入っていることに最初から気づいてたのに、全然事情をわかっていないフェイ・ダナウェイに見せちゃったのが運のつき。 バックステージの人になんとか合図を送れなかったのか(いや、カードを渡し間違えた人がいちばん悪いんだけど、そこをうまくフォローしての大ベテランだろう、とも思っちゃう)。 そうすれば『ラ・ラ・ランド』関係者のみなさんにぬかよろこびをさせなくてすんだのに。
そしてざわざわの結果、『ムーンライト』の受賞スピーチがいまいち伝わり切っていないのも残念・・・(授賞式後のアフターインタビューでフォローはされていたけれど、やっぱりあのステージで話すことに意義もあるわけじゃない)。
まぁ、結果的にこの二作品に日本からもすごく注目が集まっている、というのはいいことなのかもしれないですが。
つつがなく物事を終えることが普通のようでいてとても大事、ということを改めて思い知らされました。
全体的に、今回は受賞者のみなさん若いな!、という気がする(スタッフ含む。 年齢的な意味だけでなく、キャリア的にも)。 初ノミネートで初受賞、というパターンも目立ったし。 あれかな、ディカプリオをこじらせちゃったことに対する反省?
勿論、賞の結果がすべてでも絶対でもなく、単なるお祭りなわけですが、今回の授賞式ほど「今のアメリカと世界」を映し出したものはないかも。 来年はどうなっているだろう・・・楽しみです。
ラベル:アカデミー賞