2017年02月22日

冷酷/ルーク・デラニー

 気になっていた本、ようやく読破。
 シリアルキラー物、と単純に思っていましたが、警察組織に巣くう闇まで一緒に描いちゃった力作でした。

 始まりはロンドン南部のスラム街で若い男娼の他殺体が自宅で見つかったこと。 被害者は頭部を鈍器で殴られた上、先の尖った凶器で全身を77箇所もメッタ刺しにされていたというひどい有様。 はじめは痴話げんかかヤクの争いと思われたが、ロンドン警視庁(スコットランド・ヤード)の警部補ショーン・ケリガンが捜査を率いることになり、現場からなにひとつ証拠が出ないことに愕然とする。 犯人は手慣れている、これが最初ではないかもしれない。 誰にも言ったことはないが、ショーンは現場に残る犯人の思考の残滓を読みとることができる特殊な能力があり(しかしそれは超能力ということではなく、彼の生い立ちから身についたもの)、この事件はこれで終わりではないと本能的に気付く。
 被害者の周囲を洗い、浮かんできた第一容疑者は客の一人だというビジネスマン、スティーヴン・ヘリアー。 見るからにエリートな彼を疑う者は誰もいないが、ショーンはヘリアーの理知的で洗練された物腰に隠された獣のような獰猛さを感じ取るものの、証拠はない。 捜査チームはヘリアーを24時間体制で監視するが、常に裏をかかれてしまう。
 そしてショーンは過去の未解決事件から共通する事件を見つけ出し、犯人は連続殺人犯であることを確信する、という話。
 ニーチェの深淵の一節が思い浮かびますが、仮に同じような資質があったとしてもあちら側に行ってしまうのと行かないのは、最初から絶対的な何かが違うんじゃないだろうか、と感じてしまいました。

  冷酷.jpg 寒そうではありますが、北欧ではありません。
 イギリスのミステリは結構読んでいるつもりでしたが、意外とスコットランド・ヤード所属の話って珍しいかも(あたしがイギリスでも地方の話を多く読んでいるせいかもしれない)。 主役はショーン・ケリガン警部補ですが、チームのメンバーもキャラ立ちしていて「この人、誰?」と登場人物一覧表に戻る必要がなく、特に紅一点の女性刑事さんの描かれ方がナチュラルで素敵。
 興味深いのがスコットランド・ヤードにあるケース・インデックス。 FBIでいえば行動分析課にあたる部署ですが、いわゆるプロファイリングはせず、単純に犯行の手口や犯人の“署名”といった共通項のみで探し出す。 そのあたりもイギリスの地味で堅実な感じが出ていて面白い(確かに、ドラマにはなりにくいだろうけど)。
 冷酷なのは自分の楽しみのために容易く人を殺す犯人であることには間違いないけれど、それを追いかける側も自分の中にある冷酷さを引き出し、向かい合うことで犯人に同調しつつも決して自分自身はそこに巻き込まれないという冷静さが必要で、でも事件解決のために家族やいろんなことを犠牲にしてしまっていることに悩まされない冷酷さが必要で・・・と、いろんな種類・段階の<冷酷さ>が多数描かれ、ほんとに刑事という職業はただの職業ではなく使命なのだな、と感じてしまう。
 どうか、全国の刑事さんのご家族の方、そんな重い使命を負っていることを理解してあげて、と願わずにはいられない(あたしの周囲にはそういう方がいないので、勝手な感傷でものを言うな、と言われたら返す言葉はないですが・・・)。

 なんでも作者は実際にロンドン警視庁に勤め、南部のスラム街を担当していた刑事さんだったとか。 刑事になることと作家になることが夢で、刑事になったけど作家への夢はやみがたく、退職して作家になったとのこと(なので覆面作家だそうです)。
 本国ではショーン・ケリガン警部補を主役にシリーズ化している模様ですが、日本では翻訳の続きが出ない・・・。
 是非、続巻翻訳希望!

ラベル:海外ミステリ
posted by かしこん at 23:56| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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