2016年12月29日

聖の青春 (さとしのせいしゅん)

 最初にチラシを見て、羽生善治を東出くんがやるなんて大丈夫なの?!、と思ってしまっていました、すみません。 あたしは村山聖という人を<『3月のライオン』の二階堂くんの大雑把なモデル>と解釈していたのですが、ご本人のお写真見たら、見た記憶あり! <羽生善治七冠達成>の頃って、すごく将棋の世界も注目されていたんだなぁ(というか、あたしもよく見ていたというべきか)、と実感。
 映画『宇宙兄弟』(実写版)の監督の人、ということで、あまり期待していなかったのだが・・・(羽生さんを東出くんで大丈夫なのかよ、という危惧もあり)、でも松ケン、がんばってるしなぁ、ということで。 原作は読みかけで(前から三分の一ほどで止まっていた)、あえて最後まで読まないで行った。 事実として知っていることでも、詳細まで知らないほうがいい、と思ったから。

  聖の青春P2.jpeg 生きること。

 実話ベースではあるものの、驚くほど映画はドキュメンタリータッチだった。 過剰な演出はしない、でも必要と思われることは描写する。 だけど必要最小限過ぎたというか、ある程度原作を読んでいるもしくはご本人のことを知っている人でないと誤解を招く部分がなきにしもあらず。 そこは残念だなぁ、と思う。

 5歳のときネフローゼであると診断された村山聖(松山ケンイチ)は入院生活の中で将棋と出会い、ひたすらのめり込んでいく。 名人になることを目指し、15歳で森信雄(リリー・フランキー)に師事、メキメキと力をつけていくが、病もまた確実に彼の身体を蝕んでいた。 だがそれをおして七段に昇段した頃、同世代で羽生善治(東出昌大)が名人のタイトルを獲得、一歩先に出る。 彼に嫉妬心と憧れを両方感じた村山は、「羽生に勝つ」ことを目的に更なる将棋道に邁進する・・・という話。

  聖の青春1.jpg 松ケン、一体何キロ増量したのやら・・・。

 あたしは当時東日本に住んでいたので、やはり羽生さんのほうが印象が強い。
 というか彼は日本の将棋界においてアイルトン・セナのような存在で、羽生善治がいるために将棋の世界に興味を持つことが当たり前の時代であった(だからルールは明確に知らねども、『3月のライオン』の将棋シーンについていけるのはその頃の知識の貯金のおかげである)。
 今は通勤途中の電車の窓から福島駅近くにあるという大阪の将棋会館が見える。
 まわりの風景は違えども、「あぁ、この建物なんだな」と見かけるたびに感慨深い(実際、映画でもこの将棋会館が出てきます)。 彼が乗ったであろうJRの車窓からの風景は多分当時のもので、今ほど高層の建物はそんなにない。 そこにも時代を感じたりして。
 回想シーンは多少あれど、映画は1994年からの約4年間に絞り、時間軸通りにまるで村山聖の生きた姿を焼きつけるかのように進む。 彼が残された命を振り絞って戦う姿が壮絶な分だけ、「なんでもっとちゃんと早い段階から健康管理してないわけ?」という疑惑が生まれてしまうと思う。 ネフローゼと診断されるまでの彼はまさに元気いっぱいの子供で、その記憶があるから病気のせいで思い通りに動かない自分の身体というものに屈折した感情を持っていることが描かれていない(だからこそ将棋に出会ったことで世界が広がった、という当時の彼の希望と救いが、たまたまお父さんが将棋盤を持ってきたという偶然に置き換えられてしまった)。

 プロ棋士という職業と人生を選択したからには普通の人が当たり前にしていることを手放さなければならない、という描写はあるものの、それは村山さんだけではなくすべてのプロ棋士に言えること。 お母さんだって体調の為に減塩食をつくったり懸命に世話してたのに、師匠に任せてまるでほったらかしみたいに描かれているのは失礼に感じた。
 限られた時間の中でどこかを端折らねばならないことはわかるんだけど・・・「でも、ここはいらないんじゃないか?」とあたしは思う部分があったので、残念だった。 『宇宙兄弟』もそうだけど、この監督に長い原作は向いていないのかもしれない。

  聖の青春2.jpg 本であふれる村山の部屋。 若干親近感・・・。

 少女マンガが好きだった村山の部屋に、萩尾望都の『マージナル』が3巻まであるのを発見したときは「おおっ!」と心の中でうなった(プチフラワーコミックス版)。 でもあれ全5巻なんだけど、残りは!、と思っていたら古本屋を訪れた村山くんが4巻と5巻を買っているシーンがあって安心する。 彼がいちばん好きだったのは『イタズラなKiss』だったみたいだけど、あたしは彼とマンガ・本友達になれたかもしれない、と勝手に思った(部屋の本棚に一段、ハヤカワSF文庫も並んでたし)。

 そして不覚にも(?)、「羽生さんかっこいい!」と思ってしまったあたし。
 東出くんは羽生善治の対局中の仕草含めてほぼ完コピ。 必要なこと以外は喋らないキャラ設定のおかげで、彼のこれまでのキャリアの中で最高の演技ではなかったか、と思う。 羽生に声をかけたいが何を話していいかわからずただあとをついていく村山、それに気付きながらも「なにかご用ですか」などと無粋なことは言わず、わずかに微笑み会釈する羽生。 ・・・それは少女マンガのお嬢様キャラ的ヒロインそのままで、「きゃーっ!」と心の中で悲鳴を上げそうになってしまった。

  聖の青春5.jpg そう、結婚するまでは常に髪に寝癖がありましたよね、ということも思い出したり。

 基本的にはこの二人の対比ですが、個性豊かな棋士たちもまた短い村山の人生を彩る。
 我儘で自分勝手なように見えるけど、誰よりも将棋に対して誠実であり続けた彼を、なんだかんだ言いつつもみなさん愛していたのだなということは伝わってくる。 だから「手術したら将棋ができなくなる」、「麻酔使ったら頭の働きが鈍るから、麻酔使わないで手術をするならやってもいいです」みたいな無茶苦茶なことを言っても、あたかも駄々をこねる子供のように見えてどこか微笑ましい(出番は少ないが、医師役の鶴見辰吾の最近の充実ぶりもまた素晴らしい)。 それもどこか憎めない村山聖像を松山ケンイチが作り上げたからだろうか。
 ヤスケンさんや染谷将太もいい味出してるし、羽生に負けて7冠を明け渡す谷口浩司の後姿を数秒だけ体現した野間口徹さんもおいしい。 原作者の投影人物である筒井道隆は最初誰だかわからなかったが(ひげ面だったので)、彼もいい感じに歳をとってきているんだな、と思った。 ま、リリー・フランキーはいつもの通りおいしい役どころでほんとずるいですわ。
 と、キャストにはほぼ文句なしだし、泰基博のエンディングテーマもよかった。
 それ故に、端折られた部分のことがあまりに残念だった。

ラベル:映画館 日本映画
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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