2016年08月12日

葛城事件

 あぁ、またしても誰ひとり共感できる人が出てこない・・・。
 なにしろ劇団THE SHAMPOO HATの赤堀雅秋作品ですから、もう最初からそれは承知の上だったのですが。 すでに演劇として上演していた作品を映画用にブラッシュアップ、新たなキャストで映画化、という流れは前作『その夜の侍』と同じ。
 あの時も痛い目にあったのだが、今回もなんで観ちゃったかな・・・。 でも、耳にした評判がよかったから、気になっていたのは確か。

  葛城事件P.jpg 俺が一体、何をした。
    無差別殺傷事件の背景にある闇を炙り出す、壮絶な家族の物語。

 ある郊外の住宅地で、葛城清(三浦友和)は重い調子で鼻歌を歌いながら自宅の壁に描かれた誹謗中傷的落書きをペンキで消している。 そしてホースで庭に水をまく。 ありふれた、けれどどこか異様な風景。
 親が始めた金物屋を継いだ清は、美しい妻・伸子(南果歩)との間に2人の息子が誕生し、念願のマイホームを建て、自分が思い描いた理想の家庭をつくったはずだった。 が、清のその思いの強さが、家族を抑圧的に支配するようになっていたことに気づくことはなかった。 長男の保(新井浩文)は小さい頃からおとなしく、よくできた子供だったが、従順であることを強いられてきたため、大人になってから対人関係に悩むことになるがそれを誰にも言い出せない。 なんでもかんでも飽きっぽく、アルバイトも長続きしない次男の稔(若葉竜也)は、ことあるごとに清にそれを責められ、優秀な兄と比べられてきた。 わかってもらえない気持ちはいつしか憎しみと自己弁護がないまぜになり、「すべて他人のせい」と考えるようになる。 そして清に言動を抑圧され、精神的DVに苦しめられてきた伸子は、いつしか思考停止のまま日々を生きるようになる。

  葛城事件2.jpg それを象徴するのが食卓。 全員で同じテーブルを囲むことはない。 並ぶのは誰かの手料理ではなくデリバリーやコンビニ弁当。 お茶でさえもペットボトル(せめてグラスに入れよう)。 ・・・食育って、大事だな。
 そんなすでに壊れた家族にある日、ある出来事が起こるがそれも失敗、葛城家は更に崩壊のジェットコースターに乗ることになり、決定打のように稔が無差別殺傷事件を起こし死刑判決が下る。 そして、死刑反対を信条としている活動家・星野(田中麗奈)が現れ、稔と獄中結婚したと清に告げるのだが・・・という話。
 まぁ映画は時間軸をシャッフルし、「何故こんなことになったのか」をじわじわと見せてくる。
 実際、すべてにおいて問題ありで、どこか途中で歯車を変えることはできなかったのか、とこっちが思う気力さえ奪われるほど。 こんな家族、本当に嫌だが、このような家族が存在しないとは言い切れない恐怖。 だからといって無差別殺人が肯定されるはずもなく、そんな家族で育っても無事脱出してまともに暮らしている人のほうが多いだろうと思いたい(「まとも」への適応はさぞ苦しくつらいものであっただろうと想像するのもあまりあるが)。

  葛城事件1.jpg 清が馴染みだという中華料理店で繰り広げるモンスタークレーマー振りは、「こいつに近付くと危険」という札を首から下げているかのようだ(しかも誰も止められない)。 『64』ではあんなにかっこよかったのに、三浦友和すさまじ過ぎる。

 更に、なにしろ田中麗奈がやっているので一見まともそうな女・星野であるが、やはり歪んだ家庭の近づいてきてしまうような人間はやはり内側に歪みを抱えているようで、下手したら彼女がいちばんやばいんじゃないか、という戦慄。 自分が正しいと思ってしてきたことに強烈なカウンターパンチを食らった清に、情け容赦なく更に追い打ちをかける存在。

  葛城事件3.jpg そして稔も、自分がわめいていることは父親の言っていることと構造はほとんど同じ、ということに気づかない愚かしさ。 客観性の欠如は、憎しみの再生産につながるのか。

 なんだろう、この「まともな人が誰も出てこない」という既視感。
 あ、『クリーピー』だ!
 郊外の住宅地で、家と家との間が近すぎるように見える、というのもなんか同じ。
 ホラーを謳っていないのに、描かれている内容はまさにホラー映画と変わりない、というのが、他人にはよく見えないそれぞれの家庭で起こっているかもしれない密室劇の恐怖なのだろう。
 そこにはむなしさだけがつきまとう。 ここまで不快な内容の映画を観客に最後まで見せ切るのは、すべて俳優さんたちの熱演に他ならない。
 けれど、これは決して「家族で観てはいけない映画」。 観るときは、是非お一人で。

ラベル:映画館 日本映画
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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