2016年07月26日

疑惑のチャンピオン/THE PROGRAM

 おぼろげな記憶だが、あたしが子供の頃<ツール・ド・フランス>はTVで中継されていたような気がする。 で、なんだか面白く見ていたような。 自転車同士の競り合いもそうだが、思いのほかすぐ近くで応援している観客たちの姿や、どんどん移り変わっていく美しいヨーロッパの景観が楽しくて。
 でも最近は多チャンネル化の影響で<ツール・ド・フランス>は多分専門局の放送になっているのであろう、すっかり遠ざかってしまった。 近藤史恵の『サクリファイス』シリーズを読むくらいが、あたしと自転車競技の接点ぐらいになってしまったかな〜。
 だから比較的最近といえる時期に起こっていたこのスキャンダルについて、あたしは全然知らなかったのだ。 だから映画としてはとても新鮮だったが・・・<プロスポーツが抱える闇>について考えざるを得なかった。

  疑惑のチャンピオンP.jpg 勝利への底なしの欲望
    世界最高峰の自転車レースで7冠に輝いたランス・アームストロング。
    衝撃の実話が問いかける――彼は英雄か、それともただのペテン師か?

 自転車ロードレースの選手ランス・アームストロング(ベン・フォスター)が頭角を現し始めた25歳、彼は精巣がんの告知を受け、のちにがんは脳に転移する。 それをすべて手術で切り抜け、再びロードレース界に帰って来た彼は1999年から2005年まで<ツール・ド・フランス>において史上初の7連覇を達成し、同時にがん患者を支援する社会活動にも取り組んで世界中から尊敬される英雄となる。
 だが彼にはずっとドーピング疑惑という“黒い噂”もつきまとっており、サンデー・タイムズの記者でアイルランド人のデイビッド・ウォルシュ(クリス・オダウド)は執念の取材でランス・アームストロングの真実に迫っていく・・・という話。
 アームストロングはアメリカでのロードレースをほぼ制覇して、満を持してのヨーロッパ進出だった。 それまでは彼は競技が楽しかったのだと思う(映画でのBGMはラモーンズの“電撃バップ”だったし)。 けれど世界の壁は厚く、その挫折感と「絶対にその体形ではツール・ド・フランスを勝つのは無理」と言われてしまったこともあって(上半身ムキムキの体操選手のような体つきだった)、そのときは違法ではなかったスタミナ増強剤<エポ>に手を出すことになったのだろう。 実際、がんになったとき診断した医者が、「エポの過剰摂取ががんの悪化・転移に影響を与えていないとは言えない」と言っていたもの。

  疑惑のチャンピオン1.jpg 復帰後の彼は別人のような走りに。
 彼は一回命を棄てかけた。 多分気持ちとしては、あとは怖いものなしだったんじゃないか。 抗がん剤治療の結果、落ちた筋肉をさらし、「これからロードレーサーに最適の肉体がつくれるだろ」とほくそ笑み、罪悪感ゼロだからヒーローとしての自分を堂々と演じることが出来た。 それが、彼にとって生きているということだから。
 ドーピングの驚くべく仕組み(それが原題の『プログラム』)を含めて、彼にとっては<レース>だったのではないか、という気さえする。
 しかしそれもこれも、スポーツ医学専門家と名乗るあやしげなあの医者(しかもそれがギヨーム・カネだったりする)との出会いがあったからこそである。 彼に会わなかったら・・・前人未到の記録はなしえなかっただろうが、このようなことにもならなかっただろう。 でも、仮にアームストロングでなくとも<スター>と呼ばれる人物が存在することで競技の知名度が上がり、スポンサーがつき、ファンも増え・・・という現象を業界が歓迎しないわけもなく、ドーピング疑惑が長々と放置されていたのもそんな利権の産物でもあるわけで。 あぁ、お金が絡むとほんと厄介。

  疑惑のチャンピオン2.jpg おまけにこのドクター(ギヨーム・カネですよ、念のため)はマッドサイエンティスト的性質の持ち主で、ランスを実験台としか思ってないし。

 とはいえ、ベン・フォスターの何を考えているかわからない、常に善人とも悪人ともつかない表情がいろんな意味で怖すぎて、はまり役でした。 <衝撃の実話の映画化>という話題性だけでなく、演技面もそれぞれ水準以上なのでまるで倒叙サスペンスミステリを観ているような気持ちにもなり、大変ハラハラでした。

  疑惑のチャンピオン4.jpg ちなみに追及する側のクリス・オダウド、絶対どこかで見たことある顔なんだけど・・・と思ったら『ブライズメイド』の巡査さんじゃないか! 顔の印象全然違う! やはりモデルにあたる人物がいるとその人に外見からも似せていこうというのが昨今の流れなのね(それだけ、実話がらみの映画が多いといえる)。

 そんなわけで、プロスポーツの世界ではどんな競技でも多かれ少なかれ似たようなことが行われているのでは?、という疑惑が消えない(プロでなくても国や個人の名誉がかかったオリンピックなどもそういえると思うが)。 記録がどんどん更新されていくのは、道具の改良・筋肉の科学的解明などが進んできているとはいえ、ほんとうにそれだけなんだろうか。
 「勝利への底なしの欲望」とは、ハングリー精神が求められる運動選手にとって、必要な資質の紙一重のところなのでは。
 あたし自身はプロスポーツにそんなに興味はないのだけれど(やっていたらたまたま見ることはありますが)、そういう部分をあえて見たくないということがあるせいかも。 ハングリー精神が自分自身にないからです。
 もう、子供の頃のようにのんきに<ツール・ド・フランス>も見られない。
 まぁ、スポーツに夢を見たことがないからいいんだけど、それでもちょっと切ないものが。
 結局のところ、個人の倫理観にすべては還元していくということなんだろうな。

ラベル:映画館 外国映画
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック