「『ぼくのエリ』を彷彿とさせるノルディック・ノワール」という宣伝文句にいたく刺激され、公開を待っておりました(『ぼくのエリ』、大好きなんで)。
しかし期待しすぎた、かな。 そのコピー以上でも、以下でもなかったような・・・。
漁業や魚加工が中心の海岸沿いの小さな村で。
父(ラース・ミケルセン)と病気のためにほぼ何もできない母と共に暮らしている19歳のマリー(ソニア・ズー)は、母の病気が遺伝するかもしれないと定期的に村の医師の診察を受けているが、母の病気が一体何なのか誰も教えてはくれない。 そして魚の加工工場で働き始めたマリーだが、周囲の人々はどこかマリーを警戒しているようで落ち着かない。
そんな中、距離を感じさせない親しい態度をとってくれる同僚のダニエル(ヤーコブ・オフテブロ)がマリーの唯一の安らぎになっていくのだが、マリーは自分の身体に変化が起きていることに気づいてしまい・・・という話。
ミステリーというよりは、ダークファンタジーといった感じか(過去の殺人事件とか設定はありますが)。 『ぼくのエリ』と違うのは主人公の孤独の度合いと絶望の深さですかね(だからってマリーのほうが恵まれているとか、そういうことじゃないですけども)。
とりあえず家族はいる、でも秘密がある。 まったく家族がいないのと、いるんだけれども家族が自分にだけ何かを隠している、と感じ続けるのは種類の違うつらさだろう。
ちなみにミケルセンって北欧にはよくある名字だし、と思ってまったく気にしていなかったのですが、ラース・ミケルセンはマッツ・ミケルセンの兄だと今回知りました! 似てるのか似てないのかわからない!
で、もっとつらいのは村の人々の「なにか云いたそうだけど黙って見つめているだけ」の目。
好奇ではなくどこか警戒している感じの。 そりゃ、マリー、つらい。 いくら父親が精一杯愛してくれていたって、ダニエルに傾倒してしまうのも仕方ないですよ、若いし。 問題はダニエルにマリーを受け止めるだけの度量があるかにかかっている! そういう意味では『ロミオとジュリエット』的ラヴストーリーでもあるのですが、受け入れている振りをしていても実は排他的な村の人々の“偏見”というか“固定概念”というか、そういうものがマリーを追い詰める本質。 北欧の冷たく暗い空気と相まって、人間のダークサイドを否応なしに強調するのであります。
でも北欧の空気感、やっぱりいいなぁ。
なのであのラストは必然。 R+15の本領発揮でした。
でもホラーというわけではなく、全体的に「悲しい運命に翻弄されるヒロイン」という切ない哀しみに満ちている、という感じ。
「うわぁ、そこで切るかぁ!」なバッサリのラストシーンの潔さもまた北欧的。 それでいてエンドロール途中でかかる曲は全盛期のマドンナのようなポップミュージック・・・この落差にひじが落ちそうになったのはあたしだけだろうか(実はアイドル映画だったのか?疑惑がつい生まれたよ)。
ただ、邦題は雰囲気あるけどほぼネタバレですよね・・・。
そして余談ですが、あたしはカラスガレイが好きでよく切り身を買ってきて煮物にしますが、本体ってこんなにでっかいの! そしてもしかして、普段食べてるやつもこんなところからの輸入品なの?!、と、水産物のグローバル化についても想いを馳せることになりました。