2016年04月19日

偉大なるマルグリット/MARGUERITE

 予告を観て、「あぁ、なんだか痛々しい話だろうか・・・」という予感はしたものの、主役は『大統領の料理人』のあの方。 本国で高く評価されたという熱演は観たい。 悩んでいたところへの決め手は、チラシの裏に書かれていたコピー、<音楽への壮大で残酷な片想い>。 片思いならあたしに任せろ! いや、音楽だけでなく芸術全般に、あたしも片想いをしているようなものだ、としみじみ実感してしまったので。

  偉大なるマルグリットP.jpeg マダムの歌声には、本人だけが知らない<秘密>があった。

 1920年、フランス。 パリから少し離れた邸宅で開催される恒例のサロン音楽会を主催するのはマルグリット・デュモン伯爵夫人(カトリーヌ・フロ)。 メインイベントとして最後に披露される彼女の歌は誰しもを凍りつかせる壮絶な音痴ぶり。 だが貴重なパトロンであるマダムに面と向かって事実を告げる者はいない。 初めてマダムの歌を耳にした新聞記者ボーモン(シルヴァン・デュエード)も彼女の歌声に失笑を禁じえなかったが、自らの野心のために彼女を絶賛した記事を書く。 かくして本人だけが「自分は才能ある歌い手」と勘違いしてしまったマルグリットの身に起こる喜悲劇が展開されていく・・・という話。

  偉大なるマルグリット2.jpg 勿論、マダムは毎日練習も忘れない。
 破壊力を伴わないジャイアンのリサイタルってこんな感じかしら・・・と思ってしまうほど、マダムの音痴っぷりがすごい! 逆に、どうしたらそう歌える?!、と訊きたくなってしまうほどです(でも、わざとやってもこうはならないだろうというギリギリのラインが絶妙)。
 けれどマダムは新進女性歌手の実力は認めるし、落ちぶれていても実力ある歌い手はわかる。 いいものはいいとわかる力を持っている人なのだから、自分の音痴にまったく気づいていない、ということはない気がする・・・。 うっすらとわかっていてもはっきり気づきたくない、という自己防衛本能か。 いや、もしかしたらほんとうは音痴の振りをしているのでは? お金持ちの無邪気なマダムに見せつつも、なにかを心の底に秘めていると感じさせる“弱さ”を、ちょっとした仕草で表現してしまうカトリーヌ・フロは<自分の意志を持った強い人>だった『大統領の料理人』とはまったくの別人で、さすがです。

  偉大なるマルグリット3.jpg ボーモン他、ひどい人たち。
 が、ともかくも、そんなマダムの真意を曇らせるのは、財力や権力に群がり、媚びへつらう人々の群れ。 「王様はハダカだ!」とはっきり指摘する勇気もなく、物陰でこっそり笑って溜飲を下げている醜さ。 むしろ飛びぬけた下手さ加減こそが今の時代のアヴァンギャルドだ!、と面白がる人たち。 勿論、その繰り返しで芸術が発展してきたのはわかっているのだが・・・それは<美術史>として見たときで、個人に還元されるとなるとまた話は別だから。 まして歴史に残るのは成功した人たちだし。
 笑われれば笑われるほど、マダムの真摯さが胸を打つ。 それともこれは、世界の芸術を牽引してきたフランスによる自己批判?

  偉大なるマルグリット1.jpg リサイタルを前に、高名なテノール歌手ベッジーニから歌唱指導を受けるマダム。 ベッジーニはマダムの抱える問題を一目で見抜き一刀両断(でもやはり本人には言わない)。

 しかし夫であるデュモン伯爵(アンドレ・マルコン)は何故妻のマルグリットがそんなに歌いたがるのか理解できず、マルグリットに忠実な執事(ドニ・ムプンガ)は彼女の妄想(?)を守るために働く。 その対比も片想いのようでもあり、執事のフェティッシュさでもあるとも思えるのだが・・・どの立場から見るか、でこの映画は姿を変えるような気がする。

  偉大なるマルグリット4.jpg どんなに不実な夫であろうともマダムは彼を愛していて、それ故に不平のひとつも言えないなんて・・・悲しすぎるわ。

 最初のきっかけは確かにマダムの欲求不満だったのかもしれない。 現実を直視したくないという逃げから始まったのかもしれないけれど、そのあまりにまっすぐで純粋な強い思いが周囲に影響を与え、彼女を知れば知るほど、彼女を傷つけずに守ってあげたい、助けてあげたいと思ってしまう。 「そこまでいってしまうことがすごい!」という憧れがそうさせるのでしょうか。 だから“一瞬の奇跡”を目の当たりにできたのでしょうか。
 <片想い>をしている最中はつらさと楽さが同居していて、むしろトータルで見たら楽であるほうが多いかもしれない。 でもそれに終止符を打とうと思ったら・・・ラストシーンが示唆しているのはそれだろうか。 観客の個人的体験の違いによって受け取り方が異なるであろう衝撃のラスト、予告編からはこんなにも後味が強烈な作品だとは思いもしなかった。
 あぁ、やはりフランス映画は油断できない。 文化の違いをまざまざと感じさせられるよ。

ラベル:映画館 外国映画
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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