そんなわけで、満を持しての『ある過去の行方』鑑賞。
予告ではサスペンスタッチのイメージを持っていたのだが・・・わかりそうでわからない
人間の心理にサスペンスタッチで迫ってはいるものの、二組の男女、親子という構図は
『別離』とほぼ同じ(ストーリーの方向性は違うのですが)。 なので若干の既視感を
覚えなかったわけではない。

思いも寄らない真実がその姿を現した時、さらなる疑惑を呼び起こす。
映画はほとんど説明なしで進む。 空港に降り立った男はその場に不慣れな様子で、
出迎えに来ているらしき人を探している。 ガラスの向こう側にようやくその姿を見つけるが、
二人は出会ってうれしいのかどうかわからない。
二人の会話から、男はアーマド(アリ・モサファ)といい、現在はイランに住んでいるが、
4年前から別居している妻マリー=アンヌ(ベレニス・ベジョ)と離婚手続きをするために
パリに来たのだとわかる。 かつて一緒に住んでいた家に行けば、マリー=アンヌとその
娘であるリュシー(ポリーヌ・ビュルレ)以外にも小さな子どもと若い男サミール(タハール・
ラヒム)がいる。 マリー=アンヌとサミールが再婚するために早くはっきり離婚したいのだと
言うが・・・アーマドは何か違和感を覚える・・・という話。
てっきり主役はアーマドなのかと思って見ていたら、なんか違った! というか、はっきり
誰かを主役と説明できるような映画ではない、ということか。

どっちにしろ、また「子供が苦しむ」話になっちゃってますね。
台詞の応酬と、散りばめられた何らかの意味が込められたモチーフ。 すべてをはっきり
描くわけではないので深読みしようと思えばいくらでもできるし、それも監督のスタイルなの
だろうと思うけれど・・・“家族”にこんなにも複雑な事情が絡んでたらなんか疲れちゃうな、
というのもあたしの本音ではある。
リュシーとアーマドは実の親子ではないので、次の結婚はマリー=アンヌにとって3回目
なのかな? マリー=アンヌとアーマドが何故ダメになったかがわからないのでなんとも
言えないが、彼女は結婚とか家族とか向いてないんじゃない? 本人にそのへんの自覚が
ないので周囲の人間は振り回されてしまう、というのがこの悲劇の真相ではないかと・・・と
なると関わってしまった人は身の不運を嘆けばいいのか、何らかの責任はあるのかとか、
答えの出ない迷宮に入り込んでしまいますか。
ベレニス・ベジョさん、『アーティスト』のときの無邪気なキュートさとは打って変わって
<美人だけどめんどくさい女>を好演。 『タイピスト!』でもそんな要素のある役柄だった
のでこういうほうが得意なのかな? サミール役の人はハンサムな分だけ優柔不断だったり
自分勝手だったりするところが目立ち、印象のわるい役柄であった。

三人それぞれ違うのがミソか。
だから、というかやっぱりというか、それぞれの会話や思いはかみ合うことがないよ・・・
哀しすぎるなぁ。
そんな中、「えっ!」と声が出そうなほどに唐突感のあったラストシーン。
でもこのシーンのおかげで多少の救いはあるのか・・・。
それでもやっぱり“しんどい話”であることには変わりはない。 あぁ、なんかぐっと疲れた。
『プリズナーズ』のような息苦しいほどにしんどい映画に対しては「疲れた」という感想は
なかったのだが・・・なにが違うんだろう?