2012年12月01日

終の信託

 周防正行監督、満を持しての新作ということで・・・でも原作ありって久し振りでは。
 しかも公開当初はかなりCMなど流れてましたが、実際の映画館はひっそりという感じで・・・だ、大丈夫か。
 東京地検に呼び出されて、女が待合室に腰かけている。 何故こうなったのか、女の意識は過去をさまよう。
 呼吸器内科医の折井綾乃(草刈民代)は、何年も前からぜんそく患者の江木秦三(役所広司)の担当になっているが、症状はなかなか好転せず、むしろ入退院を繰り返すたびに重症になっていることにどう手を打てばいいのか悩んでいる。 その一方で、同じ病院の医師高井(浅野忠信)との不倫にも答えが出せず、つらい日々を送っていた。

  信託ポスター.jpg 医療か? 殺人か?
     周防正行がたどり着いたのは、愛と死を超える魂の慟哭。

 医療か、殺人か、というコピーは観客にテーマを誘導させるミスリーディング。
 これはただ、<医師>という境界を踏み越えた(もしくは自覚すらない)依存型の女性がやったこと、でしかない。 折井医師には不倫している覚悟がないし(また、そういう相手に遊び人は手を出してはいかんのだが)、それでいて本人は普通に恋愛してるつもりなのだから性質が悪いというか、ほんとに<依存型>の人間なのだとわかります。
 だから棄てられたからの失意の日々を江木の存在が救ってくれた、となって、今度は彼に依存してしまう。 また江木は江木で「家族に申し訳ない」という気持ちから弱音を吐けず、担当医ならば病状のこともわかってくれると頼りにしてしまう悪循環。

  信託4.jpg信託1.jpg それを、純愛と言われても・・・。 でも確かに役所広司の演技は息苦しそうでした。

 医師と患者に信頼関係があるのは大事なことですよ、しかしねぇ!、といらっとしてしまうあたし。 はっきりと何も言わない江木の妻も含め、誰ひとりとしてあたしが感情移入できる・共感できる人間が誰も出てこないのである。 これはこれですごい!
 あえて言うなら検察官の塚原(大沢たかお)の事務官(細田よしひこ)が観客の立ち位置に近いかな・・・(勿論、医療関係者や身近にぜんそく含む余命を宣告された患者がいる人はまた別な視点になるでしょうが)。 ただ、気になったのは実際の面談が始まる前に事務官くんが週刊誌の記事のコピーを見ていたこと。 設定は裁判員制度施行前だと思いますが、裁判員には予断を持つなと言っておいて検察側はマスコミの情報を利用するのか? 「世間に注目されている事件だからこそ失敗できない」―検察側の本音が見えます。
 そうそう、大沢たかおの役もなかなかすごいのですが、名乗るときに「塚原検察官だ」と言うので違和感。 え?、「検察官の塚原だ(です)」じゃないの? 検察官という肩書も名前の一部か!?、ということに、検察官の相当の自負というか、いけすかない感が全開ですよ。

  信託6.jpg ま、一応、彼も苦悩しているとわかるシーンはありますが、検察に好意を持つほどじゃないです。

 塚原と折井の対話(というか取り調べ?)は緊迫感に満ちてはいるが、その会話ときたら恐ろしほどにかみ合わない。 片方は根拠が法律であり、もう片方は感情だから。
 ある意味、これはもうひとつの『それでもボクはやってない』です(あ、今回はやってますけどね)。 普通の人(司法と関係のない場所で生きてきた人)が警察・司法の場に準備なしで放り込まれたらどうなるか、という恐怖をまた描いているように思う。 身に覚えがあろうが無かろうが、不用意な一言が拡大され・歪曲されて自分の言葉として調書にまとめられてしまう恐ろしさ。 そのあたりのことが『それでも―』でも描き切れなかった思いがあるような気がします。 なるほど、黙秘権って大事ですね。
 ただ、このケースをもって<延命拒否>の問題を討論してはいかんと思う。 あまりに特殊すぎるし、それ故に法の介入があっても仕方がないという話になってしまいかねない。 が、どんなにテストケースを提示しても患者も医師も人間・・・きっと特殊な何かは発生してしまうんだろうか。 それを踏まえた上でのこの映画で問題提起なのならば、周防監督は相当考え抜いたかあえてを狙った策士なのだなと考えてしまうなぁ。
 それを受けてあたしは・・・<延命拒否>や<尊厳死>が誰かの手を借りなければならないことに(そして誰かに迷惑がかかることもあると)気づき、大変暗澹たる気持ちになる。 しかも自分の意志を伝えられる状況ならともかく、いきなり意識不明とかになったらどうすればいいのやら。 臓器提供カードに同意するか否かを書かせるよりも、それを明示させることも大事じゃない?
 死ぬときもめんどくささから解放されないのか・・・困りました。

ラベル:映画館 日本映画
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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