2012年08月26日

苦役列車



 なんでも「原作者は映画の出来に大いに不満」と言われているこの作品ですが・・・



だって予告の段階から「友情とは?」みたいなテーマで描かれてるみたいな宣伝



コピーだったもの(原作の描きたいところはそこではなかったことは感じました)。



 でも、映画化権を渡してしまったら映画は監督もしくはプロデューサーのもの。



 原作者は金を受け取って黙るか、もしくは自分から脚本を書くぐらいにまで関わらないと



ダメとか、道はどっちかだと思います(そういう意味で、批判はせずにそこそこ褒めて、



ときには自ら宣伝も買って出る東野圭吾はビジネス的にも大人の対応ですよねぇ。



比較するのもなんなんですが)。



   友ナシ、金ナシ、女ナシ。 この愛すべきろくでナシ



 父親が性犯罪者であるという過去を子供のときに背負わされ、中卒で日雇い労働を



する19歳の北町貫多(森山未來)。 中卒であることはコンプレックスだが、かといって



未来に確たる夢も希望も持てない。 ただ本を読むことは好きで、稼いだ日銭を飲んだ



くれ&風俗&古本屋通いで使う日々。 家賃も払えずに追い出されたりします。



   そのふてぶてしさというかいけてなさ感を、

           森山未來は結構がんばって体現していたと思う。



 だって、文字で読むだけだったら「まぁまぁ」と受け入れられていたものが、はっきり



台詞として声に出されたりしたら「こいつ、ただのバカもしくは変態じゃん!」と認識されて



しまいます・・・。 ここは性別の違いなのか、個人の感じ方のせいなのかわからないの



ですが・・・少なくとも女性も観客に向けてはつくってないな、という気はしました(たとえ



キャスティングに森山未來・高良健吾を持ってきていても)。 それがいいとか悪いとか



ではなく、ある意味潔いと思います。



 時代設定は1980年代後半というところでしょうか。 世の中がバブル期だったから



こそ日雇い仕事でもやっていけた部分もあり、それでも不安定な身分は変わらず、



未来は見えないというのに「誰でもよかった」と人を殺さないだけ貫太はまともな人間



なんだな、と今となっては気づくのですが、映画見ている間はほんとに困ったヤツだな



と・・・それしか浮かばない。



   同じ職場に来た専門学校生の

    日下部正二(高良健吾)とは、実は同じ年とわかり急速に親しくなる。



 しかしずっと<人間関係>というものをつくってこなかった貫太にとっては“友情”と



いうものがよくわからない。 親しくなったからといって頼ってばかりではいかんのだ!、



友情はある意味<ギブアンドテイク>だぞ!、と言い聞かせたくなってたまらない。



 日下部くんは原作ではもっと見も蓋もないキャラなのですが、高良健吾フィルターの



せいか“ちょっと世間知らずな間抜けな若者”が入っていて毒気を薄めます。



   貫太のアイドルは古本屋で働く桜井康子さん(前田敦子)。



 映画オリジナルキャラということでどう扱われるのか非常に心配しましたが・・・前田



敦子さんは結構昭和顔なのか“地方出身の苦学生”な感じが意外にリアルに出て



いました。 それでも古本屋によく来る客とはいえ顔見知り程度の男の誘いに押し



切られてはいかんだろ、と思うのは“おひとよし全盛”時代ではもう日本もなくなって



いるという証明のようで、そう感じた自分がちょっと悲しかったです。



 意外だったのは同僚の高橋さん(マキタスポーツ)。 原作では<悲惨な末路>の



代表みたいな感じで描かれっぱなしだった彼を、映画では主要キャラクターとして採用。



   いろんな意味で、いい味出過ぎてました。



 『松が根乱射事件』以降山下敦弘監督は評価され過ぎなのでは?、と思わない部分も



ないではありませんが(確かに『松が根乱射事件』は日本の単館系映画の中では



素晴らしい作品ですし、『マイ・バック・ページ』もまだ見てないので言うのもあれですが)、



監督の世界観的にはこのラストだよな〜、でも原作者としてはこのラストは許せない



だろうなぁ、というのが如実にわかってなんとも言えない気持ちに。



 これはもう、仕方のないことなんでしょうか。



 それでも「貫太、がんばれ!」と見る者に思わせるのが十分監督の力、ということ



なのかもしれません。 高倉健以来のまったく違う<不器用な男>を正面切って描いた



という意味でも、日本男子のエポックメイキング?!



 ただ、あたしは貫太や康子さんの部屋に並んでる本のタイトルがすごく気になって



仕方がなかった・・・本読みの宿命ですかね、これは。


posted by かしこん at 07:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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