2012年03月30日

サド侯爵夫人@シアター・ドラマシティ



 実は学生時代演劇部であったあたし、三島由紀夫は小説よりも戯曲のほうがすごい!、



と思っていた時期があって、しかしそれを人に言うのは何故か憚られ、ひとりでこっそり



読んでおりました。 だから自分たちで三島戯曲を上演したこともないし、実はプロ公演も



見に行ったことがない。



 しかし今回の『サド侯爵夫人』は演出:野村萬斎、ルネは蒼井優、モントルイユ夫人は



白石加代子、しかもサン・フォン伯爵夫人は麻実れいだというではないか!



 これは、これはぜひ見たいよ〜、しかしスケジュール詰まってる時期に9000円は



痛いよ〜、と悩みつつ、チケット取れたらうれしいけど、取れなかったら取れなかったで



仕方がないや!、と運任せで申し込んでみたところ、当たってしまった・・・うれしいけど、



うっ、って感じ。



 で、ぎりぎりまでいろいろあったため、「実は明日です!」と気づいて慌てても何を



慌てていいかわからないくらいリアル感がない。 よたよたと劇場に向かうのであった。



   うっ、やっぱり三幕だ、長い!



 とても静かに幕が開く。 上演前の注意アナウンスも、開演ベルもなく、ただすーっと



会場が暗くなっていく、それが合図。



 三島由紀夫の戯曲って台詞回しがすごく独特で、現在から見ると余計に「それって



仰々しいよ?」というか活字で見る分には気にならなくても実際台詞にして声に出して



みるとちょっとおかしい部分もあり、下手すれば失笑してしまうのですが・・・今回の



『サド侯爵夫人』にはそのような部分はまったくなく、さすが野村萬斎! わかってる!



ちゃんとツボを押さえている!、と勝手に感銘を受けました。



 第一幕、モントルイユ伯爵夫人づきの女中のシャルロット(町田マリー)が到着した客を



招き入れると、シミアーヌ男爵夫人(神野三鈴)とサン・フォン伯爵夫人(麻実れい)が



登場する。 招待したモントルイユ夫人(白石加代子)がまだ来ていないのでしばし



お待ちください、ということになり、二人はこの招待の意味、つまりサド侯爵の“悪行”に



ついて語り合う・・・のだが。 とにかく麻実れいがかっこいい!



 サド侯爵を援護するわけではないが自分自身に中にそのような衝動は必ずあるの



だから、と、自らの中にある“悪徳”を認め、むしろその悪徳のために生きる!、という



姿はすがすがしいまでの潔さ。 黒と青、という衣装のイメージとも相まって、美しい。



 見ているあたしが女だからかもしれませんが、姿の出てこない・ただ語られるだけの



サド侯爵よりもサン・フォン伯爵夫人の存在にこそひきつけられてしまうわけです。



 一方、シミアーヌ男爵夫人は良識派というか、当時の女性の置かれた立場そのものの



ようなお方。 スキャンダルを耳にしてはいけないと思いつつも好奇心には勝てない、



そして親戚の娘さんが困っているのならば助けなければいけない、というような。



 この二人のやりとりでほぼ前半ですが、台詞が明確に届くが故に笑えるところもくっきり



(ここは笑ってよいのか、の気兼ねもいらない)。 それはモントルイユ夫人の登場で更に



拍車がかかる(白石さんお笑い担当か?、というくらい湧かせてくれました)。



 そこで空気が一変し、サド侯爵夫人であるルネ(蒼井優)が登場するのですが・・・



そりゃもう主役ですから、ということもあるけれど、どこか別の世界からやってきた人です



的演出で、衣装もどこかの美術館展で同じような服を着た肖像画を見たことあるぞ!、な



レベル。 そして期待を裏切らぬ、他の方々と変わらぬきっぱりくっきりとした台詞回し。



 蒼井優、すごいなぁ!!、と素直に感嘆。 結婚なんかしなくてよかったよ、このまま



舞台女優の道を邁進してくれ!、と思わずにはいられませんでしたよ。



 ルネの妹・アンヌ(美波)が登場して爆弾発言をし、「夫の放蕩に対しても忍びがたきを



忍び、耐えている妻」であるルネの顔は仮面であるとわかって一幕終わり。 一時間ほど



なのに、とても濃密な時間だった。



   豪華キャストよねぇ。



 以降も濃密さは変わらず、二幕はそれから6年後、三幕はそれから13年後の話に



なるのだが・・・見ているうちに台詞を一言も聞き洩らしたくなくて、目をつぶってしまいたく



なるのだ。 舞台上の動きがあれば目を開けるのだが、それ以外はとにかくみなさんが



話している言葉と話し方のみに集中していたい瞬間があり・・・それって、傍から見たら



眠ってると思われたかな?(実際、周囲にはいびきかいてた方もいたし)。 でも違うのよ!



 あぁ、これぞ、演劇。



 カーテンコールにスタンディングオベーションで応える。



 正統派演劇の醍醐味を久し振りに感じ取ったあたしは、そのことに泣きそうになって



しまった。 3.11後の日本で演劇をやることについて答えを出さなくなった(探さなく



なったように見える)人も多いのに、まだ追求している人たちはきちんといて、勿論それは



舞台のテーマそのものとは離れても精神はつないだままで、かつそんなことを意識しなく



ても舞台として完成されている。 演出家野村萬斎の、普通にファンになってしまった。



 なんと言ったらいいのでしょう、つまりあたしはあれ以来初めて(シティボーイズは



別だが)、演劇世界に踏み込んだことを後ろめたく感じなくてもすんだのだ。


posted by かしこん at 04:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 舞台・演劇・芸術・イベント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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