『追想五断章』/米澤穂信
親の死により大学を休学、復学のための学費稼ぎと生活費を節約するために
主人公は古書店を営む叔父の家に居候し、仕事を手伝うことに。
ちょっと映画『森崎書店の日々』に似ていなくもない設定だけど、こちらの主人公は男で、
人生の展望をすでに暗く掴んでいるところが大きな違い。

そんなところに、信州から「生前父が小説を書いて同人誌などに発表していたらしい。
その5編をすべて集めてほしい」と依頼が入る。 店主は叔父なれど、ちょうど対応に
出たのは主人公。 報酬の金額につられて調査を始めてみたものの・・・それは
“家族の秘密”に結果的に土足で踏み込む行為だった。
米澤穂信という作家、『古典部シリーズ』とかライトノベルタッチのところから出てきた
方なのでハッピーエンド指向なのかと思いきや、意外にも「後味のよろしくない話」・
「ラストがいまいちすっきりしない話」がお好きなのでは・・・と思います。
これは幾分希望がにじむラストではあるけれど、その解釈も取りようによっては
変わるので。 あたしの好きな『犬はどこだ』や『さよなら妖精』もそういう傾向なので
・・・『ボトルネック』はかなりマイナスな方向のラストだとあたしは解釈しましたし
(『インシテミル』はだからちょっと別方向だと思います)。
この方は、ミステリやどんでん返し要素がなくても、読ませる物語をいつか書く人だ、
と思っています。
『幽霊たち』/ポール・オースター
今更かい!、のつっこまれ覚悟でございますが、一応自分を弁護しますと、再読で
ございます。

一度目は県の図書委員の研修会に来た講師がこれを激賞していて(多分読んだ
ばっかりだったんだろう)、それで気になって読んでみたものの・・・高校生の頃
『ノルウェイの森』の面白さがわからなくて文学を敬遠気味だった時期に更にポスト
モダンを読んでも・・・「ふーん」で終わったような記憶あり。
で、最近ジョン・バンヴィル読んでみて読解力ついてきたかも!と感じてきた自分
(遅い・・・)、あらためてこの本に向き合ってみることにした(佐々木蔵之介主演で
舞台化決定のお知らせもあり、「あれをどうやって舞台で?」と考えるきっかけにも
なった。 余談ですが、きたろうさん主演で『ゴドーは待たれながら』を再演して
いただけませんかね)。
私立探偵のブルーは、ホワイトの依頼でブラックの一部始終を見張り、報告書を
ホワイトに提出するという依頼を受ける。 任務を遂行するブルーだが、あまりに
動きのないブラックに対して疑問が沸き起こる。 見張っているのは自分のはずなのに、
まるで自分が見張られているような。 いつしか自分の存在すらも曖昧に思えてきて。
あ、なんか、『ゴドーを待ちながら』に通じるものがありますね。
変装したブルーがブラックと何気ない会話を交わす場面では思いのほかドキドキして
しまった(前、読んだはずなんですが・・・)。
いわば“書くことの恍惚と不安”という内容なのでしょうが、80年代を代表する
アメリカ文学を2010年の目で見れば・・・結局のところ“他者に認められての自分”と
いう域から自意識は脱却できないようにも感じて。