自粛明け後、まだ行ってない映画館があるわと気にしていたところ、CinemaKOBEで『アングスト/不安』をレイトショーでやると知る。 あ、やってくれるんだ! この先のラインナップに『ザ・バニシング―消失』もあって、それも見たい!
CinemaKOBEは座席は一つおきでした。 白カバーのついている席に座りましょう運動(基本、自由席なので)。 意外とお客さんが多めなのである、やはり注目作なのか。
殺人罪で収監されていた刑務所を仮釈放になった男(アーウィン・レダー)は、その足で次の獲物を探す。 ある家に押し入った男は、帰ってきた家族を見て「全員を殺そう」と考える・・・実在の事件をモデルに、衝動や欲望に突き動かされる男をカメラは追い続けていく。
カンパニーマークとかなしで、いきなり本編がスタートする。 アップになる男の上半身、カメラに主に映る部分は固定されているように見える。 たとえば、バンジージャンプなどをする芸人さんのヘルメットにつけられたCCDカメラの映像のように。 男にカメラを縛り付けているのか? しかしカメラはクルリクルリと回ったりする。 少し上から見下ろしたり、背中に張り付いたり。 「どうやって撮影したんだ?!」と普段そんなことは思わないのに、すごく気になった。 それが男の不安と焦燥、爆発しそうな狂気を抱えてどうしようもないさまを表しているのだろう。
でもそれに共感はしないし、助けたいとも感じない。
たとえば窓ガラスを割って家に侵入する際に、ガラスがほとんど落ちた窓枠をわざわざ開けて入り、入ってから閉めて鍵をかける。 何の意味もないのに、習慣だけが残っているのか。 血まみれの服を脱いで違う服に着替えるのに、何故かシャツだけ汚れた同じものを着る。 へとへとになってモノを動かす過程も全部映す。 明らかに行き当たりばったりなのに「完璧な計画だ」的なモノローグが流れてげんなりする。
あぁ、この男には自分の欲望をやり遂げることしか頭にない。 その姿を傍から眺めればものすごく滑稽で、キモいと気づかないのだ。 スリラー映画なんだけど、シュールなブラックコメディにしか見えない瞬間もある・・・それは未来から観てるから? (この映画は1983年オーストリア制作、日本では劇場未公開・ビデオスルーだったものが今年劇場初公開となった)。 でもあたしは「タイツの日」のアツギ炎上のことがつい頭に浮かんじゃった・・・自分の趣味嗜好に日々埋没してしまえば、一般的な基準が見えなくなってしまうこと。 マニアックなところは常に自覚せねば。
この俳優さん、精神的におかしくならなかったかなと心配になった(その後も俳優キャリアを順調に積んでいったようなので、大丈夫だったんだろうけど)。 ドキュメンタリーともちょっと違うんだけど、やけに生々しい。 無秩序型のシリアルキラーってこんな感じなのか、と妙に納得するところも。
音楽が素晴らしい。 エレクトリックサウンドが、ときに『エクソシスト』のように響くけど、このトーンに聞き覚えがあるような気がしたら、元タンジェリン・ドリームのクラウス・シュルツが音楽担当と・・・『恐怖の報酬』の音楽の人も元タンジェリン・ドリームだった!
明らかにこいつは狂人、でも狂人であることと犯した罪は別、と刑期を務めて仮釈放を認めてしまう・・・そんなシステムがいちばんの狂気ということなのかもしれない。 精神鑑定書や調書を読み上げるナレーションの口調の仰々しさに、突き放される。
なにひとつ救いはなく・・・ブラックコメディと捉えていいものやら葛藤した。 死体役の方たちはどこまで役者さんだったのか、人形とか使ってくれてますよね! いろんな意味で「どうやって撮ったんだよ!」が気にかかる。 87分という短めの上映時間に助けられた。
20:40はじまり、あまり早く行ってもロビーそんなに広くないし長時間滞在するのもよくないし、JR神戸駅に着いたのは20:00頃だったので寄り道しながらあえてゆっくり歩いて向かった(公式の案内では徒歩8分)。 帰り道はものすごく近く感じた(普通のペースで歩いたため。 信号にも引っかからなかったし、5分かかってない感じ)。