2020年09月05日

赤い闇 スターリンの冷たい大地で/Mr. Jones

 旧ソ連関係のものが続いている感じ。 そういうタイミングってあるよね〜、ということで観てみることに。 ピーター・サースガードがどんな役回りなのか気になるし、ポスター右側の女性には明らかに見おぼえがあるし。

  赤い闇P.jpg 皆、狂うほどに飢えている――

 第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の時期。 ジャーナリストとして身を立てたいイギリス人のガレス・ジョーンズ(ジェームズ・ノートン)は、少し前にはヒトラーへの単独取材もしたことがあるのに今は政治家のブレーンの一人にすぎない状態。 世界恐慌のさなか、ソ連だけが好景気である謎を知りたくてジョーンズは単身モスクワへ向かい、ピューリッツァー賞を受賞したことのあるジャーナリスト、デュランティ(ピーター・サースガード)と知り合う。 モスクワにいるジャーナリストたちの生活ぶりに疑問を覚えたジョーンズは、ソ連当局の監視をかいくぐってウクライナを目指すが・・・という話。
 冒頭、謎の人物がタイプライターを叩いている。 それがジョージ・オーウェルで、書かれているのが『動物農場』であるとわかることで「はっ!」っとさせられる。

  赤い闇2.jpg <退廃>を絵に描いたようなモスクワ生活。
 ピーター・サースガード、いかにも何か含みがある人。 デュランティの同僚(アシスタント)のエイダ(ヴァネッサ・カービー)は社会主義の理想を信じている人。 見たことあるはずである、彼女は『M:I/フォールアウト』で慈善家を名乗りつつ実は闇の顔役だったあの女性ではないか。
 主な舞台はソ連なんだけど、心情の見える登場人物はソ連人ではないという。 権力側と報道機関の“協力”という名のおぞましい関係は、国民不在。 そんな中でジョーンズの“空気の読めない行動”がその異常さを炙り出していく。

  赤い闇5.jpg 極寒のウクライナ。
 まるで色のトーンを何段か落としたかのように、ウクライナの色は薄い。 ひたすら雪の白、それ以外はくすんだ灰の色。 まだまだ暑い時期であるが、ウクライナのシーンだけは観ていて寒さがガンガン伝わってくる。 しかしその寒さと飢えは命を奪うもので・・・ただ「涼しい」と喜んではいられなくてただただつらいのだ。
 だから能天気なイギリス人として普通に振舞うジョーンズに「それはまずいだろ!」と動揺しまくる。

  赤い闇3.jpg 彼が恐ろしい場面に出くわして実情を心底理解するまで、観ている側は彼の言動にハラハラドキドキすることになる。
 情報がないということは、こんなにも見えないのか。 同時代人のジョーンズよりも未来を生きるあたしたちのほうがソ連の、スターリン政権下のヤバさを知っているから彼の振舞いに非常識さを感じてしまうけど、それが当たり前なのだ。 そのこともまた恐ろしい。
 ウクライナの状況はまるでホロコーストのようだった(実際、ホロドモール ‐ ホロドが飢饉、モールが疫病の意 ‐ と呼ばれているが、これまで物語であまり描かれたことがない。 あたしも『チャイルド44』で知ったし)。 この場面に制作側の心意気を感じた。

  赤い闇4.jpg デュランティは現代人の象徴のようだ。
 かつては理想を夢見ていたけれど、あきらめて、受け入れて、自分の利益と保身だけを望む。 心身ともに蝕まれているとわかっていても。 エイダはまだあきらめていないけど・・・ソ連の監視を「Big Brother」と呼ばせるところにも現在視点の作為を感じますよ(ジョージ・オーウェルの『1984』で監視する権力をそう呼ぶ)。
 ジョーンズが実在の人物なので描けなかった部分もあって消化不良の面もあるけれど、実在の人物であるが故にエンディングテロップの衝撃が。 ジャーナリストとしての矜持が彼の中で芽生え、その気持ちで生きていったのか。
 最近、1935年には日本でも当時のウクライナ飢饉について著作が出ており言論界では知られていたという研究結果もあり、いくら隠蔽しようとしても事実は外に出てしまうことは明白なのだが、隠蔽しようとする側の存在が事態を悪化させることもまた明白。 それは常に起こり、これからも起こるのだ。 1933年ぐらいを描きながら、これもまた今を描いた映画。

posted by かしこん at 18:54| 兵庫 ☔| Comment(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする