そういえば、なんか観たいやつあるんじゃなかったっけ、とふと思い出し、新開地のCinemaKobeのホームページを見る。 お、マッツ・ミケルセンほぼ一人芝居という噂の『残された者』が神戸初公開だ! 一週間しか上映しないからなんとか間に合わせなければ!、とがんばって新開地に向かう。 18:30スタートに余裕で間に合ったので、映画館近くの大和家ベーカリーでカレーフライ(揚げたカレーパン)を買ってGO! 神戸初公開のせいか、平日夜だけど結構お客もいたのである。
注:CinemaKobeは二番館で、飲食物持ち込みOKである(飲み物の自販機しかないのでむしろ持ち込み推奨)。 入替制でもないので好きなだけいられるが、中途外出は不可。
北極圏、小型飛行機が事故に遭ったのか不時着したパイロットのオボァガード(マッツ・ミケルセン)。 もう何日たったのかもわからない。 大きなケガがなかったらしい彼は閉ざされた氷と岩の世界で様々な作業をルーティン化し、救難信号を出している。
あるとき、救難信号に応答がある。 間もなくヘリが現れたが、突然の天候悪化によりヘリは強風にあおられ墜落してしまう・・・という話。
冒頭、男がざりざりと一心不乱に氷を削っている。 地面を露出させ、白い石が出てきたら掘り出して放る。 その繰り返しの果てに、彼がつくっていたものが俯瞰でSOSだとわかってはっとなる。 彼は遭難しているのだ、巨大なSOSを掘り出せるほどの間。 一切台詞なしで、男の動きと表情、そしてタイトルの“ARCTIC”でここが北極圏だと伝えるだけで、説明は何もない。 でもどういう状態なのか、わかる。
飛行機にあるもの、壊れた部品など何でも使って彼はどうにかこの生活に適応している。 いや、適応せざるを得ない。 ちょっと油断をすればすぐ命を落とすこの状況で、彼は決してあきらめていない。 何時間かおきに腕時計のアラームが鳴り、それをきっかけに作業を切り替える。 自分を見失いそうになったり、絶望に押しつぶされそうになりながら、アラームでどうにか切り抜ける。 この人がどんな人かの説明も全くないが、厳しく自分を律することができるタイプなんだろうな(生存のための知識もあるわけだから探検家とか? 一人で飛行機を飛ばして北極圏に来るぐらいだからなぁ)、などと想像できる。
勿論、台詞はほとんどない。 都合よく全部独り言ですますこともなく、「〇日後」みたいなテロップも出ない。 坦々としているように見えつつも否応なく立ち上る焦燥感に、観客も巻き込まれる。
この映画の存在を知ったとき、「なんでマッツ・ミケルセンをサバイバル映画につかう?」と思ったのだが・・・(演技合戦というか、台詞の応酬を観たい俳優だから)、わかるわ。 佇まいで多くを語れる役者じゃないと引っ張っていけない。 繰り返されるルーティン(墜落した飛行機を拠点に周囲を歩いて地図を描き、同じ場所で石を積み、など何もしない時間を作らない)を観客に飽きさせず、むしろ引き込む存在じゃないと。 ヒゲのびてるし顔も洗えない、そもそもいっぱい着込んでるから表現できる機会が限られるけど、たとえば靴下を脱いで足を広げようとする場面で「はっ!」とさせられたり。
そこにある肉体、という説得力。 やっぱすごいな、マッツ・ミケルセン!
生存すれすれの凍える寒さをリアルに感じる。 暑いのもつらいけど、寒さはほんとにヤバい(あたしは雪国出身なので寒さに対応する方法を知っているというだけで、寒さに強いわけではない)。 雪と氷の世界を見るのは好きだが行きたいわけではない・・・。 冬ってちょっとした切り傷もなかなか治らないよね、とか共感ポイントもあり。
男はとても用意周到で堅実な人物で、サスペンスやホラーにありがちな「なんでそんなうっかりしたことを!」とツッコミたくなるようなことは一切ない。 そんな彼でも恐るべき目に遭ってしまう理不尽の連鎖、大自然の前では人間はほんとに非力な存在だと背筋がぞっとする。 下手なホラー映画より怖いし、雪山映画より描写がちゃんとしてるのでリアリティ半端ない。 これ、実話じゃないよね・・・いったいどこでロケしたの。
エンドロールによれば撮影はアイスランドのようである・・・本物か。
最後まで緊張が緩まず、ぐっと肩に力が入りっぱなし。 ラストシーンも放り出されたように終わり、全然気が休まらない。
字幕なしでも理解できる、体感にぶち込まれる映画。 すごくつかれた・・・。
予告の間にカレーフライを食べ終わっててよかった。 見た目懐かしい感じだけど生地が軽くてカレーも辛さはほどほどでコクがありおいしかった。 映画が始まってからは彼に申し訳なくて食べられなかったよ(というか、自分がおなかいっぱいなことに罪悪感)。
予告の間にカレーフライを食べ終わっててよかった。 見た目懐かしい感じだけど生地が軽くてカレーも辛さはほどほどでコクがありおいしかった。 映画が始まってからは彼に申し訳なくて食べられなかったよ(というか、自分がおなかいっぱいなことに罪悪感)。