2019年11月03日

ボーダー 二つの世界/Gräns

 原作にあたる短編だけを先に読んだ。 「なんか予告編と印象が違うが、どうなるのか」とドキドキしながら観に行く。
 『ぼくのエリ』とは全然違った。 自分の中にある“固定観念”を強烈なレーザー光線で焼き出された・・・。 原作者のヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト自身が脚本を担当しているので、長編映画にすることで原作を違うアプローチで語り直したんだろうなあとわかるけど、その思い切りのよさがすごいよ。

  ボーダー二つの世界P.jpg わたしは心を嗅ぎ分ける

 港で税関職員として働くティーナ(エヴァ・メランデル)は、人の負の感情を匂いとして嗅ぎ分けることができる能力を持ち、それを仕事に活かして密輸の摘発などを行っている。 とても有能だと周囲に認められているが、ティーナは自分が醜いことを恥じ、自分の居場所はどこにもないと感じている。
 ある日、ヴォーレ(エーロ・ミロノフ)という名の奇妙な人物に出会う。 彼に何かを感じて検査をするも、あやしいものは何も出てこなかった。 ヴォーレはティーナに「また会おう」と言って去るのだが・・・という話。

  ボーダー二つの世界1.jpg 運命の出会い。
 小説を読んでいるときには感じなかったのだが・・・映像としてはっきり現わされてしまうと・・・なんというか、ティーナの「獣性の強さ」にちょっと怯んでしまう。 メイクアップは米ドラマ『グリム』のベッセンと通じるものがあるし、匂いをかぐ仕草もあまりにも人間離れ。 最初は醜い感じでもだんだんとかわいく見えてくる、というのがこの手の映画の定石だが、ティーナが美しく見えることはない(むしろ、話が進むにつれ獣感は強くなる)。 観客の受動的な共感を拒否し、能動的に前のめりにならないとこの物語の本質はつかめないようになっている。
 これは最初から観客を選ぶ映画。  その醜さは人間も持っているものなのに・・・「気持ち悪い、悪趣味」で止まってしまう人はそれまで、とばっさり斬り捨てられる。 「わかる人だけわかればよい」ではなくて、「わからない人はもう一つの世界を知りえない」という圧倒的な宣告。

  ボーダー二つの世界2.jpg もう一つの主役は北欧の夏の光。
 暗い夜のシーンがかなり少ない。 夏なので、時間的には夜でも空は明るいのだ。 けれど太陽の光がさんさんと降り注ぐわけではなく、どこかひんやりしてそうな静かな光。 ティーナの私服がデニムシャツ → 薄手のダウンジャケットと変わることで夏から秋に近づいているのがわかるようになっているのよ。
 「衝撃の展開!」は原作を知っていたので驚かなかったけど、「どこまで描くのか、そこまで描いてしまうのか!」という驚きはあった。 全部が描きすぎというわけではないのだけれど・・・「手前で止めてる場面があるから全体的にそういう節度」みたいな予想は当たらないというか、だからこそのR+18指定なのだけれど。
 『ぼくのエリ』に熱狂したのは美しいから、青春物語だからだったのだろうか。 それとも、種をつなぐことやルーツ探しにあたし自身があまり興味を持てないからか。 いや・・・そういうことではない、きっと美しいか美しくないかを感じる基準。 境界を隔てることを概念的には理解できていると思っていたし、理性では多分わかっている。 でも、こんなにも「自分が思う見た目の美しさ」の範囲が狭いとは・・・ひどく落ち込むじゃないか。

posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする