2019年08月01日

沈黙の少女/ゾラン・ドヴェンカー

 暑いので、涼を求めてなのか、冬が舞台のものが読みたくなる。 できれば北欧、ヨーロッパの北のほう、がんがん雪が降って気温がマイナスになるところ希望! というわけで『沈黙の少女』をセレクト。 舞台は冬のベルリン、500ページ弱という厚さも程よくその世界に入り込めそうだし。

  沈黙の少女.jpg 冬。ベルリン。闇に消えた子供たち。ただ一人生還した少女・・・このラスト、予測不能。
  凍てつく魂の闇を往く父親の彷徨。「時制」と「人称」の迷宮の果てに待ち受ける驚天動地の真相とは!(←帯より)

 帯の文句だけで十分なのですが・・・ある日、13歳のルチアは弟とともに家から誘拐された。 2週間後に雪の路上でさまよっているところをひとり発見されたルチアだが、いったい何があったのか・弟はどうしたのかも含めて一切何も語らないまま6年間が過ぎた。
 そして“わたし”はミカと名乗り、あるパブに集う4人組に接触を試みる・・・行方不明になった娘のために。
 <彼ら>・<きみ>・<わたし>の視点で進行する物語は、<きみ>を“わたし”が語る構造になっているけど、<彼ら>は・・・。 そして現在と過去と追憶が縦横無尽に混ざり合うのが、「時制と人称の迷宮の果て」ということなんでしょうが、難しさはない。 むしろ、<わたし>視点で読んでしまうことになる。 

 連れ去られたまま行方不明の少年少女たち、そして連れ去った側の大人グループの存在・・・となれば、『クリミナル・マインド』などでおなじみの人身売買関係かペドフィリア系の話かと思っちゃいますよ、というかついあたしは思ってしまいました。 娘が行方不明になった父親が、その復讐を果たすのだと。
 衝撃の展開だとは聞いていたけど、ほんとに思いもよらない方向に出た・・・あぁ、ヨーロッパという土地と歴史が持つ闇なのか、これも。
 そしてこれもまた語りと騙りの物語であった。
 読んでいたものが、実は「読まされていた」、ラストになってそれまで見てきたものがまるっきり違う景色を見せるという戦慄。 これもまたミステリという美しさ。
 深い森と古びた小屋、湖を凍てつかせる寒さ、そして降り積もる雪。 表紙の写真の空は明るすぎるが、湖面が凍った湖や森の木々を白く埋めていく吹雪など、頭の中に映像がしっかり浮かぶ。
 一面の白は惨劇に似合うのであろうか、それとも行き過ぎた寒さは人の理性をも凍らせるのであろうか。 おぞましい未解決の事件として始まったこの物語は、いつしか寓話的なものになる。 だから恐ろしいラストシーンが奇妙なほどの爽快感を生むのだが・・・「これに爽快感を抱いてしまっていいのだろうか」という疑念も生まれるのだ。
 やはり人は、復讐という感情から逃れられないのだろうか。
 理性や倫理をどれだけ持ち出せば、「やられたらやり返す」を考えなくてすむのだろう。
 人間の<業>について、じっくり考えさせられました。

ラベル:海外ミステリ
posted by かしこん at 01:58| Comment(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする