2019年02月22日

贋作/ドミニク・スミス

 17世紀のオランダ絵画にまつわる物語。
 なんかもうそれだけで「いい!」と言いたくなる。
 そしてこの本の著者もまたオーストラリア出身。 『古書の来歴』とかケイト・モートンとか、最近はオーストラリアが<そういうもの>を生み出す土壌になっているの? 編集者さんたちが「似たようなやつ」を探した結果?
 あたしの北欧ミステリブームはまだまだ続いていますが、オーストラリアブームも地道に来ている気がします。

  贋作 ドミニク・スミス.jpg 原題は<The Last Painting of Sara de Vos:『サラ・デ・フォスの最後の作品』
 よくあるタイトルではあるが、『贋作』のほうがこの物語の本質に似つかわしい。
 本物に限りなく似せて描かれた絵、自分の望んだ人生を進んでいたはずなのに贋作づくりに手を染めたために人生の方向を変えざるを得なくなった画学生、真作の持ち主ながら絵そのものよりもこれを描いた人に惹かれてしまった弁護士。 それぞれの人生もまた、一部が贋作のようになっているという。

 物語は大きく3つの時代にわけられる。
・1635年〜49年:オランダ/画家ギルドに加盟していた数少ない女性画家サラ・デ・フォスの日々。

・1957年〜58年:ニューヨーク/サラ・デ・フォスの代表作とされる『森のはずれにて』を先祖代々所有している弁護士のマーティ・デ・グルートが、ある夜寝室の壁に掛けられている『森のはずれにて』がいつも家にあるものではないと気づく。 探偵を雇って調べさせたら、17世紀オランダ絵画、それも女性絵画を専門にしている画学生で絵画修復士のエリー(エレノア・シプリー)の存在が浮かぶ。 マーティはジョセフ・アルパートという偽名を使い、エリーに近づく。

・2000年:オーストラリア/サラ・デ・フォスの専門家として学者の地位を確立したエリーに、美術館の企画でサラ・デ・フォスの未発表の新作とされるものが届く。 そこには『森のはずれにて』も。 そしてニューヨークから年老いたマーティが自宅にある『森のはずれにて』を持ってくるという。 これで『森のはずれにて』のどちらかが贋作だとわかってしまう・・・。

 冒頭は時間が行ったり来たりするし、主要人物がなかなか揃わないので「むっ」となるけれど、メインキャストが揃ってしまえば一気読み。 1950年代の「学者としての地位を女性がつかむことは難しい」こととか、上流階級に生まれて職業も生き方も疑念を抱いてこなかった男が階級外の意外に女性に興味を覚えてしまうこととか、絵画の謎をめぐるミステリ要素もありながら、ビルディングロマンスでもあり。
 でもその続きをいきなり約40年後に設定してしまうところが、大雑把なオーストラリアっぽいかも。
 とはいえ描かれている量は少ないけど、サラ・デ・フォスのパートがすごくいい! 彼女は架空の人物だそうですが、その時代にレンブラントの絵を見ていたりと他に出てくる画家や絵画は史実通りだそうな。 ネーデルランド絵画好きとしてしびれます。
 芸術に身を捧げる人生、一歩間違えば身を滅ぼす人生。 それはほんとうに表裏一体。
 エピローグは1649年冬/2000年夏の同時進行で、美しく幕を閉じる。 いろいろあっても、穏やかな読後感でしめくくられるのがうれしい。 そのへんもまた、オーストラリア的。

posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする