2018年11月03日

テルマ/THELMA

 『母の残像』を観に行けなかったのが心残りだったヨアキム・トリアー監督の新作がひっそりやってきてました(いやいや、単にあたしが気づくのが遅かっただけ)。 しかも青春ホラーだという! 今度こそ!、の想いを胸に出かけます。

  テルマP.jpg 少女の中の“願い<タブー>”が目を醒ます
   神に背く許されぬ初恋は、封印されたはずの“恐ろしい力”を呼び起こす――

 ノルウェーの湖と森の近くで少女時代を送ったテルマ(エイリ・ハーボー)は、大学に入るため首都オスロで一人暮らしを始める。 しかし田舎の両親はまめに電話をよこし、テルマの生活をすべて管理しようとしているかのようだ。 ある日、大学図書館で勉強しようとしていたテルマは、突然痙攣発作を起こして倒れる。 後日、屋内プールで「あのとき近くにいたのよ、大丈夫だった?」と同級生のアンニャ(カヤ・ウィルキンズ)に声を掛けられ、テルマの生活に新しい世界がやってくる。 大学生らしい自由で伸び伸びとした、時に羽目をはずしがちな日々にテルマは抑圧された鬱憤を晴らすように振る舞うが、あとで幼いころから両親に植え付けられた信仰により罪悪感にかられて落ち込む。 精神的に不安定な状態にあるテルマは、また痙攣発作を起こし、検査を受けるが癲癇ではないことはわかった。 テルマがアンニャに恋していることを自覚し、アンニャもまたその気持ちにこたえたとき、テルマは歓びと背徳感に引き裂かれるようにますます情緒不安定になっていく・・・という話。

  テルマ4.jpg いまどきの大学生活。
 キャンパスを歩く学生たちを定点カメラで俯瞰で撮るショットがたびたび入るのだが、それがもうハネケ並みに観る側に不安をかきたてるというか、不穏な空気に満ち満ちている。 テルマの少女時代のシークエンスもまた不可解なほど不穏で、このあたりだけで十分ホラー映画である。 おまけにテルマが図書館で倒れるシーンでは、黒い鳥が結構集まって窓ガラスに体当たりする。 『鳥』ですか! テルマの夢? 妄想?シーンではヘビも出てくるし、時代が時代なら魔女裁判にかけられるぞ!、とハラハラする。 そんな目に遭ったらテルマは絶対何が起こったのかしっかり説明できないだろうから・・・。
 “自我のめざめ”がきっかけとなり、特殊能力が目覚めてしまうという『キャリー』要素込みの、全体としては70年代の日本の少女マンガにありそうな感じ・・・という印象でした。 やっぱりあの時期の少女マンガってすごかったんだな、と勝手に実感。

  テルマ2.jpg 父親は理解があるように見えて抑圧的。
 テルマの父親は決して声を荒げず、テルマの言うことを全部聞いてから意見を言う。 そういうといい父親っぽいのだが、結局テルマを自分の考え通りに誘導し、言いくるめてしまうというモラハラ父で、なのにテルマは逆らえない。 信仰(カトリックか?)の戒律にがんじがらめになっているから。 またテルマの母は車いす生活者で、その理由に触れないように三人の間に流れる微妙な緊張感もすごい。 こんな感じで育てられたら情緒不安定に、対人恐怖症にもなるわ!

  テルマ3.jpg こういうビジュアルには胸がふるえますね!
 湖は凍っているのだけれど、その下を泳ぐ魚が見える。 氷の透明度が高いのか(気温が低いから一気に凍るため?)、氷が薄いのか。 でもその氷の上をためらわずに歩いて行っていたので、それほど薄くないのかもしくはどうなってもいいという気持ちなのか。
 氷の上と下は、目には見えるのに絶対的に隔絶された世界。 窓ガラスもまた氷と同じような意味合いを持つのだろうか。 そこを突破できるのはテルマだけである。 更には時間も、空間も。
 ・・・多分、育て方を間違えたと思う。 同じように愛情を注いでいれば、大人の都合で「それくらいわかってよ」と幼いテルマを邪険に扱わなければ、能力は目覚めることはなかったかもしれない。 宗教で抑え込む必要はなかったかもしれない。 だから両親はその責任を取らされる。 テルマが親離れをするように、彼らも子離れしなければならないのだ。

  テルマ1.jpg 恋心とはいつ自覚できるものなのか。
 自覚した時にはもう遅い、ってことですかね。 ただでさえ“初恋のとまどい”なのに、相手が同性ということで戒律に引っかかり、「彼女を忘れたいのに忘れられない」という二律背反状態。 いつか破綻する・・・の場面は最高にエキサイティングで美しく、かつ恐ろしかった。
 終盤は畳みかけるような怒涛の展開が続くのだけど・・・ラストはあたかもハッピーエンディング。 でもこれをハッピーエンドととらえてしまっていいのか?!、というざわざわ感が残る。 このすっきりしない感もまた北欧っぽいのだが。
 一応北欧ホラーとしては、名作『ぼくのエリ』には及ばないが、『獣は月夜の夢を見る』と張るくらいではないかと。
 この映画、アメリカにリメイク権が売れたそうですが・・・あの空や湖の色なしにこの物語が語れるのか、心配。

posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする