2018年05月09日

君の名前で僕を呼んで/CALL ME BY YOUR NAME

 なんとなく、「美少年と美青年の恋愛もの」というイメージと宣伝のせいでしょうか、20代女子二人連れの観客が多かったです! 一人客はあたしのようなおばちゃんか、映画ファン的おじさん。 『モーリス』の頃のイギリス美青年ブームの時もこんな感じだったのかなぁ、と感慨にふけってみた(あの頃はまだ地元にはミニシアターがなくて、映画雑誌等で現象は知っていましたが、実際に『モーリス』をレンタルビデオで観たのは大学生の時だったから)。
 でも、美少年と美青年の恋愛ものでもあるけれど、これはむしろ家族の物語だった。

  君の名前で僕を呼んでP.jpg 何ひとつ忘れない。

 1983年の夏、北イタリア。 大学教授である父(マイケル・スタールバーグ)、母とともに避暑地の別荘で過ごすエリオ(ティモシー・シャラメ)は17歳。 長い夏休みを家族と、近所の同年代の若者たち、両親の友人たちと過ごしているがどこか退屈気味。 そんな折、父に師事している大学院生のオリヴァー(アーミー・ハマー)が3週間の約束でやってきて、エリオの隣の部屋に住むことに。 オリヴァーと過ごすつかず離れずの関係はエリオには新鮮で心地よく、どこか胸苦しいものだったが・・・という話。

  君の名前で僕を呼んで3.jpg いつも窓から何かを待っているかのようなエリオ。
 そしてオリヴァーを見つけたときの表情で、「一目惚れ?」ってわかってしまう感じがキュートです。 なにしろエリオ君、美少年。 まわりからちやほやされるのが当たり前で育ってきたのか、そっけなくするオリヴァーに対してどうしていいかわからない風情が実際は傲慢なんだけど、傲慢に映らない不思議さ。 あえてオリヴァーに冷たく当たったり、いないところで彼の悪口っぽいものを言ってみたり。 「子供じゃん!」というところがかわいく映ってしまうんですかね(その後、彼がやらかすことは完全に人でなしなんだけど、若さ故の女の子たちに対する教訓にもなりうるかと)。
 そう、若さそのものが傲慢で、残酷なのだ。 本人たちはそれに気づいてはいないけれど。

  君の名前で僕を呼んで4.jpg 北イタリアの何気ない街並みが美しい。
 フィレンツェではないけれど、『わたしの本当の子どもたち』のパティたちが愛したイタリアでの暮らしとはこういうものだったのではないか、と思えること多数。 太陽が明るくて、空気がのびのびしてて、だらっとしていても大丈夫というか・・・バカンス時期だということを差し引いても、何気兼ねなく生きられる自由、みたいなものが全体から感じられるのです。
 だから、美しい風景・美しい音楽が不意にぶつ切りされるような編集に戸惑いが。 そこには時間の省略が込められているのかもしれないけれど、この時間は永遠に続かないという不吉さもまた感じさせて。

  君の名前で僕を呼んで2.jpg 大人であるが故に苦悩するオリヴァー。
 常に今を生きているエリオと違って、先が見えているオリヴァーは限られた時期のこととわかっている。 だからこそ短い時間を十分に後悔なく過ごし、美しい永遠の思い出にする切り替えができている。 80年代、そこそこいいところのおぼっちゃまであるらしいオリヴァーには結婚して子供をつくるという義務を課せられているようで、自分の人生として受け入れている感がある(もしかして、オリヴァーはバイセクシャルなのかな?、と思えないこともない)。
 だからといって、オリヴァーはエリオに「一時のこと」と遊びであるみたいな態度はとらないし、かといって将来の確かな約束もしない。 まっすぐなエリオの気持ちを受け入れてやった的な押しつけがましさもなく、エリオの気持ちよりも自分の気持ちのほうが強いとはっきり言う。 恋愛においては互いが同等であることをエリオは知り、それは年長者としての優しさと責任でもあるのだろうが、逆にエリオは思い切れないよね・・・。

  君の名前で僕を呼んで1.jpg 飛び交う虫や、地面から舞う細かな草っきれ、眉に光る汗、などディテールが細かすぎて時々ひきそうになる。 もうちょっと衛生面を考えようよ、という場面もあり。 こういうところは少女マンガにはないね。
 ただ二人の物語で終わらないのは、エリオの激しく純度の高い<初恋>を両親ともに受け入れていること。 特におとうさん(ひげが長かったのですぐにマイケル・スタールバーグと気づけなかったけど、またしても素晴らしいバイプレイヤーぶりを発揮!)が傷心のエリオにかける言葉は感動的。 こんな両親がいるなんて、エリオはなんて幸せなんだ!
 でも、エリオがその意味をもっと深くかみしめるのは多分ずっと後のこと。 失恋の痛手から彼は立ち直ることができるのか、もしくは一生引きずることになるのか、どちらにもとれるラストシーンは観客の恋愛観を決めることになるかもしれない。
 実は映画前半の方ではエリオはあまり長生きできない病気で、だから両親はエリオを好きにさせているのかな?、とちょっと思っていたのだが・・・そんな設定はなさそうだった。 あたしが親というものにステレオタイプな偏見を持っているのだと思い知らされた。 だから余計、これは家族の物語だと感じたのだろう。
 その後のエリオの人生を知りたいような、知りたくないような・・・。

posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする