2018年05月08日

犬の力/ドン・ウィンズロウ

 今頃かよ!、とおっしゃる方もいるでしょうが、『犬の力』をやっと読みまして。
 いや、読みたくなかったわけではないのですよ。 ただ、手を付けないでいるうちに年末のランキング一位になったり、「ドン・ウィンズロウ最高傑作!」ってどんどん期待値が上がってしまって、読むのがもったいなくなってきてしまって・・・そうこうするうちに本を片付けて本棚の奥に入っちゃったりとかして。 麻薬カルテルの話だから重いだろうしなぁ、とか思っているうちになんか読んだ気になったりして。 そして東江さんの訃報に接し、なんかこれを読んだら終わっちゃう、という気持ちになってしまった。
 続編『カルテル』も出たというのに、である。
 あたしの悪い癖である。 大事なものほど、思い入れが強いものほど、手をつけたくない。 受け入れるまで時間がかかる。
 でもやっと、読むタイミングが来たようです。

  犬の力1.jpg犬の力2.jpg 奥付から考えると・・・9年近く寝かしたことになります。

 1975年から2004年にかけての麻薬戦争の構造を、膨大な登場人物たちを描くことでタペストリーにしたもの。
 DEAの特別捜査官アート・ケラー、のちのカルテルの主となるバレーラ一統、メキシコでいちばんの人望を持つ司教のフアン・パラーダなどなど、いい意味でもそうでない意味でもキャラの立った登場人物ばかり。 人物の内面描写は必要最小限、むしろ削ぎ落すだけ削ぎ落しているのに「この人、誰だっけ」ってならないすごさ。 彼らの言動だけで、彼らがどういう人なのか読み取れる。
 個人を深く描かないのは、内容がそりゃーもうえげつないから。 人物によっては感情移入させすぎないように、もしくは嫌悪感を持たれすぎないようにか、そのバランスを保ちながら<麻薬戦争の怒涛の三十年>をフルスロットルで駆け抜ける。
 たくさん、人が死ぬ。 こちらの倫理基準を軽く飛び越えるやりかたで。 けれど目をそらすことはできない。 最後のページまで、手を止めることも。
 この世に絶対的な正義などないとわかっている。 それでも、残酷すぎる光景を前にして無力感に満たされる。
 アート・ケラーのように。
 けれどすべてをあきらめて引退などできず、自分のキャリア・人生をかけてでも戦い抜く覚悟をする。 そこにあるのは個人的な真実だが、それがあるだけで読者は救われる。
 物語ではあるものの、現実のラテンアメリカをめぐる麻薬犯罪の歴史をあらかたなぞっているらしい。 アメリカ側の政治家などは実名が出てきたが、メインキャラにはモデルがいるのかもしれない。 あぁ、これを先に読んでいたら『ボーダーライン』や『悪の法則』ももっとわかったかもしれないのに!(でもそのおかげか、映像と文章の違いか、残虐描写に特にダメージは受けず)
 それにしても、ドン・ウィンズロウと東江さんの相性のよさをしみじみ感じた。 読み始めたら100ページあっという間だった(上巻574ページ・下巻473ページ)。 先に進めば進むほど、読むスピードはアップして(まぁそれはよくあることなんだけど)、いつも以上の加速度つき。 精神的にも疲労するけど、頭の中のどこかは麻痺したままで。
 でも遅れて読んだ利点もあって。 「もしかして、この三人の関係性が転じて、『野蛮なやつら』につながったのでは?」と勝手に感じてみたり。 アートのキャラをマイルドにしたのが『失踪』の主人公では?、とか。 そう思うことで、現実から逃避してる。
 現実の麻薬戦争は今も泥沼だ。 だからせめて物語の中ぐらいは、少しはいいことがあってほしい。
 ・・・はぁ。 『カルテル』に入るには、少し時間が必要だ。

ラベル:海外ミステリ
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする