2018年04月22日

ワンダーストラック/WONDERSTRUCK

 トッド・ヘインズ監督の最新作が(しかも『キャロル』の次に)児童書原作と知り、ちょっと驚いた。 でもまぁ、幅広いジャンルを扱えるのはいいことである。 しかも原作者ブライアン・セルズニック本人が脚本を書いているというし・・・予告でちょっとSFっぽい雰囲気を感じてしまったので、観に行きたくなりました。

  ワンダーストラックP.jpg いつだって、人生は驚きと幸せのワンダーランド。

 1977年、ミネソタ。 最愛の母親(ミシェル・ウィリアムズ)を突然の事故で失ったベン(オークス・フェグリー)は、おばの家に引き取られるが、いとこと同室の上、狼に襲われる悪夢に悩まされていた。 そんなある日、母の遺品から実父につながる手掛かりを発見するのだが、落雷によって一時的に聴覚に異常をきたす。 そのことで余計に母が黙して語らなかった父親のことが知りたくて、単身ニューヨークへ向かう。
 1927年、ニュージャージー。 聴覚障害を持つローズ(ミリセント・シモンズ)は両親の離婚後、厳格な父親に引き取られていたが娘の耳が聞こえないことに気を配れない父の横暴に辟易した彼女は、憧れの映画女優がトーキーへの移行で舞台に出ると知ってニューヨークへ一人旅立つ。 50年の時を隔てて、二人の行動は時にリンクし、シンクロしながらそれぞれの時間を進んでいって・・・という話。

  ワンダーストラック4.jpg 自宅に引きこもっていたローズはあまりかわいくなくて、「この時代の髪型が彼女の顔に合ってないな」と思っていたところ、家出に際して髪をバッサリ。 そしたらかわいくなっちゃった。 自分ではさみで切った割りには見事な仕上がりなのはともかくとして。
 1927年パートはモノクロ・サイレント仕様。 音のない世界に生きるローズの生活そのものを表していてとてもわかりやすい。
 まだ物騒な時代ではなかったのかもしれないが、少女が一人でニューヨークへ、というのはやはりドキドキするし、子供の一人歩きが認められていない時代なのか、大人たちが全員敵のように見える描写はローズの孤独を一層引き立てる。 家の中でも孤独だったのに、外に出てもやはり理解者はいないという疎外感は、子供が抱えるには大きすぎるだろ(ニューヨーク自然史博物館で働くローズの兄が登場してから、やっと安心できます)。

  ワンダーストラック7.jpg それに対してベンは、明らかに治安の悪いニューヨーク。
 70年代のヒッピー文化の流行が見事に再現されておりました。
 あぁ、全財産をひとつの財布にまとめるな! 往来でうっかり財布を開くな!、とベンには注意したいことがたくさん。 ミネソタから都会へ出ていくという自覚、あるんでしょうね!、とローズとは違う意味でハラハラ。 ベンの場合は全く耳が聞こえないわけではなく(といっても他人との日常会話はできないが)、落雷事故までは普通に聞こえていたから自分で喋れるというのが利点ですが、喋れるから耳が聞こえないことを他人にわかってもらえない(もしくは忘れられがち)という面もあり・・・いろいろ切ない。
 ベンの母親はいわゆるシングルマザーなのだけれど、そこまで父親のことを頑なに息子にも話さないというのはどうなんだろう・・・そこは時代の問題なのだろうか。 母親に秘密にされている、というのも子供には結構な負担なんだけど。

  ワンダーストラック1.jpg 大都会の厳しい洗礼を受けたおかげで友達ができるけど。
 トッド・ヘインズ監督はセクシャル・マイノリティ的な立場で映画をつくる人かと思っていたけれど、実はその本質は“孤独”や“居場所のないつらさ”である、ということが言いたい人だったのかな、と認識を新たに。 その感覚は時代も性別も年齢も関係ないのですね。
 なんだかんだいってもベンくんはかわいいのです。 ちょっと自分勝手なところもあるけれど、それは母を失った悲しみから立ち直れていないからで。 ニューヨーク自然史博物館は50年たっても同じ場所にあり、同じものを展示しているとわかる場面はよかった。 <変わらないこと>が大事なときもあるってことです。

  ワンダーストラック2.jpg ジュリアン・ムーアは二つの年代を繋ぐ重要な役割を果たす二役で。
 『ワンダーストラック』とはニューヨーク自然史博物館で売っていた展示室をパノラマで表現した子供向け解説書のようなもの。 ローズが訪れたときに売店に置いてあって、ベンの母親の引き出しに大切にしまわれていた。 これもまた、二人を繋ぐ大切なもの。
 予告で感じたSF的要素は実は全くなかったんだけれども、なくても十分納得できる展開でした。 偶然が多すぎるかもしれないけど、だからそれは必然だったり運命だったりするんだってば!
 それにしても、デヴィッド・ボウイの“スペース・オディティ(space oddity)”がこんなに切なく聴こえたことがあっただろうか!
 こういう映画こそ、小学校高学年ぐらいの子が観た方がいいのに!
 あたしの子供の頃はこういうタイプの映画が普通に公開されていたような気がするのに・・・今のようにミニシアターで公開されたら、観に来るのは大人じゃん(自分もその一人ですが)。 ハリポタやファンタビ、アベンジャーズみたいな大作ばかりではなく、こういう小品も選べてこその映画体験じゃないかなぁ。 で、そういう体験をした世代がのちのちまで映画館に足を運ぶことになるわけで、観客の平均年齢がどんどん上がるのもむべなるかな、と納得。 あたしも『ネバーエンディング・ストーリー』や『ゴーストバスターズ』に友達同士で観に行った世代ですから(小学生でも字幕読むのが普通だった・・・)。 子供が自分たちで作品を選べる環境がもっとあってもいいのになぁ、と感じてしまうのはただのノスタルジーでしょうか。 実際はちゃんとそれなりにうまくやれてるのかもしれないけど、身近に子供がいないからわからないな・・・。

posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする