2018年04月11日

ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男/DARKEST HOUR

 アカデミー賞効果か、なかなかの込み合いでした。 やはり日本人が受賞すると違うのかな〜。
 ジョー・ライト監督の映画って題材は違えど手触りは似たような感じになるよなぁ(特に光の使い方とか)、そこが正統派ってこと?、と思ってましたが、当時の写真を組み合わせた迫力あるフォントのオープニングはいつになく緊張感が漂っていて、つい背筋をただした。

  ウィンストン・チャーチルP.jpg 英国一型破りな男が、ダンケルクの戦いを制し、歴史を変えた。
   「嫌われ者」から「伝説のリーダー」となったチャーチルの、真実の物語。

 1940年5月9日、首相チェンバレン(ロナルド・ピックアップ)が対ドイツ政策の失敗などを理由に辞職に追い込まれる。 次なる首相選びが始まり、与野党の協力体制が取れる人間はウィンストン・チャーチル(ゲイリー・オールドマン)しかいない、となるが国王ジョージ6世(ベン・メンデルソーン)は難色を示す。 しかし他に手はなく、チャーチルを首相に任命する。 そこから、ダンケルク撤退を決める演説の日までの19日間を描いた話。
 意外にも、チャーチルが登場してすぐに「あ、ゲイリー・オールドマンだ!」とわかる(勿論、そうだと知っているせいもあるだろうが)。 目そのものは変わっていないから。 もしかして「すごいメイク技術」とは、チャーチルのそっくりさんを作ることではなく、チャーチルでありながらも演じている人が誰であるかもわからせることを両立させているから? そっくりさんならCGやフルマスクでいいわけだし。 また、ゲイリー・オールドマン結構背が高い人なのに、違和感なく小男として映っているのも後から考えるとすごかった。 声や喋り方も普段とは違っていたし、記録に残っているご本人のものを完コピしたんだろうか。

  ウィンストン・チャーチル4.jpg 国王とチャーチル、二人きりの初対面はぎこちない。
 『英国王のスピーチ』と関連付けるとまた面白く、時折きちんと喋ろうとがんばるジョージ6世の姿がとてもキュートで(兄の廃位を後押ししたチャーチルに対する個人的怒りを隠そうとしないところもまた微笑ましい)。 でも短い期間の中でも国王が次第にチャーチルに心を開いていく過程は(そんなに多くは描かれてはいないけど)、王の国に対する責任と愛情そのもので、「あぁ、いい王様だったんだな」と思わせられ、あたしはこのジョージ6世がたいへん好きである。 コリン・ファースのイメージだけじゃなくなりました。

  ウィンストン・チャーチル5.jpg チャーチル夫人、面白すぎる。
 で、やっぱりジョー・ライト監督。 戦時下を描きつつもほぼ室内劇なので戦場シーンは皆無。 家族との関係(特に夫人)を描くことでホームドラマ感アップ。 チャーチル夫人を演じるクリスティン・スコット・トーマスの臆しない自己主張の激しさは一周回ったキュートさで、そりゃチャーチルは太刀打ちできないよな、と納得させるに十分。 こういうところでウィンストン・チャーチルの人間味を出す作戦なんだろうけど・・・うまくはまりました。 『チャーチル回顧録』とか読みたくなっちゃうもんね(ただそこにこのようなチャーミングな要素があるとは限らないんだけど)。
 公人の妻となることを覚悟して結婚した、という彼女の態度は今の時代には「古い」かもしれないけれど、自分の選んだ相手が将来大物になるであろうと見抜いていたわけだし、そういう彼女あっての“ウィンストン・チャーチル”なんだろうなぁ、という「夫唱婦随」という言葉が連想されましたよ(だからって女性を低く見ているとかではありませんよ)。
 映画的には5月10日にチャーチル付きタイピストとして新しくやってきたエリザベス・レイトン(リリー・ジェームズ)からの視点で進むみ、彼女によってチャーチルの奇人的振る舞いがコメディタッチで最初は描かれるわけですが・・・彼女もいつしかチャーチルを信頼し、できるだけ仕事面でサポートしようとするので、彼を支える二人の女性の物語とも言えて。 でも新人タイピストより娘さんたちをもっと描いてほしかったかな。

  ウィンストン・チャーチル3.jpg 映画的にそのほうがわかりやすい&感情移入しやすいというのはわかりますが、いくらなんでも新人タイピストに頼りすぎでは?、と思わなくもないところもあり。 『人生はシネマティック!』でもあったけど、戦争に男性をとられ、実務に女性の手を借りなければ成り立たなくなっていったことで女性の社会進出が進む・・・という非常に皮肉な構造をこの映画でも示している。
 それにしても! 1940年の段階ではナチスドイツはほんとに無敵の状態だったのだなぁ・・・ということにおののく。 あと何年かで勢いが変わるってのはのちの世を生きる身には当たり前にわかっていることですが、当時の人にはそんなことはわからない。 だまされるかもしれない覚悟と引き換えに融和政策を進めるか、これ以上犠牲を払うことを前提に徹底抗戦を貫くのか、そりゃ国会は真っ二つにわかれますよね・・・そして徹底抗戦側は少数。
 そんなチャーチルのやり口(?)は完全なる情報統制と世論誘導。 これって旧日本帝国陸軍がやってたことと同じじゃないですか・・・とちょっともやもや。 同じようなことをしても、勝った側なら正当化されるのか・・・まぁ、そのことにチャーチル本人も良心の呵責を感じている、という描写もあるのでよしとすべきか。

  ウィンストン・チャーチル2.jpg チャーチル、初めて地下鉄に乗る。
 イギリスは階級社会、チャーチルも上流出身なのか下々の者たちのことをどこまで意識しているのかわからない。 概念として理解はしているだろうけど、個人的な知り合いはいないんだろうな。 「市民の意見を聞け」と国王から諭される首相ってどういうことだよ、と思いつつ、またジョージ6世の株が上がります。
 突然首相が乗り込んできたことにびっくりの地下鉄利用者たち、礼儀をわきまえつつも自分たちの考えを次々述べていく場面はこの映画のハイライト! 一度名乗っただけの人の名前を全員覚えているのは、さすが長年政治家をやっていただけのことはある才能。 <政界の嫌われ者>でありながら<国民的人気を誇る男>でもあることを2時間で描き切るすごさです。

  ウィンストン・チャーチル1.jpg 普段は滑舌が悪い(タイピスト泣かせ)なのに演説上手だと言われるのは、訴えたいことの熱量の違い、身振り手振りありだから?
 英語のことわざに、The darkest hour is just before the dawn:最も暗いのは夜明け前、というのがあるけれど、原題もここから来たのでしょう。 まさにこの時代はイギリスにおいて最も暗い時期。 けれど先が見えないからといって夜明けが来ることを信じないのはおろかである、という力強い理念を描いた物語、であるといえるかと。
 でもどん底にいるときに這い上がる希望を持ち続けるには勇気がいる。 イギリス市民の言葉は力強いけれどほんとに全貌を知った上でのコメントなのかわからないし、戦時下においての常識が現在の外国人から見て非常識なのは当然。 だけど『ダンケルク』と題材が被ったのは、現在もまた<最も暗い時期>に近づいているからでは?
 この映画は、「えっ、そこで終わり!」という唐突な幕切れ(でも必然的な終わり方ではある)。
 この先、イギリスは<最も暗い時期>をしばらく過ごさなくてはならない。 けれどそれ故にV.E.DAYのよろこびをかみしめることができたわけで、独立国としての誇りを持ち続けることができたわけで。 イギリス人にとっては近代史においてのターニングポイントなんだろうなぁ。

posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする