2018年03月07日

ロープ 戦場の生命線/A PERFECT DAY

 えっ、すごい豪華キャストじゃん! 何故それがこんなひっそりと!
 しかしこれを<豪華キャスト>と見るかどうかは年齢とか過去に観た映画に左右されそう・・・でも、映画館で観られるのは神戸に住んでいるからだよな、と大都市の恩恵にあずかるのでした(勿論、神戸市を大都市とするかどうかは人それぞれでしょうが、地方都市出身のあたしの基準では大都市なのです)。

  ロープP.jpg それは、紛争地帯のありふれた一日。
   国際援助活動家たちはそこで何を見たのか?

 1995年、バルカン半島にある村にて。 国際社会的には<ボスニア紛争停戦直後>、しかし現地の人々にとってはそうではない状況下、井戸に死体が投げ込まれたので水が使えなくなる。 早く死体を片付けないと水が腐ってしまい、浄化が間に合わなくなり被害が拡大することを懸念した「国境なき水と衛生管理団」のマンブルゥ(ベニチオ・デル・トロ)は車にロープを繋いで死体を引き上げようとするが、途中でロープが切れてしまう。 マンブルゥは同僚のビー(ティム・ロビンス)やソフィー(メラニー・ティエリー)、通訳のダミール(フェジャ・ストゥカン)らと協力し、別のロープを手に入れようとするのだが、道のどこに地雷が埋められているかわからないし、外国人だから(?)とロープは売ってもらえないし、たまたま知り合った現地の少年二コラの「ロープのある場所を知っている」という言葉を頼りに危険地帯を車で走る・・・という話。

  ロープ3.jpg この井戸の中に死体が。
 死んでいるのは誰か、誰が死体を井戸に投げ込んだのか、といった謎解きは一切ない。 そもそも「謎を解く」というシチュエーション自体がそこそこ平和な世の中であることが前提なのだと思い知らされる。 紛争地帯の混乱と理不尽さがそこにはたっぷり。 ベテランのマンブルゥに対して、新人のソフィーの青くさい理想論や現状に衝撃を受けてあげる悲鳴が、観客目線の役割を。
 でもこの映画はまったく重たく描いていなくて(といって軽いわけでもないのだが)、むしろ強いパンク精神が前面に。 特にビーというキャラクターが常に減らず口をたたくユーモア要員で、はじめはちょっといっちゃっている人なのかなと思わせつつ、後半になれば「それくらいじゃないとこの状況に長く身を置いていられない、必要だから身につけたものなのだ」と感じさせるのがうまくて切ない。

  ロープ4.jpg いざというときは、彼ほど頼りになる人はいない。
 『ショーシャンクの空に』のアンディを思うと、「ティム・ロビンス、老けたなぁ」となってしまいますが・・・その分、あたしも年をとっているわけでして(汗)。 でもベニチオ・デル・トロとティム・ロビンスのコンビはすごくよかった。 心に秘めた理想を隠し持ちつつ、どうしようもない現実の前には清濁併せ持つ覚悟で、割り切るところは割り切って今における最善をめざすという姿勢が、異国・異文化に立ち入る者としての矜持である、というような。
 逆に現地の人たちの視点はあまり描かれない。 あくまで彼らから見た物語としているせいか、中途半端に描くのは失礼だからなのか。 まぁ、ボスニア紛争自体まで描いちゃったら映画は終わらないよね。

  ロープ1.jpg 何故かマンブルゥの元カノ・カティヤ(オルガ・キュリレンコ)が現状の活動を評価する立会人として合流。 非日常にいる「国境なき〜」な方々もまた恋愛問題を抱えてしまうというおかしさ。
 ニコラくんがどうしてそんなに英語がペラペラなのか、といった不思議さはありますが、そこまで厳密さを求めるのは野暮であろう。 光が当たるべきなのは民族紛争そのものの不条理・理不尽さと、それを目の当たりにした他者が何をすべきか考える、ということ。 スーパーヒーローが存在しない世界で、どうすれば少しでもそこにある苦しみや辛さや危険を取り除くことができるのか。 このような活動は時に「偽善」という言葉と隣り合わせに語られてしまうけれども、彼らにはそんな意識まったくなくて(むしろ命の危険にさらされているのだから)、そう言う人たちこそ自分は安全地帯にいるのよね。

  ロープ2.jpg ロープを探すだけ、という地味といえば地味な仕事ですが・・・その過程で彼らの人生や人間性が見えてくる。
 「停戦協定は成立したのよ」と外から来たばかりのカティアがいくら言おうとも、そんなことは知らないとセルビア人勢力軍がつっぱねればそれでおしまい。 下手に騒げばとらわれているボシュニャク人たちが殺されてしまうかも。 全体的にコメディテイストなだけに、時折挟まれる現実の緊張感がただごとではない。 この物語設定が20年以上前といっても、場所や人が違うだけで同じようなことは今も起こっているのだろうと感じられるし。
 “A PERFECT DAY”という原題自体が、希望でもあり皮肉でもあるという矛盾の産物。 これが「ありふれた一日」なのなら、普通の日常に戻るのってすごく大変だよ・・・。
  ロープ5.jpg 景色はこんなに美しいのに、人の心は理解しあえない。
 なんとも言えないエンディングには、「なるほど・・・これでは神(特に一神教)にすがる人の気持ちもわからなくはない」と思ってしまったあたし。 あたし個人は絶対唯一神はない派ですが、それもまた生まれ育った環境のせいなのね・・・。
 そんな風に、誰もが共感できたらいいのに。 そうできればきっと、争わずにすむのに。
 でも現実は、それだけではすまないから。
 地味ながらも、見ごたえのある映画でした。 それもまた実力派という豪華キャストだからこそ、かも。
 そういえば、ティム・ロビンスは同じくボスニア紛争に絡んだ映画『あなたになら言える秘密のこと』にも出てたなぁ・・・と、懐かしく思い出したりして(映画自体は懐かしく思い出されるどころじゃないショッキングなものですけど)。

posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする