2018年03月03日

シェイプ・オブ・ウォーター/THE SHAPE OF WATER

 アカデミー賞授賞式前に、関連映画は観ておきたい。 ということで『シェイプ・オブ・ウォーター』。
 とはいえギレルモ・デル・トロ監督作品なので、賞ノミネートに関係なく観に行っているとは思いますが。 あたしが彼の名前を覚えたのは『デビルズ・バックボーン』(スペインを描いたゴーストストーリー、佳作! のちの『パンズ・ラビリンス』と対になる作品かと)だったけれど、のちに『ミミック』の脚本・監督もそうだと知ってとても納得する。
 そこまで描くか!、という強烈さはあれど、この人の感じがあたしは好きだ。 まさか日本の怪獣映画が大好きな人だったとは、全然気づかなかったけど・・・そういうところが出てしまうから好きなんでしょうねぇ。
 そんなギレルモ・デル・トロ監督、マニア人気は高いけど、まさかアカデミー賞にノミネートされる日が来るとは・・・人生、何が起きるかわかりませんね。

  シェイプ・オブ・ウォーターP2.jpg 切なくもいとおしい愛の物語。

 60年代、アメリカ。 幼い頃に声帯に傷を負ったせいで声を出せないイライザ(サリー・ホーキンス)は、古い映画館の上のアパートに住み、政府の極秘研究所で清掃員として働いている。 話し相手(手話が通じる相手)は、隣人である絵描きのジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)と同僚のゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)だけの、孤独を抱えた人生だった。 ある日、研究所に極秘に運び込まれたのは、アマゾンの奥地で神とあがめられていたという<不思議な生き物>。 イライザは<不思議な生き物>の姿を見、心惹かれて折を見ては彼に会いに行くように。
 しかし軍上層部の意向で送り込まれたストリックランド(マイケル・シャノン)は<不思議な生き物>に対して容赦なく痛めつけ、果ては生体解剖を提案。 研究所のホフステトラー博士(マイケル・スタールバーグ)は未知の生物への敬意からそれに反対するが・・・という話。
 米ソ冷戦下という時代設定が、「軍ならなんでもする」からこのファンタジーを現実に引き寄せる。

  シェイプ・オブ・ウォーター2.jpg 秘密研究所の造形が、ちょっと『ウルトラQ』っぽくみえちゃう。
 イライザが卵をゆでるシーンのくだりには一瞬ぎょっとなるが、彼女が純真無垢な女の子ではなく、生身の人間であることを最初に示すためかも。 それに、人間は礼儀正しい生き物なんかではないとギレルモ・デル・トロ監督はいつもエログロ描写に手を抜かないからな、ヒロインだからって優しくしてもらえるわけではないことは『パンズ・ラビリンス』で証明済み。
 悪役として登場するストリックランドも、軍人として命令系統の中でいかに自分の能力を誇示するかというマッチョ精神に支配されているだけで、個人の内面はとても空虚。 イライザの味方となるいい人側のジャイルズとゼルダも、それぞれゲイと黒人という社会的には“弱者”の立場。 それ故に異形のものとして登場する<彼>が、次第に美しく見えてくるのは必然。

  シェイプ・オブ・ウォーター4.jpg 立場の違う二人の対決。
 マイケル・スタールバーグっていつも助手とかで誰かに振り回されるみたいな役のイメージだなぁ(『スティーブ・ジョブズ』とか『メッセージ』とか、『女神の見えざる手』もそうかも)、と思っていたけど、本作では弱い立場ながら研究者として・学究の徒として意思をはっきりさせる役で、「おおっ!」と思わされた。 きっとこの人も、素晴らしいバイプレイヤーとして生きているのだろう。 助演男優賞にノミネートされる日は近いんじゃないだろうか。 いい役者がごろごろ出てくる映画は観ていてわくわくする。 物語にどんどん没頭させてくれるから。
 また悪役になってしまったマイケル・シャノンだけど、ストリックランドという対立軸がいるからイライザ側の動きが輝くわけで。 誰が欠けても成立しない、無駄なカットがひとつもないところが素晴らしい。

  シェイプ・オブ・ウォーター3.jpg やっぱりリチャード・ジェンキンスってわからないなぁ。
 特殊メイクなのか、顔の輪郭が変わっているのでジャイルズ役がリチャード・ジェンキンスってなかなかわからなかった。 でも声はそうだから(特に、冒頭とラストのナレーションは彼が担当)。 ジョン・ハートなきあと、ナレーションで映画の格を上げられる人が他にいるかな、と思ってたけど、ここにいましたよ! ←個人的見解です。
 ジャイルズはすっごくいい人なんだけど、60年代でこの年齢でゲイとして生きてきたからこその共感力というか、彼がこれほどの優しさだけでなく気配りまで身につけたのは、それだけ彼自身が迫害されたりひどい目に遭ってきたからなんだろうか・・・と考えるとそれもまたつらいことで。 受け入れることとあきらめることは、微妙に似ているから。
 ジャイルズから見ればイライザはまだ若く、その恋をかなえてあげたいと思うんだろうなぁ〜。 また、<彼>に対する視点は芸術家のものであるところも興味深い。
 とはいえ、主役はやはりイライザなわけで。 ひっそり目立たぬよう生きる、がポリシーのようだった彼女が、<彼>に会ってコミュニケーションをとり、恋心を自覚していくうちに服装は明るくなり(特に赤いものの着用率が高くなる)、態度に自信があらわれ、ストリックランドに対しても(手話だけど)挑戦状をたたきつけるばりの言動をするように。

  シェイプ・オブ・ウォーター1.jpg だって、運命の相手のためですもの。
 地味で内気な女性がだんだん目を輝かせ、表情が豊かになっていく。 もともと恋にはそういう効果はありますが、イライザは元から言葉を持たない。 そんな彼女が表情と身振り手振りで感情を放出するすごさ。 だからイライザがだんだん美人に見えてくるんですよ。 一目惚れや運命の出会いを信じるあたしはうっかり泣いちゃったよ・・・。
 で、大事なモチーフである水。 でもこの映画では青ではなく緑色寄りで描かれる。 そして緑色のモチーフが他にもたくさん(<彼>を閉じ込める水槽、キーライムパイ、ストリックランドが買うキャデラック、など)。 それに対して緑の対比色である赤は、イライザの持ち物にだけ。 赤の量は、彼女のしあわせの量なのね。
 ラストシーンは解釈の分かれるところだろうけれど・・・「あぁ、そういうことだったのね!」ということであたしは納得。
 運命の出会いの結果、得られる居場所が出生の秘密に関係したとしても、それもいいじゃない?

  シェイプ・オブ・ウォーターP1.jpg 第一弾ポスター&チラシ。
 当時はイメージイラストだと思ってましたが、今見るとちゃんと女性の顔がイライザになってる!
 ギレルモ・デル・トロ監督の映画(オタク)愛が詰まった一本。 それが一般的に評価されるというならば、こんなにうれしいことはない(だってこれも、怪獣映画だし!)。 でも、たとえアカデミー賞をとったとしても、つくる映画の種類は変わらないんだろうなぁ、きっと。

posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする