2018年02月20日

アバウト・レイ 16歳の決断/3 GENERATIONS

 この映画の予告を最初に見たときは公開をとても楽しみにしていたのに、何故か公開中止に。 本国でも中止になったので、というのがその理由だったけど、観客としてはそんな理由で納得できるか! それから2・3年経ったでしょうか、めでたく帰ってきてくれました。 なんでもハリウッドセクハラ騒動の渦中の人ハーヴェイ・ワインスタインがプロデューサーとして口を出して編集をやり直させたために遅れた、という話も・・・。 映画は撮影と公開の間に時差が生じやすいものですが、なにもそこまで・・・お蔵入りしなかっただけまし、と思えばいいのかしら?

  アバウト・レイP.jpg 本当は男の子のレイ、恋多きシングルマザー、レズビアンのおばあちゃん。人生の途中を走行中。
 レイ(エル・ファニング)は16歳。 女として生まれたけれど、自分は男だと4歳の時に気づいたトランスジェンダー。 性同一性障害の治療のため、男性ホルモンを投与され始め、その後のことも専門医と相談済み。 けれどレイはまだ16歳なので、すべての治療には保護者の同意書が必要。 母親のマギー(ナオミ・ワッツ)はラモーナと名付けた娘がレイという息子になることに慣れようとしつつも、自分の決断のせいで将来のレイが後悔したらどうしようと悩み、サインができないでいる。 なお、現在ではレズビアンであると公言してパートナー・フラニー(リンダ・エモンド)と楽しく暮らしている祖母ドリー(スーザン・サランドン)はマギーの苦悩が理解できないでいるが、あたたかく見つめている・・・という話。
 邦題は『アバウト・レイ 16歳の決断』だけど、原題は“3 GENERATIONS”。 邦題からだとレイの決意がメインっぽいですが、実際はレイとその母、祖母の三世代のそれぞれを描いたものだった。 というかレイは最初から迷ってなくて(すでに決断済み)、うだうだ・ぐだぐだしているマギーがむしろ主役ですか、というくらい、レイもドリーも、観客もまたマギーに振り回されることになる。

  アバウト・レイ5.jpg 片幅広い! 女装男子がキュートで美しいように、女の子が扮する男の子はその粗雑さすらかわいく見えてしまう。 このときエル・ファニングも15歳ぐらいだったようで、男の子にも女の子にもどっちにも見える → だんだん男の子っぽくなる過程がとてもリアルでよかった。 こればっかりは演技力だけでなく、その年齢だから出せる雰囲気ってあるよなぁ、としみじみ。
 しかしドリーもまた大胆というか・・・レイの性的志向が女性と知ると(例にとっては男性としてストレート、ということなのですが)、「レズビアンでいいんじゃないの?」とか言っちゃう。 LGBTとひとくくりで語られがちですが、その中でも相互理解が進んでいないことがよくわかる(世代間格差があるからかもしれませんが)。

  アバウト・レイ2.jpg ドリー、とても自由です。
 年代的に、レズビアンであることをカミングアウトするどころか自分がそうであることにはっきり気づかないまま世間の例にならって結婚しちゃった過去があるドリー(だから娘のマギーがいるのだが)、今はその軛から解き放たれたこともあり、言動にお気楽さがにじむ。 でもここに来るまでに一体どれだけ苦悩があったのか・・・についてははっきりと語られない。 乗り越えてきた強さから、それをわかってください的な。 この世代の方々の紆余曲折を描いちゃったらそれだけで一本の映画になるだろうしね。 またスーザン・サランドンだから、そこにいるだけで説明になっている部分がなきにしもあらず・・・。

  アバウト・レイ3.jpg 問題はひたすらマギー。
 結婚歴のないシングルマザーなれど、レイの父親の名前は記録にある。 同意書には両親の名前が必要だが、彼に会いに行くのをいやがっている・・・自分の署名をするのにもためらっている。 「レイがなによりも大切」と言いながら、マギーは何がしたいのかさっぱりわからない。 まぁそれが、自分の過去を清算していないこと・それに向き合うのをできるだけ避けたい(レイにも知られたくない)からであることが次第にわかってくるのですが・・・その年齢で、それ?、と言いたくなるくらい、ほんとにマギーのダメダメっぷりは群を抜いている。 ドリーはそれに寄り添うけれど、世話焼きにならないところがいい(個人的な好奇心なら満たしたいけど)。
 しかしレイの態度を見ていたら、早く本格的な治療を初めて、転校して新天地で男としての生活を始めたくてうずうずしているのがよくわかるのに、マギーは何故それに気づかないのか。 気づいていても気づかないふりなのか、気づきたくないのか。 もはや母としてというよりも、人としてどうなんだ、マギー!、と言いたくなる。
 となれば、レイが“父親”に一人で会いに行くのは当然の流れで。
 その父役が「トム!」ことテイト・ドノヴァン氏だったので、あたしはかなり盛り上がりました! 久し振りに現れた<娘>が<息子>になることを希望している、ということをすんなりとは受け入れられないですが、クレイグ(テイト・ドノヴァン)がいい人なのはとてもよくわかり、レイがクレイグの今の家族・自分と半分血の繋がった弟妹から「お兄ちゃんだ」と言われてうれしそうな姿、とてもかわいい(だったら何故マギーと別れたのかが不思議ですが・・・その答えはちゃんとありました。 そりゃマギーはどうしていいかわからないし、それを知ったレイはいろいろぶちぎれる気持ちわかる)。

  アバウト・レイ4.jpg でもやっぱり「自分は男」の意志は揺るがない。
 もしかして、「レイの決断」とは、ダメダメな母親や、自由すぎる祖母や、クレイグが抱える“大人の事情”も全部ひっくるめて受け入れて、これが自分の家族なんだと覚悟する、ということなのかもしれない。 登場人物の中で、なんだかんだ言っていちばん大人なのはレイのような気がするし。 同世代から「男女!」みたいにいじめられたことも、レイは一人で乗り越えようとしてるし、今の目で見ればそういうこと言うやつのほうがバカという認識は広まっているから(でもなくなっているわけではないのが悲しいところだ)。
 レイにとっていちばんの理解者はちょっとしか出てこない病院の先生だったのかもしれない。
 それでもレイは、新しい家族のカタチを受け入れる。 ダメダメな母を許す。
 それがトランスジェンダーとして苦しんだレイが身につけた優しさなのかと思うと、なんだか切ないよ・・・。

posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする