2018年02月09日

怒りをこめてふりかえれ/栗本薫

 結局、読んじゃいました。
 『猫目石』事件から8年が経過、事件後の痛手からまだ完全に立ち直れていない薫くんの、あるきっかけから起きる怒涛の日々のこと。
 変則的に『魔都』が『猫目石』後の落ち込みがひどい時期の薫くんの現実逃避ともいえるので、番外編ですかね。 『怒りをこめてふりかえれ』は『猫目石』からの直接の続編と言えましょう(そういえばそのあと、<薫くんシリーズ>ってないかも・・・つまり完結編、か)。 少し前、<薫くんシリーズ>の未発表原稿が見つかったというニュースもあったけど、内容は薫くんが大学生の頃の話ということなので(未完だというし)、この時間軸からははずせるでしょう。

  怒りをこめてふりかえれ.jpg “LOOK BACK IN ANGER”はロックの名曲だが・・・薫くんの心情ともリンクするタイトルだからか。
 前半はあの事件後、マスコミ報道の被害者となってしまった薫くんのどうしようもない憤りと非力さ故の悲しみに満ちている。 イエロージャーナリズムへの批判というか、「まるで人間の心を持たぬもののよう」であるレポーターや記者たちへの怒りと哀しみ。 でも自分も同じ業界で働いているという葛藤、名も知らぬ人々の代弁者としてかざされる<知る権利>と、自分も加害者の一端であるという自覚のない普通の人々の存在。 これが書かれたのは20年以上前ですが(この頃はネットどころか登場人物は携帯電話も持ってないよ)、描かれている問題は今でも全然解決されていないし、むしろひどくなっている。
 これって著者が一時期マスコミにスキャンダルを追いかけられた経験からきてるのかなぁ(あたしはその報道を直接知らないのですが、近況報告と化していた『グイン・サーガ』のあとがきでそのようなことがあったことを読んだ記憶が)。 それは20年前よりももっと前のことだが・・・こうやって書くことができるまでに時間を要したということかも。
 殺人事件も起きますが、それはなんとなくつけたしっぽい。
 あくまでこの物語の主題は薫くんの回復と再生。 石森信と伊集院大介の力を借りて。
 永遠の若者の代名詞であった薫くんが、大人としての自覚と責任に目覚めた(36歳にして!)。 だから、もう薫くんは自分をさらす必要がなくなったのかもしれない。
 そして最初にこれを読んだとき、あたしは薫くんよりも年下だったのでそんなに気にならなかったのですが、今では薫くんが年下になってしまいました。 それ故に、「ダメじゃん、薫くん!」と言いたいこと多々・・・石森君と大介さんが甘やかすからじゃないのか!、と八つ当たりしてしまいそうに。 はい、そういう堂々と自覚なしに甘えられる存在がいることにうらやましさを感じています。
 大介さんは『天狼星』事件後らしく、ちょっとお老けに(おつかれに?)なってますが、より優しく。
 その優しさが伊集院大介らしさなのですが、それ故にこの人は自分も深い痛手を負ってしまうのに(薫くんとは違う意味で。 そして大介さんは自分でその傷をそのままにして受け止めて修復する)。 そういう彼が、あたしは好きだった。

 ついでに、と言ってはなんだが『伊集院大介の冒険』『伊集院大介の私生活』も読んでしまう。
  伊集院大介の冒険.jpg伊集院大介の私生活ノベルズ版.jpg ノベルズ版、懐かしい。
 『私生活』ってどんなんだっけ?、と記憶がおぼろげでしたが、表紙見て思い出した。 内容もよく覚えていて、むしろこれ収録の作品が『冒険』だと思っていたぐらい。 あー、この話好きだった!、とか、非常に懐かしい。
 すべて『天狼星』以前ではありますが、そういう事件が起こっても十分対処できるような<名探偵>でありたい、という大介さんの心意気・覚悟が書かれていることに今更ながら気づく。 ・・・結局、あれも必然だったのね。
 大介さんがドラマ・映画化されにくい名探偵だということもしみじみ分かった。 二時間ドラマとかになっていたら、また変わっていたのかもな・・・(遠い目)。

ラベル:国内ミステリ
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする