2018年01月21日

猫が足りない/沢村凜

 沢村凜氏は寡作なのだろうか、なんかタイミングが合わない。 読み始めたのは結構前なんだけど(あぁ、日本ファンタジーノベル大賞出身者はアベレージが高いよなぁ)、なんかコンスタントに読めてない。 まぁ、ハードカバーで読まないあたしが悪いんですが。
 そんなわけで、遅ればせながら新しい文庫を発見。

  猫が足りない文庫.jpg キーワードは<猫>。
 大学卒業後、就職浪人となってしまった<ぼく>は、両親から「就職活動千年のために中途半端なアルバイトは禁止、かといって時間を持て余して引きこもりになってもいけないから」と近所のスポーツクラブに入会させられ、汗を流す羽目に。 しかしそのスポーツクラブでこれまでとはまったく違う人間関係ができて、新鮮な気持ちになりながらも中途半端な自分にまた自己嫌悪、という日々を過ごすことになる。
 ある日、<ぼく>は常連の奥様方から近所で起こった猫虐待事件について調べてほしいと頼まれる。 なにしろ若い男子だから。 とはいえ暇を持て余しているのは確かなので、調査をしてみると・・・という話。
 登場人物の雰囲気はコージーっぽくもあるし、普通の人々ベースの話は<日常の謎>の系譜にも通じるものがあるのだが・・・意外に事件が大きい(人が死ぬとか)ので、文体はライトながらも内容は深くて重い。 事件を探ることになるのは<ぼく>だけど、彼は結局助手的立場であり、事件を解き明かすのはスポーツクラブで知り合った四元さんという主婦の方である。
 ただ、この四元さんがなかなかの食わせ者。 転勤族の夫について全国を転々とするため大好きな猫を飼えない鬱憤が高まり、「私の人生には猫が足りない」と豪語するほど、猫のためならどんなことでもするという常識からちょっとずれた人で、でも当然本人には自覚がない。 それに気づいた<ぼく>は「この人をほうっておいたら何が起こるかわからない」とはらはらしながらお目付け役を務める、という流れ。
 「巻き込まれ型ミステリー」と紹介文にありますが、確かに<ぼく>は最初は巻き込まれているけれど、だんだん自分の意志で巻き込まれていっているので、そのへんもワトソン的特徴だなぁと思う。
 ただ新しいというか新鮮なのは、大変困った人である四元さんが抱えている孤独(それは世の中の転勤族の妻すべてが抱えている問題でもあるのだが)を<ぼく>が思いやり、恋愛ではない人間愛として描かれている点。 この人間愛という視点は作者の作品全体に共通するもので、例えば同じく連作短編集である『ディセント・ワーク・ガーディアン』『脇役スタンド・バイ・ミー』もそうだった。 どんなにほろ苦く、ときに残酷な出来事を描こうとも、人間というものを信じている。
 だから読後感が悪くないんだろうな、と思う。 四元さんの厄介なところも、<ぼく>視点のおかげで緩和されてしまうというか。

 ちなみにあたしがいちばん初めに読んだのは、『リフレイン』である。
 萩尾望都『スター・レッド』の世界観のような、様々な異星人が銀河連邦に加盟し、<その星の人らしさ>を揶揄すると差別になる、というような価値観が生まれてきた中で、起こったある事故とそれにまつわる顛末の物語。 そこにも人間愛は根底にあったと思う。
 今ならライトノベルにカテゴライズされるかもしれないけど、更に「罪とは、罰とは」に迫る重厚さを備えていた。
 第一部と第二部でごろっと内容が変わるけど、長編を書く人だと思っていた。
 それが、今はなんとなく<連作短編>が多い気がする。 もしかして専業じゃないのなら、そのほうが書きやすいのかなぁ。

ラベル:国内ミステリ
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする