2017年11月18日

ゲット・アウト/GET OUT

 『IT』『ジグソウ:ソウ・レガシー』とホラー大作にはさまれてひっそり公開になってしまっているけれど、実はなかなかの掘り出し物。 やはりホラー・スリラー系映画は低予算でもアイディアと見せ方次第でいくらでもインパクトのあるものが作れる、という証明のような作品で、こういうのが定期的に現れるからこそ、こういうジャンルは盛り上がるのだ!

  ゲットアウトP.jpg 何かがおかしい。

 クリス(ダニエル・カルーヤ)はニューヨークで写真家として活動中。 いい関係が続いている恋人のローズ(アリソン・ウィリアムズ)からこの週末に郊外にある彼女の実家に招かれることになり、少し神経質に(彼女は白人で、彼は黒人。 彼女は両親に「恋人は黒人だ」と伝えていないことを聞いているから余計に)。 空港検査員をしているクリスの親友(同じく黒人)も、「白人女はやばいぜ」と警告を発するが、自分はそんな差別には負けない、と彼女の実家に行くことに。
 が、意外にも驚くほど歓待されるクリス。 その家の使用人は全員黒人で、開かれるパーティーに出席するのはほぼ白人という空気の中、やはりクリスは「何か変だ」と感じて落ち着かない・・・という話。
 冒頭のシーンから、不穏さは全開。 ところどころに不穏さや不愉快さをいいタイミングで挿入し、退屈させない(逆に、そういう雰囲気が苦手な人にとっては常に気が抜けず、緊張を強いられる連続かも)。

  ゲットアウト2.jpg 彼女の実家に向かう道すがらでも、ちゃんとひと騒ぎあり。

 人種差別問題を扱っているようだが・・・実は階級社会の話でもあって。 それはお金や権力のあるなしと関係あり。
 むしろ差別が起こるきっかけになる<他者との違い>のはじまりが嫉妬だったり羨望だったり・・・ということだとあっさり言ってのける力技。 やはり「ドナルド・トランプが大統領になる」までの道程は確実に存在していて、本国にいる人たちにはそれがはっきり見えていたのだろう(それに危機感を覚えた人たちはいかにしてその影響をマイルドな形で排したらいいのか考え抜いたに違いない)、と思わせるのに十分な内容だった。 アメリカ、大変だ・・・(いや、他の国の心配をしている余裕もないのではあるが)。

  ゲットアウト4.jpg <身内>が誰ひとりとしていない、社会的な孤独がそこにはある。

 字幕ではいまいち表現しきれていない感がある<黒人同士のよくある会話の言い回し>が実は伏線になっていたりするので、そういう言葉がわかっていればもっと楽しめたのではないだろうか・・・という気がする(日本語で例えるならば・・・共通語かつ丁寧語で話す人たちの中に、大阪弁の人が一人だけいる、という感じか。 で、大阪人同士であればバリバリの大阪弁で、日常会話ですらノリツッコミを普通にやってる状態なのだろう)。
 ある意味、アメリカ国内向けの映画がこうやって世界中で公開されるのは、人種差別というか今は<ヘイト>という言葉のほうがふさわしいと感じるが(同じ人種であっても考えが違えば排他されることもあるから)、それが一種の世界共通語になってしまっているからだろうか。 でも差別をジョークにできるということは、かなり緩和されている証拠ともいえるわけで(ほんとに洒落にならない場合は完全にタブーとして会話にのぼらないであろう)。
 とはいえ前半の主人公と親友との会話には、ちょっとイラッとさせられるものがあったのは、やはり「よくわからないノリでがんがん行くから」であろう。 文化的な違いでしかないのに、日本語に翻訳されてしまっているから「つまんないギャグを聞かされている」気持ちになるから(が、彼が本国の黒人社会においても“すべっている”可能性はなきにしもあらずなのでが・・・そこはあたしの英語力では確認できませんでした)。 しかし彼の存在が救いになるのだから、イラっとしてごめん、でした(後半になってくるとそのノリにこっちが慣れてくるからか?)。

  ゲットアウト5.jpg 黒人の使用人のみなさんが、いろんな意味でとにかく怖い。
 いかにも張り付けたような笑み(しかし涙を流している)とか、真夜中の庭を全力疾走する庭師とか・・・違和感どころじゃないですけど。 などなど、数多く散りばめられた<なにかおかしい>部分がすべて回収される終盤は、ミステリとしてもお見事です。
 結局、差別とは偏見や固定概念の具現化で、社会というシステムの中で生きていく中でどうしても自分の中に蓄積されてしまうもの。 頭では「それはおかしい、理不尽だ」とわかっていても、本能的に身構えてしまう部分はあたしの中にもあり・・・特に“関西に住む、北東北人”であるあたしは異文化との接触が日常で、自分の常識が通用しない場面に時折出くわす。 言葉が通じるからそれを面白がることもできるけれど、本当にびっくりしたときにそれを共有できる人がいない、というのは少し寂しいときがある(ま、内容が内容なので話せる相手は限られるが)。
 差別にも歴史があり、個人ではどうにもならないものもある。 けれど、時間をかければ差別の度合いを薄くすることができることもまた、歴史が証明している。
 そんな中、<人種差別をギミックに使う>この映画は、チャレンジングなように見えて実はとてもしたたかで、きっと計算通り。

  ゲットアウト1.jpg クリス役の人の演技力も素晴らしい。
 彼が無意識下に閉じ込められるイメージのシーンはもまた美しい(内容的にはひどいんだけど)。
 種明かしのくだりはあえてグロテスクに安っぽくしてB級っぽくしているのかな、と感じるんだけど 、語られているテーマは深くて重い。
 タイトルもちゃんとダブルミーニングだしね!

  ゲットアウト6.jpg 助演男優賞は彼だ!
 ハリウッド大作や事実に即した重厚な人間ドラマよりも、ホラーやスリラー、サスペンス、ミステリー、SFといったジャンル映画のほうが本質により迫れることがある。 これはそのとってもいい例で、だからジャンル映画を(小説もだが)追いかけるのはやめられないのだ〜。
 『IT』とはまったく違う種類の怖い話です。

posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする