2017年10月29日

ドリーム/HIDDEN FIGURES

 これはすごく観たかった。 それこそアカデミー賞にノミネートされた時から。 タラジ・P・ヘンソン好きだし(『パーソン・オブ・インタレスト』を観ていた人ならこの気持ちわかるはず!)、おまけにオクタヴィア・スペンサーも出るとなれば素晴らしい。
 これでヴィオラ・デイヴィスもいたら最強なんだけど、彼女は『フェンス』に出ていたので仕方がない。 それに、キャラ的に彼女に会う役は残念ながらなかったし。 むしろ、いつもにぎやかし担当みたいなオクタヴィア・スペンサーがどっしり構えた賢い女性を演じていることで(ある意味、ヴィオラ・デイヴィスが担当の役柄)、類型にならない、とても説得力のあるいい映画になったと思う。
 だから邦題のどうしようもないダサさ(特に問題になったサブタイトルをつけるセンスのなさ)については非常に残念だった。 なのであたしは原題通り『ヒドゥン・フィギュアズ』と呼んでいるよ。 むしろ邦題、『わたしたちの計画』でよかったんじゃない? 夢と呼ぶより、彼女らは賢く辛抱強く、実現させる機会をいつもうかがっていたのだから。

  ヒドゥンフィギュアP.jpg すべての働く人々に贈る、勇気と感動の実話

 東西冷戦下である1961年、アメリカとソ連はまるで代理戦争のように宇宙開発競争を繰り広げていた。
 ヴァージニア州ハンプトンにあるNASAラングレー研究所では、国内から選りすぐられた頭脳が集められ、宇宙開発計画のための役割を担っている。 が、そこにおいても人種差別は存在し、<西計算グループ>という呼び名の棟から黒人女性たち出ることはなかった。 たとえ彼女たちが計算手としてどれほど優秀であっても。
 リーダー格であるドロシー(オクタヴィア・スペンサー)は、管理職不在の現状を告げ、人がいないなら自分がやってもいいと申し出るが、上司にあたるミッチェル(キルスティン・ダンスト)に「黒人グループには管理職を置かない方針なの」とあっさりいなされる。 技術部主任の強い要請で転属が決まったメアリー(ジャネール・モネイ)はエンジニアを志しているが、技術部の中には自分を歓迎していない人たちがいることを肌で感じ、黒人であることの足枷を思う。 だが、幼少時から天才的な数学の能力を発揮してきたキャサリン(タラジ・P・ヘンソン)が、トラブルの穴埋めとして急遽宇宙特別研究本部に派遣されることに。 これはあらゆる意味で大きなチャンス! 西棟の全員はキャサリンを応援するが、そこはオールホワイトの職場であり、すべてがキャサリンの不利にしかならない場所だった・・・という話。

  ヒドゥンフィギュア1.jpg それでも自分にできることを必死にやる。
 当時、「コンピューター」とは計算手のことを指す呼び名であった(同時期にIBMの大型汎用機が導入されるのだが、それのことは「IBM」と呼んでいる)。 つまりキャサリンはNASAでも指折りの「コンピューター」。 なのに、本部に行ってから、フリーで置いてあるポットからコーヒーを注いだだけでその場の空気が凍る(マグカップは彼女持参のものであった)。 本部勤務キャサリン以外唯一の女性秘書にお手洗いの場所を聞けば、「さぁ、このあたりに有色人種用のはないわ」とすげなく返され、遠く離れた西棟のいつものお手洗いまで走って往復することに。 しかも翌日には“COLORED”とラベルされた小さなコーヒーポットが置かれるのだ!、あたしはもう腹が立って仕方なくて。 これって怒っていいんじゃないの?! せめて一言、上司にいったらいいじゃないか!
 でも、それが言えるならこうなってはいないわけで(そういう時代だったんですよね・・・)。 彼女たちは「好きなことを仕事にできる」という、自分が黒人の中でも恵まれた環境にあることをわかっていて、ただ文句を言うだけでは物事は解決しない・実績を積み重ねることでしか成果を証明できないから、ただひたすらに頑張る。 いつか誰かが認めてくれることを願いながら。
 彼女たちの姿を見ていたら、ただ声高に主張や権利を叫ぶデモやその結果としての暴動とか、バカみたいだよね、と思えてくる。
 暴力に訴えるようになったらおしまい。 もっと穏やかに、スマートに、でも妥協はせずに解決を。 男性ではなく女性がリーダーになったら争いは減る、という統計に頷きたくなる描写がいっぱい(でもそれは彼女たちが賢いだけでなく社交性をも兼ね備えているからです)。
 この三人については、みなさん子持ち、というのも大きいかも。 子育てって忍耐だもんね。 黒人社会における女性の役割も果たしつつ、NASAで仕事もして家庭も守る。 ただNASAで働いているだけの白人男性職員よりも多くの種類のことを彼女たちはこなしているわけで、そりゃマルチタスク人間になりますよね。

  ヒドゥンフィギュア5.jpg あら、マハーシャラ・アリさん、こんなところにも。
 キャサリンは夫と死別、子供はいるが現在は独身なので再婚話はいろいろあったみたいなんだけど・・・なにしろ賢すぎるのがネックになってたみたいで。 この恋がどうなるのかも注目です。
 頑張っているのはキャサリンだけじゃなく、他の二人も。 些か口が過ぎる性格のメアリーは本格に黒人女性初のエンジニア職を目指すことにするも、いくつもの制度の壁が立ちはだかるけれどひとつずつ打ち壊していくし、ドロシーはIBMが本格的に起動し始めたら計算手の仕事がなくなる、西計算グループは解散させられると感じてプログラミングをみんなに学ぶよう言う(当時はフォートランでしたよ! そこでも時代を感じましたわ)。 ドロシーは自分の仕事だけでなくグループ全体のことも常に考えていて(勿論それは同時にNASAのことでもあるんだけど)、リーダーというか上に立つものはこうじゃないとね!、という貫録を示してくれました。

  ヒドゥンフィギュア3.jpg 宇宙飛行士たちと挨拶。 黒人メンバーは奥にひっこめておけ、な人たちの思惑とは関係なく、自ら進んで握手に行く宇宙飛行士くんがかっこいい。 こういうフラットな考え方の持ち主だからこそ宇宙飛行士になれるんだろうな、と考えさせられた一幕でした。
 そう、アメリカは宇宙開発でソ連におくれを取ったわけですが、それって人種差別してたからじゃない? 能力の高い者を「有色人種だから」と花形部署に入れなかったからじゃないの? なんかそんな風にも思えてきちゃいましたよ。
 ちなみに、メアリー役の女優さん、『ムーンライト』の売人(マハーシャラ・アリ)の恋人役の人だそうで・・・全然違うから気づかなかった!

  ヒドゥンフィギュア4.jpg ケビン・コスナー、一時期はどうなるかと思ったけど・・・渋い立ち位置のおいしい役をやるようになってまた安定しましたね。
 宇宙特別研究本部の本部長ハリソン(ケビン・コスナー)は学者バカ&仕事人間。 キャサリンの能力に誰よりも早く気づくも、彼女が置かれた立場には全然気づかない・・・「いつ気づくんだよ!」というのもまた見どころです。 やっぱりケビン・コスナー、期待は裏切らない!、と思わせてくれますよ(それまでちょっと長いけど・・・ほんとに仕事人間はこれだから)。
 ハリソンとキャサリンのはぐくまれていく信頼関係(勿論、そこにあるのは数式)にも心温まります。 そういう人がいてくれたら、つらい仕事も頑張れる。

  ヒドゥンフィギュア6.jpg キルスティン・ダンスト、今回怖かった・・・。
 60年代なら女性の社会進出もようやく一般化しているはず。 とはいえ男性に対する割合としたら明らかに少ないわけで・・・女同士、連携できるはずなのに「自分は白人だから」というよくわからない自負(?)が西計算グループに対して冷たく当たらせるのか? 本部の秘書女性もそうだけれど、別に嫌がらせはしないけど助けないという姿勢が一貫していて、当時のアメリカ社会におけるなんとも言えない空気感を表現してました。 だって、NASAで働いているってことはみなそれなりのインテリのはずで、インテリは自分が差別しているなんて思いたくないもののはず。 なのに現状がこれってことは・・・一般社会はもっとひどかっただろうし(それこそ『ヘルプ』の世界か)、インテリたちは「自分は差別なんかしていない、だって一緒に仕事しているんだから(むしろ私たちの領域に入ってくるのを許してあげてるのよ)」とか思っていたんだろうなぁ・・・こわい。
 とはいえ映画はパワフルで常にユーモアを忘れない三人の女性側から描いているので、人種差別を題材としながら暗くもならず重すぎもせず、絶妙なバランスで成立。 実話ベースとはいえ若干時間軸を動かしている感じはしましたが、それは問題じゃないから。 宇宙のフロンティアを描くんだったらソ連側のことももう少しピックアップするべきだけど、この映画のテーマは「女性とお仕事」だから。
 結局、マーキュリー計画自体、ソ連を敵国とした対抗意識で国民は盛り上がるわけで、彼女たちはそんな<戦い>のために一生懸命にならざるを得ないというのがすごく切ないのだけれど、でもそれも<自分たちの戦い>のためでもあるので。 争いごとは好まなくても、それでも必要なものは勝ち取らなければいけないのだと教わる。
 うーん、あたしはここまで頑張ったことがあるだろうか。 この先、頑張ることがあるだろうか。 彼女たちのしなやかな強さを前に、自分の過去や態度などを反省しました。
 これも、観てよかった映画。 なんで日本公開がこんなにずれ込んだのかなぁ(公開しない可能性もあったらしいし・・・マーケティングばっかりやってると本質を見誤りますよ。 実際、期待以上にヒットしているみたいだし)。 「感動の実話!」よりも「お仕事映画」として宣伝したほうがずっと吸引力があったろうに。 がんばれ、日本の映画宣伝!

ラベル:外国映画 映画館
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする