2017年10月24日

エルネスト もう一人のゲバラ/ERNESTO

 阪本監督の現代史を題材にした作品は、目のつけどころもよくて結構いいとこいくんだけど、結果的に微妙な感じになってしまうものが多いよな・・・というのがあたしの印象(特に『KT』ね!、あと『亡国のイージス』、『人類資金』とか)。 まぁ歴史として確定していない時期のことだし、扱うのが難しいのはわかるんですけどね、フィクションに寄せてもつらいというのはどうなの・・・。
 でも今回はオダギリジョーに期待!、ということで(前に『FOUJITA』を観損ねているのでその罪滅ぼしも含む)。

  エルネストP.jpg 世界は、変えられる。チェ・ゲバラが名前を託した日系人、その数奇な運命とは――

 チェ・ゲバラについては『モーターサイクル・ダイアリーズ』でアルゼンチン時代の若き日を、<『チェ』二部作>でキューバ革命に至る道からボリビア戦線でのその死までを観たので、なんとなくは知っているつもりだった。 でも、1959年にキューバ使節団として来日していたこと、広島平和祈念公園を訪れていたことなどまったく知らなかった(あぁ、だからチェ・ゲバラについて語れる日本人がいるのか・・・と納得した)。 三好徹氏の『チェ・ゲバラ伝』をだいぶ前にキンドルのセールのときに買ってあるのだが、全然手をつけていないのですよ。 それを読んでいたらもっとわかったかもしれないけれど、でも驚きはなかったかもなぁ。 予備知識のあるなしの度合いというのも、実は結構重要なのだ。 インパクトが深く入るか否かにおいて。 だから彼のもとに日系ボリビア人の存在があったなんてこともまったく知らず。 『チェ 39歳 別れの手紙』にはそんな描写なかったし、確か。
 碑文「過ちは繰り返しませぬから」の「主語がない」論争の存在は知ってはいたけど、きっかけは彼だったのか〜。
 しかしちょっとこのエピソードがこの映画にどう絡むのかがよくわからなかった。 日本キューバ合作だから、日本に関係ある部分を入れておこうとしているように思えて(何故ならば、オダギリジョーはまだまだ登場せず、どういう展開になるのかが見えなかったから)。

  エルネスト5.jpg 彼が日本で撮影した写真は、今もキューバに残っているらしい。 そして原爆による被害の状況など、キューバの小学生は詳細に教えられるとか。 彼は原爆という武器のひどさに怒り、落とされて怒らない日本人を理解できないと言っていた。 ちなみにこれは、日本・キューバ合作映画。

 物語は一転、ボリビアからの留学生がハバナ大学医学部に入学するためキューバを訪れる場面に。
 留学生たちにはそれぞれ事情が。 裕福な家の子供から、奨学金をもらって来る者まで。 その中にフレディ(オダギリジョー)がいた。 当時ボリビアは独裁政権下。 医学を学びながらも、キューバ革命を成し遂げた人々、特にチェ・ゲバラ(ホワン・ミゲル・バレロ・アコスタ)の人柄と信念に心酔するように。

  エルネスト2.jpg フレディ・前村・ウルタードが彼のフルネーム。 それを彼が名乗るまで、彼が日系移民だと気づかず(ていうか日系移民の役じゃなかったのかなぁ、と思っていたけど、フレディってずっと呼ばれているしボリビア人だし、全編スペイン語だし・・・)。
 そんな中、キューバ危機が訪れて、国に帰るか戦士になるかも二者択一を迫られる医学生たち(大学の建物が軍の指揮下に置かれ、作戦本部になったりするので講義ができない。 共産主義だから優先順位によってすべてが変わる)。 でも、<キューバ危機>というものを観客は知っているから「あー、そういうことなのね」となるが、当時のキューバにいたらまったく情報が入ってこないこと、アメリカとソ連が勝手にやりあってただけというのがよくわかる。 当事者ほど情報が得られないのもよね。
 まぁ、危機は回避されたけど・・・このときの経験がフレディに何かを与えたことは確かなようで。

  エルネスト1.jpg ささやかすぎる、控えめな交流。
 殺伐としたシーンよりも、フレディの日常を描いた場面が多かったのが印象的。 オダギリジョーは日焼けして、体重落として、奥ゆかしくて誠実な、でも誰よりも熱い情熱を隠し持った20代の青年になってましたよ。 順撮りしていたかどうかわからないけど、最初はたどたどしさが残ると感じたスペイン語も、途中から急にうまくなったし。 映画は淡々と進むので、フレディの少ない言葉や態度から彼の心境の変化を感じ取る、という流れ。
 医者になりたい、というのはフレディの子供の頃からの希望。 ボリビアの貧しい病気の子供たちを救いたいという思いから。 だからこそ、ボリビアそのものを変えたいという気持ちと表裏一体で、その件に関してはすぐに激高してしまう。 だから医師でもあり革命家であるチェ・ゲバラの存在はフレディの憧れ。 でもそんなゲバラは医師である自分と革命家である自分をどう整理つけているのか、よくわからない。
 「医者として中途半端な技能しか持たないなら戦場では役に立たない」と諭され、勉学に邁進することになったフレディ。
 もしかしたらこの時期が、彼にとっていちばん充実していた時間だったのかもしれない。
 ところが南米の政治的うねりは待ってはくれず、ボリビアで軍事クーデターが発生してしまう。
 国として落ち着いてきたキューバに自分の居場所はもうないと感じ始めていたらしいチェ・ゲバラは、ボリビア自由解放ゲリラ戦線を結成し、ボリビアへ。 そしてフレディもまたそれに参加することに。 ゲバラから<戦士名:エルネスト・メディコ>を与えられる。

  エルネスト3.jpg そして悪夢のボリビア戦線。
 こういう場面は「うわー、撮影するの大変だったろうなー」とつい感じてしまう。 物語に入り込めていない証拠である。

 時代が違うのは承知の上だが、「人の命を救うはずの医師が、武器を持って戦う」ことの違和感はどうしても納得できない・・・。 『ハクソー・リッジ』の衛生兵の考え方も極端といえば極端なのだが、主義に忠実な分だけまだ理解できる。 でも普通の人間ってそんなもんなのかもね、矛盾するたくさんの要素が自分の中でせめぎあっている。 やはりそこにも優先順位があって、「ボリビアのために」が最も高かったということなのだろう。
 「お国のために、主義主張のために命を懸ける」。
 ゲリラを名乗ることは現代の観点からすればテロリストだが、そちら側から描けば高邁な理想を持った勇気ある者たち。
 ほんとに歴史は敗者に冷たい。
 そもそも、ボリビアに日系移民がいること自体知らなかった(もともと前村家はブラジルに移住したらしいが、そこでうまくいかなくなってボリビアに移ったと言っていた)。 そういう事実を知ることができたのはいいのですが・・・。
 映画自体がやっぱりなんかちょっと物足りないというか、詰めが甘いというか、誠実さは感じるんだけどなにかもうちょっとほしい!
 やはり予想通りの感じになってしまったか・・・。

posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする