2017年10月14日

ふざけたこと言わないでください

 ネットニュースで、こんなのを見つけまして。

 10月13日に開催された<全国図書館大会 東京大会>で、文芸春秋社の松井社長が、「『文庫』の売上げが大幅に減少しはじめたのは2014年のこと」と前置きし、「確たるデータはありませんが、近年、文庫を積極的に貸し出す図書館が増えています。それが文庫市場低迷の原因などと言うつもりは毛頭ありませんが、まったく無関係ではないだろう、少なからぬ影響があるのではないかと、私は考えています」と主張。
 「文庫くらいは自分で買おう。そんな空気が醸成されていくことが何より重要」としつつ、公共図書館に文庫の貸し出しをやめるよう要望を出すと共に、読者に向けても「借りずに買ってください」と呼びかけた。

 ・・・はい???
 図書館に文庫が置いてあるのなんてずっと昔からですけど?
 ていうか、そういうこと言うなら絶版書をなくしてよ!
 以前より<品切れ・重版未定>になる周期が明らかに短くなっているんですけど。 本屋で売ってないから図書館で借りるしかないんですよ。
 文庫を「恒久的に保存していく蔵書」という位置づけから「薄利多売」に切り替えたのは出版社のほうじゃないの? 一冊で済む本をわざわざ上下巻に分けて値段を吊り上げたりしてるくせに、図書館のせいにするのか!
 なんかすごく、腹が立っちゃいました。

 ちょっと冷静になって、考えてみます。
 「出版社だって商売だ」という気持ちはわかります。 でも、出版社はただの商売じゃない、文化事業です。 それを理解していない人が社長ってのは・・・残念です。
 本がタダではないこともわかっています。 でも時間も体力もあってたくさん本を読むことができた若い頃、あたしにはお金がありませんでした。 だから図書館と古本屋さんのお世話になって、その後の人生に影響を与えられた本に数えきれないほど出会ってきました。 それはとても感謝していますし、だからこそ同じような境遇の人たちのために安価でたくさんの本が読める環境は残しておいてほしいのです。
 あたしは成長して自分でお金を稼げるようになりました。 だからあの頃の恩返しの意味もあって、できる限り買える本は買おうと思っていますし、実践しているつもりです。 でも本との出会いってタイミングもあって、「あ、こんなの出てるんだ!」と気づいて探した時には絶版・・・ということもあるわけで(それは単行本も文庫もあり。 単行本だったら文庫になるかもという望みを抱くこともできるけど、最初から文庫の場合はほぼ復刊は望み薄)、そうなったら図書館を頼るしかないわけですよ。 古本屋さんも<新古書店>みたいなところが増えたから探したいものはなかなか見つからないしね。
 それに、いろいろ不景気な昨今、「文庫本くらい自分で買え」っていうのはちょっと乱暴な論調かと。
 読みたい、ほしいものであれば黙ってても買いますよ。
 なのに、キングの『IT』の映画(11月3日公開)に合わせて出したのは電子書籍の合本版って・・・(それ、文芸春秋社ですよ)。 さすがに文句が出たんか文庫が増刷されましたけど、そもそも『IT』を絶版にしていることがあり得ないよ(あたしは最初に文庫が出たとき全4巻買いましたけど・・・実家に置いて来た。 また読みたいけど・・・映画見てからにしようかな。 それとも電子書籍版にしようかな。 でも解説とかなかったりするから微妙なんですよね)。

 でも、読みたい気持ちはあっても「どれを選んでいいのかわからない」っていう人も大人でもたくさんいます。
 ノーベル文学賞の影響でカズオ・イシグロが今売れまくっているのは、そういう人の需要にはまったから。 「文学だからお堅いのでは・・・」と悩んでいる人には、「『ダウントン・アビー』見てた? だったら『日の名残り』はいいと思うよ。 同じように貴族社会が没落していく中で、執事であることがアイデンティティである、って人の話だよ」みたいなこというと、「そうなの! 読んでみたい!」って返事が来るし、「タイトルからだと『わたしを離さないで』はラブストーリー色が強めっぽいけど、完全にSFだから」というと興味津々になる人もいる。
 要はプレゼンの仕方です。
 本屋さんのPOPは林立しすぎて逆に読みにくくなってるし、ビブリオバトル的イベントも有効でしょうが、同じ時間に人を集めることがたいへん。 となると結局ネット書店のレビューが参考になる、になっちゃうのかな。 それに、初めての作家の人をいきなり買うのは勇気がいるよね。 その入り口として<図書館>ってすごく大事なのに。
 それに、シリーズものだけど途中で翻訳が止まるとか、次作が出るかわからない、とはじめに言われちゃったら「じゃあ読まないほうがいいかなぁ」ってなるのが人情じゃない? そのあたりの解決策を出さずに要求だけ出すなんて・・・ひどいよ。
 図書館で出会って、その後、「自分にとって大切な作家」になる人もいる。 出版社自らその出会いをなくそうとするなんて、読書人口が育たないじゃないか。
 もっと大きな目で見てくださいよ。
 ブログを無料で公開している文筆家の人だって、それがきっかけで自分の著作に興味を持ってくれれば、とリンクフリーにしている人が多いのに。 文芸春秋、時代に逆行してるなぁ。
 というわけで、腹の立ったニュースでした。

posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | 時事問題・ニュースに思うこと | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする