2017年10月11日

三度目の殺人

 これも結構前に観ていたのだけれど・・・なんというか結末に「もやっと感」があるのでいろいろ考えこんでしまっていた。
 まぁ、答えは出ないんだけど・・・多分こういうことなんだろう、という自分なりの消化はできた。
 ともかくも、「役所広司、すげー」に尽きます。 『関ケ原』と比較的近い日程で観たけど、全然違ったし(しかもこっちのほうがより本領発揮って感じ)。 これって助演男優のくくりになっちゃうのかな、主演男優だと思ってしまうけど。 福山とダブル主演なのかなぁ、でも賞をとるなら役所広司のほうだよな、うん、としみじみ思った。

  三度目の殺人P.jpg 犯人は捕まった。真実は逃げ続けた。

 殺人の前科を持つ三隅(役所広司)という男が、働いていた工場を突然クビになったことから社長を恨んで殺し、更に死体に燃料をかけて放火した容疑で逮捕され、自供の結果起訴された。 二度目の殺人、再犯ということで死刑が出てもおかしくない案件。 勝つことが重要と考えている弁護士の重盛(福山雅治)にとっては意味のない裁判だが、所属する事務所の先輩からの頼みでいやいやながら三隅の弁護を引き受けることに。 だが、三隅は会うたびに言うことが変わり、彼の自供は信用できないのではないかと疑い始める。 挙句、被害者の妻である美津江(斉藤由貴)に同情した・彼女から殺人を依頼されたと供述は二転三転。 死刑回避・無期懲役で「勝ち」と考えていた重盛だったが、三隅と接見するたびに自分の中で何かが変化していくような気がして、事件を、三隅という男の存在を再度洗い直していくことにする・・・という話。

  三度目の殺人4.jpg やっぱり今の福山雅治は感情抑え目、エリート系の役のほうが似合う気がする。 コートや鞄も「いかにも弁護士」だし。 『SCOOP!』が残念だったのは、キャラクターに自分自身に近い要素があったためかデフォルメしすぎた感があった。 逆に自分にない“エリート性”を体現するほうが抑えて役に自分をはめていこうとする努力がみられる。 満島くんは若き熱血後輩弁護士です。
 重盛は弁護士としては有能でも、結婚生活は破綻していて時折会う娘との関係も微妙という「エリート的によくある」キャラ。 『そして父になる』要素も抱えていて、弁護士としても偏った思考は後輩や先輩(吉田鋼太郎)からも「それはどうよ・・・」と思われてしまう。 この映画の隠しテーマは『そして弁護士になる』かもしれない。 不本意かもしれないが、彼はこの事件・裁判を通じて自分を見つめ直すことになり、もしかしたらそれを“成長”と呼ぶかもしれない。 でもこの年齢での成長は、否応なく痛みを伴うわけで。

  三度目の殺人2.jpg 斉藤由貴、「母である前に女」という役がプライベートのスキャンダルと相まってものすごくリアルで怖い。 あぁ、スキャンダルがなかったら演技者としてより高く評価されただろうに・・・「てことは地ですか?」と思われかねないこのタイミングでの公開は非常に残念だ。
 そして、ここには更に歪んだ母娘関係が。 美津江の娘・咲江(広瀬すず)は表情があまりない。 ここの家族にも何か秘密があることが早々に明らかに。 キーパーソンである咲江の存在がまさにすべてのカギなんだけれど、女優広瀬すず的にはもう少しがんばってほしかった。 「彼女は(生まれつき)足が悪い」という属性に重きを置きすぎ、もっと表情や目で表現すべきことがあっただろう!、という気がする(そうすればもっとわかりやすい話になったのに)。 でもそう演出したのは監督だしな・・・あえて「もやっと」させるためなんだろう。
 三隅も重盛も北海道出身、という共通点から、すべてを覆いつくす勢いの雪景色が何度も挿入される。 重盛の夢の中でも。 雪や寒さに伴う静謐さのイメージが、この映画の抱える不条理感をちょっと美しいものにしてしまっている、と感じるのは、あたしが北東北出身だからだろうか。 雪がすべてを浄化してくれるような思いを皮膚感覚で理解しているから。 そのあたりは少し佐々木丸美的世界観にも似て、これは是枝監督が意図したものなのかあたし自身のノスタルジー故なのか、ちょっとわからない。
 そして三隅が繰り出す十字架に似たモチーフ(縦が長いキリスト教的なものよりは、赤十字的な縦横の長さが近いもの)の意味は。
 自分を「からっぽ」であると表現する三隅。 それに対して「器」という言葉をチョイスするのはなんだか重盛らしくないなぁ、と感じた。
 そう、なにひとつしっくりこないのだ。 まるで他人の夢解釈のように。
 でも是枝監督がずっと追い求めているテーマ<家族>から読み解けば、これもまた<家族の話>なのである。 血の繋がりによらない、自分で選んだ家族、という意味で。 それが実行か心情かは区別なく、共犯関係ということになる。

  三度目の殺人1.jpg この二人の対峙場面が、いちばんの見どころ。 三隅の底知れなさに重盛が引きずり込まれそうになる心理戦。
 もう、ここ! 役所広司の真骨頂! それにひきずられて、福山も予想以上のことができちゃった感じ。
 どう見ても、キャラとしても三隅のほうが“役者として上”なのである。 それは人生経験の種類の多さでもあり、すべきことはしてもはや守っておきたいものは何もないから。 彼はもう人生を捨てている。 自分にできる目的はもう果たしたから。 そんな捨て身の人間に、普通の人間が勝てるわけがない。
 それ故に、裁判シーンがあまり盛り上がらないというか・・・サスペンス&ミステリー映画として予告していたけれど、そっちを期待すると肩透かしになるかも。 それ以前に、被害者像が出てこないしもはや真犯人はどうでもよい方向に映画は進んでしまっているから。 ただ、心理サスペンスの部分と、死刑制度についても考えさせる社会派の一面はある。
 「結局どうなの?!」と言いたくなるけれども、役所広司の存在感でそこは封じられてしまう。 オープニングのシークエンスすらも、ほんとうは事実ではないのではないか、という疑念すら浮かぶ。
 うまい人だと思ってたけど、こんなにうまかったんだね〜、と改めて納得。
 それだけで、この映画を観た価値はあると思う。 まぁ、映画自体が役所広司に頼ってしまっているようにも見えちゃうけど。

  三度目の殺人6.jpg 役所広司っていくつだっけ。 ついそう思ってしまうくらい、老けこんだというか老いをあえて強調している感じ。
 登場人物たちはみなさんそれぞれ「三隅に振り回された」という感覚のようなのだが・・・供述が二転三転するのは、三隅が「相手が聞きたいこと・知りたいことを察して、その期待に応えるべく話をしている」だけのこと。 意識的か無意識的かはわからないけれど、彼は相手をよろこばせたいのだ。 そして自分の言葉をそのときどきで本当のことだと信じている。 自分の希望はもうすべてかなえたから、自分のことをもう振り返る必要がないから。 だから三隅は揺らがないけど重盛は揺らぐ。 毎回変わる真実の中から<不変の真実>を探そうとするから。
 ラストシーンで、重盛はそのことに気づいただろうか。
 あたしが気になるのはそこだけだ。

ラベル:映画館 日本映画
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする